世の中には非の打ち所がない人間というのがいる。前の職場の直属の上司のS副部長がそうだった。

学生の頃はバレー部だった部長は背が高くてイケメンで爽やかで頭が良かった。小さい頃にお父様を亡くされ、田舎の行事に一家の長として出席しなければならず苦労したようで目上の人とのお付き合いもスマートで嫌味がなかった。

そんな訳で私より10歳近く若かったがS副部長はあれよあれよという間に出世して私が知る限り最短で管理者になったのだった。

その頃私は、1000人以上いる支店の総務部に配属になっていたがそこの支店長のご両親が相次いで亡くなるという大事件がおこった。

10年以上前なので当然お通夜とお葬式は何百人もの人が押しかけた。

その一切合切を取り仕切ったのがS副部長だ。

テキパキと指示しながら自らも率先して動く華麗なるS副部長の姿を、同じ歳のH部長と2人で受付をしながら眺めていた私が

「なんやろなー、あのカッコよさ」

というと、その微妙なニュアンスを正確に感じ取ったH部長は

「確かになー。俺もあの細いズボンを履いたら、足が長くみえるんかな?とか思うもん」

と言った。

そういうH部長はデラックスな体型をしており、そういう問題ではないと思ったがあからさまに否定するのも申し訳ないので

「顔が小さいんですよ、八頭身ですもん。モデルなみですよ!」

と答えると

「ずるいよなー!なんか悪い所ないとさー。あっ、めちゃくちゃ字が汚いかもしれん✨✨✨」

H部長は顔を輝かせ、私が止めるのも聞かずに忙しいS副部長を呼びつけた!

「事務局もここに住所と名前書かなあかんから先に書いといて」

いつ、そんなルールが決まったねん⁉️とギョっとした私とはうらはらに、S副部長は爽やかな笑顔で

「あぁすみません!お疲れ様です」といいながらサラサラと住所と名前を受付表に書いた。

「……」

綺麗過ぎる😱

無言になった私の横でH部長は

「なんやねん‼️カッコええ上に字まで上手いとかなんやねん⁉️そこまできたら嫌味やぞ‼️」

となんの罪もないS副部長に詰め寄っていた。

忙しいS副部長が去った後もH部長は

「悪い所ない奴なんておれへんやろ⁉️めっちゃ足臭いとかさー」と諦めきれない様子だった。それを聞きながら、このやっかみに会う事が一番大変なのかもなぁと初めてS副部長を気の毒に思ったのだった。