母は認知症だ。

まだ初期で近しい人の名前と顔は一致するのだが、家事は一切出来なくなった。

弟夫婦が隣に住んでいるので安心なのだが、毎日固定電話で様子を探る。

携帯電話は取ることができなくなったからだ。

毎日少しずつできる事が減っていき、子供に還っていく母なのだが、唯一救いなのは認知症が進むに連れて嬉し涙や感動してを流す事が多くなった事だ。

それまでも涙もろかったが、悲しくて泣いたり悔しくて泣いたりしていた。

今は

「みんながこんなに良くしてくれて有難い」と泣き

「あんた達みたいな子供に恵まれて幸せ」と言い

空が青いと言って泣き、月が綺麗だと言って泣いている。

嫌な事はすぐ忘れてしまうので、私たちが中々辿り着けない『今を生きる』事が出来ているのだ。

認知症が神様からのプレゼントだという話はあながち嘘ではない。

本当に苦労の多かった母なので、人生の最終章ぐらい、なんの心配も悲しみもない時間を満喫してほしいと思う今日この頃だ。