10年以上前に他界した父は、昭和初期生まれで、会社から帰ってくると着物を着て晩酌をしていた。

頭も含めて、サザエさんに出てくる波平さんそのものだった。性格も波平さんに似ていて、私などは部屋が汚すぎるとキレられそのまま床に置いてあるものをゴミ捨て場に捨てられたりした。

字も達筆で色んなものに毛筆で名前を書いたりしていた。私は年賀状の宛名書きを全て父にまかせていたため父が他界した年の年末には慌てて宛名印刷するためだけのプリンターを買いにいかなければならなかった。

そんな厳格で達筆な父の趣味はテレビで映画を鑑賞することだった。今のようにハードディスクに番組を撮りためる事などできない時代だ。

マメな父は、テレビから映画を一本ずつVHSビデオにとり溜めては、毛筆でタイトルを書いてキチンとテレビ台に並べていた。

ある日、弟が

「おい、ヤバいぞ、あれは」

と言って、並べられた沢山のビデオの一角を指差した。

私は意味が分からず、端からジーッとタイトルを確認していたのだが、あるビデオのところで硬直した。それには

「セックスシンス」と毛筆で大きく書かれていたのだ。

分かる!分かるよ!お父さん。シックスセンスだよね⁉️ブルース・ウィルスのサスペンス映画だよね?

あれは、私も3回ぐらい観たよ!いい映画だよ!

ビデオに撮っておくべき名作だよ!でも、タイトル絶対に間違ったらいけない方向に間違ってるよ!

ピーが入るやつだよ!家族団欒だけじゃなくてお客さまだってくる居間のテレビ台の下にあったらダメだよ!

というわけで、私と弟によりそのVHSは誰にも見られない物置の棚に移されたのだった。