どんなに素晴らしい企業であってもクレーム対応は存在する。

ヒューマンエラーは必ずあるし、すべてコンピューターが処理して間違いなかったとしても

こんなはずじゃなかったというお客さまは必ずいるからだ。

そして謝罪をあっさり受け入れてくれるお客さまもいれば、全く受け入れてくれない人も必ずいる。そういう場合は必ず「上司を出せ!」という事になる。

というわけで、管理者ともなると、自分が全く携わっていない案件でひたすら謝罪を繰り返さないといけないという理不尽な事も多い。

F部長は、そんな修羅場を何度もくぐりぬけてきたスペシャリストである。

今回もF部長に他部署からSOSがきた。他部署からという時点で既にその案件がその部署で対処できないほどややこしい事態に陥っているという事だ。

揉めまくった後なので相手も引くに引けなくなっている場合が多いので、人を変えるというのは正しいやり方ではある。が今回は全面的にこちらに非があり謝罪するも受け入れてもらえず、自宅までこい!との話らしい。もちろん、相手を怒らせた社員は既に「お前とは話をしない!上司を出せ!」となっているため、その社員の上司にF部長が同行するということだった。

指定された時間に訪問すると、既に相手は一軒家の前によくある3段ほどの石段に腰かけてF部長たちを待っていた。

それに気が付くとスペシャリストのF部長は、走って相手の前まで行き

「遅くなって申し訳ありません!」と謝罪した。そして腰かけている相手を見下ろす事にならないように片膝をついて、謝罪と説明をしはじめた。

が、同行した同僚はそこまでクレーム対応に慣れてはいなかった。立ったままF部長の説明を聞いていた。そもそも怒っている相手なので今度は同僚が立ったままなのが気に入らないと

怒り出した。

「この人はちゃんと膝をついているのに、お前はなんで突っ立って俺を見下ろしてるねん!

正座せーや!ここで正座や!」

F部長は心の中でやっぱりなーとため息をついた。そこらへんは想定内だ。

という事で、同僚と二人、アスファルトの道路の上に正座をした。

ただ、想定外の事がおこった。

「お前らだけに正座はさせへん!ワシもする!」

と正座をしたF部長達の前に謝罪相手も正座をしたのだという。

慌ててやめてください!立ってください!と懇願したが、言い出したら聞かないタイプで

一軒家の階段下の一般道で男3人が正座をしたまま話をするというおかしな光景が繰り広げられた。途中であまりにも戻ってこない夫を心配した奥さんが家から出てきて

「あんた!何してんの!?」

と驚いて声をかけてくれたらしいが

「うるさい!お前は家に入っとけ!」と怒鳴られ引っ込んでしまったのだという。

お互い正座をしたままの話し合いは時々通る通行人の注目を浴びながら長く続き、

「わかった」と言ってもらった時には相手の足がしびれて立てなくなっていた。

同僚と二人で相手を両方から腕を持ち上げ、玄関の中まで運び込み

最終的に感謝されたということだ。

さすがクレームのスペシャリスト F部長 これからも頑張ってください。