10年ほど前の話だ
週末にいつものように仕事仲間と遅くまで飲んでいたR子の携帯がなった。
その頃単身赴任をしていたR子の夫からだった。
(そういえば、今日は帰ってくるって言ってたっけ?)
もともと家にいない事を責めるようなタイプの夫ではない。珍しいなと思いながらR子は電話に出た。出たとたん、
「家が荒らされてる!戻ってこい!」と電話の向こうから慌てた声が聞こえてきた。
戻ってこいと言われて戻るようなら、そもそも単身赴任から帰ってくるとわかっている週末に飲みにいったりしない。
「それはあらかじめ居住者によって荒らされてるだけや。慌てる事あれへん。ほな。」
居住者とは自分の事なのだが、R子は落ち着きはらってそう言うと電話を切ろうとしたが、いつもは声を荒げたりしない夫がその時ばかりは
「いつもの部屋の汚さとは違う!めちゃめちゃや!ええからタクシーでいますぐ帰ってこい!」
と怒鳴ったので、さすがのR子も慌てて帰ったのだと言う。
部屋に帰ってみると
タンスや押し入れ、クローゼットが全て開けられ中身が部屋中にぶちまけられていて、ひどい状態だったという。
パソコンや貴金属といった少しでも金目のものは盗まれており、夜中であったが警察を呼ぶことにした。
2名の警察官がすぐに駆け付け、現場検証が始まった。
「見ていてください。こうすると足跡が浮かび上がりますから。」
てきぱきと事情聴取しながら、警察官の一人が廊下の上に懐中電灯を置いてスイッチをつけた。そのとたん、暗闇の中にものすごいほこりと髪の毛が浮かび上がり、R子は警察を呼んだ事を後悔した。泥棒が入った後やから日ごろ掃除も片づけもしていない事はごまかせると思っていたのに・・・。
「犯人は二人組ですかね。一人はつま先で歩いていますね。」
「あっそれ、うちや。」
さきほどのほこりの時には微動だにしなかった夫がさすがにぎょっとしたようにR子をみた。
「あんたは、靴で家の中にあがってんのか」
「今朝、忘れ物をしてちょっと・・・」
「盗まれたものは返ってけーへんし、恥かいただけやったわ!旦那にも後で怒られたし、踏んだり蹴ったりやった。あんたも泥棒に入られた時には警察呼ばんほうがええで。」
そこで自分の行動を一切反省しない友のゆがんだ忠告を聞きながら、とりあえず廊下の掃除だけはしようと心に誓った私だった。