結婚してから衝撃的だったことがある。それは、私の育った環境が賞味期限に対してあまりにもルーズだったという事実である。

新居が近かったため結婚してからも、私は度々実家に帰っていた。ある日夕食の肉じゃがが出ていたので、さっそく食べてみるとこれがまた予想をはるかに超えておいしい。特に肉はやわらかく上質な感じがして、

「お肉おいしいやん。高いやつ?」

とほめると、母は得意げに

「おいしいやろ。それ今日、冷蔵庫の中で色が変わってたやつやねん。お肉って腐りかけが一番おいしいって言うやん。」

と言うではないか。

私は、腐りかけの肉を食べさせられたあげくに、不覚にもおいしいと誉めてしまったらしい。さすがに悔しくて、その日仕事から帰ってきた弟が肉じゃがを食べるのを確認してから、

「おいしいと思って食べてるやろけど、それは、腐りかけの肉を食わされてるんや!」

と指摘してやった。ショックをうけると思いきや弟は、平然と

「いつものことやん。おれなんか、こないだ冷蔵庫に賞味期限が一週間もきれてる豆腐を見つけて、こんなもんまだ冷やしてるわと思ってたら、その日の夕食にそれが出とったんやぞ。」

と言った。さすがに、一緒に暮らしているだけはあると妙に感心した。そういえば、昔、牛乳の消費期限がきれているのを父に指摘したところ

「書いてある日付から一週間は大丈夫だ」というので理由を問いただすと

「わしが飲んだけど大丈夫やったから」と自ら人体実験を試みていたことを思い出した。

とにかく腐っていれば、変な味がするだろうし、わからずに食べてもお腹をこわすだけ、というスタンスで実家の食べ物は毎日出されていたのだという事が結婚して家を出て初めて分かったのだった。