昔チームを組んでいたA子とK子は可愛くて美人だったにもかかわらず、ハードはいいのに入れるソフトを間違えたんやなとよく残念がられていた。

仕事は確実にこなすが、基本人にあわせるということはせず、二人とも自分の欲望に忠実で他人からどう思われるかということにあまり頓着しないタイプだった。

そして、あの人達は自由に生きているねぇという周囲の温かい理解のもと楽しく仕事をしていた。そしてその二人の上司であった私は、周囲から「猛獣使い」の異名をとっており、二人の上司ということで「えらいねぇ、大変だねぇ」と憐憫の目でみられていた。

 

ある日、A子がランチを食べ終わった後に、雑誌を取り出して机の上に広げた。

「みてみてー。この雑誌すごいねん。モテたい貴方に!っていうコンセプトで色んなグッズを売ってるねん。」

その雑誌には、それこそ金運、恋愛運、幸福運が飛躍的にアップするといううたい文句とともにキーホルダーやパワーストーン、楽して痩せる薬やマッチョになるためのグッズが、たくさんの成功体験とともにこれでもかと掲載されていた。

(怪しすぎる・・・)

と私は思った。まさかこんな怪しい雑誌のグッズを買う人なんていないだろう。

と思った矢先に

「私が買ったのはコレ♥」とA子が雑誌の一ページを指さしたので驚いた。

そこには、足の甲にマジックテープでベルトを固定するだけでみるみる痩せるとあった。値段は2980円。

「ホンマに買ったん!?嘘やろ?」

「買ったよ!ほら♥」

あろうことかA子は既にそのベルトを装着していた。

「痩せすぎて困っちゃうって書いてるねん。どうしよー♥」

何がどうしよー♥だ!困っちゃうのはこっちだ!

がっつり説教をしてやろうと思ったとたん、隣で舐めるように雑誌を見ていたK子が

「私はこれにする!好きな相手に飲ませる惚れ薬。ほれーる♥」

こいつもか!

「そんな怪しい薬、他人に飲ますなんて犯罪や!あかん!」

「9800円もするんだから、怪しくないよ」

「値段じゃない!どんな根拠やねん!」

がっつり相手の思うつぼじゃないか。私は絶妙な値段のつけ方に感心しながら、ここは自分の知り合いに犯罪者を出さないためにも絶対阻止せねばと

「だいたい誰に飲ませるつもりやねん!?」

と聞くと

「もちろん憧れのBさんです。でも私が話しかけるのは恥ずかしいので、きなこさんが飲ませてください。」

「なんでやねん!」

そもそも営業のエースのBさんは既婚者で、私が代わりに惚れ薬をのませたら、あんたじゃなくて私に惚れることになるじゃないか。

もうどこからどうツッコんだらいいのか分からず、私は「とにかく駄目!」と言ってこの話を打ち切った。

 

家に帰って私は夫にその話をした。

夫は大笑いをしながら

「俺、惚れ薬 ほれーるの解毒剤を作るわ。ホレナインH軟膏。どう?」

飲み薬の解毒剤がなんで塗り薬やねん?」

職場だけでなく自宅でもツッコまんねばならない事に軽いめまいを覚えながらどっと疲れが増したような気がした私だった。