輸送中の荷物の隙間でハムスターが発見されたとの通報があり、保護されて総務部であるわが職場に連れてこられたのは去年の5月の半ばだった。

たまたま、総務部の部屋続きに動物好きな副支店長の個室があり、ハムスターはそのままその部屋で飼育されることとなった。

まだ小さなハムスターは愛らしく、メロメロになった副支店長が重要な会議や来客の時もテーブルの上にハムスターを解き放つため、困惑しているお客様の前にハムスターを避けてお茶を出さなければならなかった。

しばらくするとハムスターは随分大きくなってきた。ハムスターを飼うのが初めてだった副支店長がネットで検索したところ40g平均のところを5gもオーバーしている事が判明した。

両手で餌を持つ姿が可愛くて、ついついひまわりの種をやりすぎたらしい。

副支店長は、慌てて、お散歩ボールを買ってきて散歩させると張り切っていたが、すぐに飽きて総務部の部屋にハムスターを入れたボールを運んできた。

そうなるとサラリーマンの悲しい性でいつのまにか、総務部にハムスターの専属秘書なるものが設けられ、昼休みに30分ほど部屋の中をコロコロと散歩するハムスターの後ろを大の大人が2名も護衛に付き従うというおかしな光景が日常になった。

 

季節は移り、例年以上に暑い夏がきた。

ハムスターは一日中26度に設定された天国のような環境で過ごしていた。

毎日ご飯をもらって声をかけられているうちに、どんどん人慣れしたハムスターは呼ぶと出てくるようになり自ら手の上に乗るようになった。

特に四六時中一緒にいる副支店長には懐いており、それが溺愛ぶりに拍車をかけることになっていた。

そんな平和なある夏の日、突然、部屋のクーラーが壊れるという事件がおこった。

部屋には熱風が吹きすさび、私たちは汗だくになりながら仕事をしなければならなかった。

もちろん続き部屋である副支店長の部屋も例外ではなく、どんどん気温が上昇する部屋からハムスターをカゴごと抱きかかえた副支店長が出てきて珍しく声を荒げた。

「エアコン早く直して!ハムが可哀そうやんか!」

暑さで朦朧としながらも、その場にいた全員が

「私たちは可哀そうじゃないのか!?」

と思ったが、口に出せるわけもなく、ハムスターは副支店長の手によりエアコンが壊れていない涼しい部屋へと移されそこで快適ライフを満喫していた。

そして3月。副支店長に人事異動の内示が下った。さすがにこのままハムスターを置いていくわけにもいかず、離れがたい副支店長が自宅へ連れて帰ることとなった。

最終日、ハムスターをてのひらに乗せ最後の挨拶をする副支店長の姿があった。

残念ながら、ちょろちょろと動き回るハムスターが気になって挨拶の内容がほどんど入ってこなかったのだが・・・。

 

転勤してから一か月ぐらいたった頃、たまたま副支店長にハムスターの近況を聞く機会があった。

新しい職場では当然のことながらハムスターを飼うことができなかったため、娘さんに世話をまかせっきりにしたところ、あんなに懐いていたハムスターが手に乗るどころか、副支店長が呼んでも小屋から出てこなくなったと嘆いていた。

ちょっと切ない話である。