もう十数年前になるだろうか?

ある夏の日、おしゃれ番長のAが出勤するなり駆け寄ってきた。

「みてみてー!これ〇ッチの夏の新作!」

彼女が掲げたカバンは夏の新作というだけあり、いつもはベージュに茶色のロゴが有名なブランドなのに全体が白そして真ん中に黒とオレンジの縦のラインが入ったとても珍しいタイプだった。

小ぶりのスポーツバックのような形も珍しいそのカバンには、ラインの上にブランドマークであるGが燦然と輝いていた。

「すごい!こんなの見たことない!」

「でしょ?でしょ?可愛いでしょ♡」

Aはご機嫌で毎日そのお気に入りのカバンで出勤していた。

しばらくたったある日の事である。

 

「おー!ええカバンもってるやん」

彼女の上司が例のカバンに目をとめた。

「わかります!?」

お気に入りのカバンを誉められたAは、目を輝かせてカバンを掲げてみせた。

「そりゃ見たら一発でわかるわ!ジャイアンツやろ?」

「え・・・?」

Aは一瞬絶句し、カバンを確認したあと、ものすごい勢いで否定した。

「違いますよ!〇ッチですよ!」

「何いうてんねん。白地にオレンジと黒のライン、そしてGのマーク。どっからどうみてもジャイアンツやないか」

「いやーっつ!!」

 

某有名ブランドの夏の新作が、新作どころかベタなプロ野球のカバンと間違えられた事にショックを受け、彼女が次の日から二度とそのカバンを職場に持ってこなかった事は言うまでもない。