春になると我が家では鳩たちとの闘いがはじまる。

ベランダに巣を作ろうとする鳩とそれを阻止しようとする私との闘いだ。

夫婦共働きで家を空ける時間が長い我が家は、巣立ちした後の卵の殻が見つかったこともある優良物件。マンションの9階であるにもかかわらず毎年のように鳩の夫婦が入居しようと飛来してくるのだ。

だったら、もっと一目につかない場所を選んで、そっと子育てをしてくれればいいのに、なぜかリビングからベランダに出るための一番大きな窓の前に巣を作りたいらしく、手すりの部分にとまってこちらを窺う鳩と睨みあう日々が続いていた。

その日は粗大ゴミを出す日で私はベランダに置いてあった大きなゴミを出そうと持ち上げた。

そのとたん、ベランダの隅に潜んでいた鳩が驚いて飛び出してきたのだ。

そしてあろうことか、大きく開け放っていた窓から部屋の中に飛び込んだのだ。

「ギャー!!」

私は近所迷惑な悲鳴をあげて鳩を追って自分も部屋の中に飛び込んだ。

リビングでくつろいでいた夫は突然飛び込んできた鳩と私にビックリして飛び起きたが、なぜか同じく驚いて固まっていた猫を押さえつけ

「早く!」と叫んだ。

早くって何!?早く捕まえろって事?なんで私が!?

と思っているうちに、鳩はバタバタと羽ばたきながらリビングから廊下をとおって奥の寝室へ飛んでいく。

「いやーっっ!!」

それをみた私は再びパニックになり悲鳴をあげながら鳩を追いかけた。

今思うと他に方法があったのではないかと思うが、その時はそんな余裕もなくベッドに降り立った鳩に必死で両手をのばした。

「!!」

つかんだ!鳩を両手でつかんでしまった!

あっさり捕まるとも思わず、思った以上に大きくあたたかい鳩をつかんだまま、茫然とリビングに戻るとそこにはまだ猫を押さえたままの夫が微動だにせずいた。

「・・・お前、よく素手で捕まえたな」

夫は信じられないという風につぶやいた。

いやいや、信じられないのは私だよ。そもそもなんで私が捕まえてんの?あんたが押さえてるその猫動いてなかったじゃん。

いざという時全く頼りにならない男どもめ(夫と猫)と内心ブリブリ怒りながら鳩をベランダから飛ばした。

リビングに戻ってきた私にねぎらいの言葉の一つでもあるのかと思いきや、夫は一言こういった。

「鳩は雑菌が多いっていうから、ちゃんと手を洗っとけよ」

いざという時頼れるのは自分だけだ!私は無言で手を洗いながら本日の教訓をしみじみ嚙み締めたのであった。