博多座「東海道四谷怪談」 | 私のいつも

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夫と二人暮らし。
日々の記録。

ガーデンシティで昼食後、一旦ホテルに戻って少しゆっくりした後、

博多座へ。

 

 

◆博多座開場二十五周年記念

六月博多座大歌舞伎 「東海道四谷怪談」

お岩様、小仏小平、佐藤与茂七 (三役) : 尾上右近

民谷伊右衛門 : 尾上松也

 

四幕十場、3時間以上の長丁場。

歌舞伎を劇場で観るのは四回目。

セリフも筋立ても、その場で理解できるわけではないので、

事前にしっかり予習していた方が何倍も楽しめることがわかってきた。

 

あらすじだけではなく、当時の常識や、歌舞伎ならではの約束事がわかっていた方が断然おもしろい。

なので、私なりに本を読むなど準備はしたが、それでも今思えばよくわかってなかった。(それほど複雑)

でも、公演を観たら腑に落ちたところがたくさんあった。

 

間違っているところもあるかもしれないけど、せっかくなので書き留めておこうと思う。

(人物像や筋立てを正確に書くのは難しいので、端折ってます)

 

 嫉妬の物語ではなかった

子どもの頃からいわゆる「怪談」としてお馴染みの「お岩さん」。

 

お岩様が毒を盛られるのは、「モテモテの伊右衛門にお岩様が嫉妬したから」、という解釈も聞いたことあるけど、この物語はそうではなかった。

 

・お岩様は、あくまでも善人。

・伊右衛門は、かつて御用金を横領したことがある悪人。

・公金横領をお岩様の父、四谷左門に咎められ、なんとその左門を殺してしまう。

 

・そうとは知らず、「父の仇を討って」、と当の伊右衛門に頼むお岩様。

せつない・・・。

 

・伊右衛門は、隣家の伊藤家(金持ち)の孫娘に恋心を寄せられ、縁談を持ちかけられる。

最初こそ断るものの、お金を渡され仕官を条件に出されると、祝言をあげることに同意する。

 

・お岩様は、伊藤家からも伊右衛門からも邪魔者となり、悲しい運命をたどる。

 

◆つまり、父の仇を討ってほしくて伊右衛門を頼りにしているお岩様と、

欲に目がくらみ、お岩様を裏切る伊右衛門の物語なのだ。

 

 「忠臣蔵」との関連

 

四谷怪談の背景に「忠臣蔵」の物語があるなんて知らなかった。

 

・民谷伊右衛門は、塩冶浪人、

・お岩様を殺すための毒を伊右衛門に渡す隣家の伊藤家は、高家の家臣。

 

・物語の後半、伊藤家の人々は、伊右衛門に殺されてしまう。

つまり、伊藤家(=高家)が伊右衛門(=塩冶浪人)に切られ、間接的に大きな物語としての仇討ちが成立する。(とても義士とは言えない伊右衛門の手によって、ではあるが)

 

・その後、公金横領した不忠義者である伊右衛門は、同じく塩冶浪人である佐藤与茂七に成敗される。

与茂七はお岩様の妹の夫であるので、これにより、殺されたお岩様(と左門)の仇が打たれる。

 

つまり、複数の仇討ちの物語が織り込まれているのだ。

 

右近さんの演技

お岩様を演じた尾上右近さん。

とってもお上手だった。

中でも心に残った場面がいくつか。

 

・お岩様は、産後の肥立ちが悪く伏せている。

伊藤家の乳母が血の道の薬(実は毒薬)を持ってくる。

 

一人になり、感謝の言葉を独白するお岩様。

這うように湯呑を取りに行き、ゆっくりと白湯を入れる。

丁寧に薬の包みを開き、少しも無駄にしないように手のひらに受け、口に含む。

ゆっくりと白湯をのんだ後、手のひらと包みに残った粉も丁寧に湯呑に落として飲み、「これで元気になる」と、また感謝する。

 

観客の全員が、「飲んじゃダメ~~!」と心で叫んだに違いない。

ここの演技が丁寧で感謝の心がこもっているからこそ、後の展開がつらい。

 

・毒がまわり、だんだんに力が入らなくなり、坊やへともらった産着をポトッと落とす。

お岩様の戸惑いと絶望。

 

せつなくて、泣きそうになった。

 

・薬は、実は毒だったと告げられるお岩様。

「その毒をあんなに感謝して私はのんだのか!」と、感情を露わにする。

 

この場面、「薬だとだまされて恥ずかしい!」というセリフが、私には感慨深かった。

 

もしこれが現代劇なら、「悔しい」「悲しい」、と言うところだと思うけど、

お岩様は「恥ずかしい」と言った。

 

お岩様は武家の娘、騙されて陰で笑いものにされることは何よりの恥、と思ったのに違いない。

 

名誉を傷つけられたからには、汚名をすすがなくてはならない。

だからこそ、お岩様は幽霊になってまで伊右衛門を追い詰める。

そして最後に、与茂七が降りしきる雪の中、刀によって伊右衛門を成敗することで、お岩様の名誉は回復され、私たちは胸の内で快哉を叫ぶ。

 

そんな「恥」と「名誉」を軸に物語を考察するのも面白いと思った。

 

(話が飛ぶけど、私は、この「いじめの被害者の側がいじめられたことを恥と思ってしまう心理的土壌」が、いじめの被害者をより追い詰めるのではないか、という気がしている。世界のどこでもそうかもしれないけど、日本では特にそうではないか)

 

・隣家へ行こうと、身支度を整えだすお岩様。

鉄漿(お歯黒)をつけ、母の形見の櫛で髪を梳くが、毒が回り、髪がごっそりと抜けてしまう・・・。

鏡をみて、嘆くお岩様。

 

鉄漿を付けるのは、「私が伊右衛門様の妻なのだぞ」というお岩様の意地だそう。

(事前勉強した本に書いてあった)

お岩様・・・。女心ですね。

鏡を見て、「これが私かぇ」と悲痛な声のお岩様、泣けた。

 

他にもいろいろな場面があったけど、

とにかく、右近さんの演技が素晴らしかった!

 

右近さんは、この舞台で三役をこなす。

最後、与茂七役でのキビキビと軽快な立ち回り、お見事だった。

スカッとした!

ファンになった。キューンキューン気づき気づき

 

 

松也さんの演技

・伊右衛門を、本当に嫌な感じで演じてた。ムキー

大嫌いになった。

うそ、ファンになった。笑

 

 

・質に出すため、お岩様の着物のみならず、坊やの着物や蚊帳まで取り上げる伊右衛門。

 

人間じゃねえ。

 

・「蚊帳だけはやめてください、坊やが蚊に攻められます」

というお岩様に、

 

「そんなの知るか、親ならお前が一晩中蚊を払ってやれ」

という伊右衛門。

 

く~~~~~~~~~!!!!!!

殴りてえ!

 

 

この顔!
憎たらしい!
とっても素敵な舞台だった。

もう一度観たいくらいだった。

 

体調が万全でないので、今回は幕の内弁当ではなく、「博多座」の焼き印がついたあんぱんを。

 

帰りに、リーズナブルなお蕎麦屋さんへ。

シンプルなもり蕎麦を美味しくいただきながら、夫とずっとこの舞台の話をした。

とってもおもしろかった!