一 七十歳定年近づく
一九七六年から四十五年もフルタイムで働き続け、出勤もせず家にいるイメージが、わかなくなってしまった。本来は五十五歳で会社を退職して、グループ会社で六十歳まで勤め、年金生活にはいるくらいのつもりでいたが、特に辞める理由もなく、周囲の仲間と働き続けていたら、再来年は七十歳定年という所まで来てしまった。
さすがに七十歳を超えると働き口も少なくなり、ほとんどの先輩方も年金生活をされているので、いよいよ覚悟を決めて、完全リタイア生活の準備を本格的にはじめることにした。
二 たまにはアウトプットしよう
今の生活は毎日、新聞二紙を読んで、ドコモのマイマガジンでほとんどの週刊誌に目を通し、昼はネット、夜はテレビのニュース解説を見て寝てしまう。摂取する情報の量は膨大なものになるが、知識をため込むだけで出す場がないと、欲求不満になってしまう。
三 そうだ、電子書籍がある
自費出版で本を作るには多額の費用が必要だし、本が売れなければ在庫の山を抱えなければならない。しかも今の若者は本を読まず、スマホやパソコンばかり見ている。
そこで、今流行りの電子書籍に目をつけた。以前からアマゾン社のキンドル版を見ていたこともあり、これを利用することにした。キンドルの電子書籍は、電子データーを送れば無料で出版ができ、しかもPOD(プリント・オブ・デマンド)で、紙の本も無料で作ることができる。この紙の本は注文印刷なので、一冊ごとにアマゾンに注文をすることになるが、何より在庫を持たなくて済むのが魅力だ。
四 代行業者に原稿まる投げ
電子書籍や注文印刷本が無料で出版できると言っても、キンドル出版用の電子データーを作ることは、素人には難しい。そこで「代行業者」が存在するということを、インターネットを見て初めて知った。
私がお願いをした代行業者は、ほとんど一人で電子メールのやり取りにより仕事をしており、代行出版料金は電子書籍が一回五万円、紙の注文印刷をオプションでする場合は、さらに五万円の追加料金で、全てをやってもらえた。
原稿はワードで作成し、一応タテ書きで実際の本のイメージにして送ったが、予想外だったのは、行間を詰めたため、本にした時のページ数が、希望よりかなり少なくなってしまったことである。
五 わが子育てを本にする
電子書籍の出版をすることにしたが、出版する中身は本にして売れそうなものでなければ、面白くない。今の私が書くことができる売れそうな内容はと考えると、四人の子供を大卒の公務員にしたことくらいだろうと思いついた。これならかなりの時間を子供たちのために費やし、ある程度の成果もあがっていることから、自分の経験を社会の役に立てることができると思った。
わが家の子育て戦略は、子供が四人もいることから高校までは公立とし、高校でセンター試験の勉強をして国立大学を目指すというものだった。しかし、子供たちもそんなに勉強に打ち込んでいた訳ではないので、結局四人とも国家総合職などの「偉い公務員」にはならず、「普通の公務員」に落ち着いてしまった。
そこで本のタイトルを、「あなたの子供を『普通の公務員』にしよう」として、空いた時間を見つけては文章を書き、一万一千字ほどの原稿を作って、代行業者に送信した。
六 表紙の候補は十六種類
電子書籍の文字数は、一万五千字から三万字と言われているので、一万一千字はやや少なめだったが、行間を広くとれば何とか格好がつくと、安易に考えていた。
また、私が依頼をした代行業者は、表紙を十六種類も用意してくれたので、その中で本の中身をよく反映しているものを一つ選んだ。
本の大きさは、B六版の単行本サイズとした。
七 販売価格と印税
今回出版した本の販売価格は税込みで、電子書籍が一冊五百円、紙の注文印刷は一冊千円に設定した。
印税については、電子書籍は販売価格の七十パーセント、紙の書籍は十パーセントがもらえる。さらに電子書籍には読み放題サービスがあり、読まれたページ数によりもらえる印税もある。電子書籍の販売実績はロイヤリティーのレポートで翌日に見ることができるが、紙の書籍の報告は翌月くらいになる。小額にせよ、自分の書いたものにお金を払って読んでくれる人がいるというのは、嬉しい。
また電子書籍も紙の書籍も、写真付の著者略歴を載せられるので、「作家」になった気分を味わうことができる。
八 おわりに
今回は初めての出版で、ページ数など思い通りにならなかったこともあるが、ほぼ満足のいく内容で、キンドル出版を体験することができた。次の機会はいつになるか分からないが、リタイア後の趣味として、またチャレンジをしてみたい。
新型コロナウイルスの流行は職場や家庭のあり方を変え、在宅勤務やオンライン会議などのリモートワークが定着してきた。インターネットで結ばれた新しい社会は、高齢者にはむしろ、住みやすい世界かも知れない。リアルの仕事や趣味の活動には参加しにくい高齢者も、顔が見えず場所を選ばないバーチャルな世界では、ITのスキルさえあれば問題なく参加できる。
七十歳を超えると働き口が少なくなり、社会活動の範囲も狭くなると言われているが、インターネットで結ばれた世界は、実力次第で活躍するチャンスがあるだろう。
今回のキンドル出版を突破口として、コロナ後の激変する新しい時代を生き抜いて行きたい。
☆激変の世なれど高き意気を持ち電脳社会を生き延びるのだ