『ポーラ✖』…真の人生を生きたいと願う若者の心・・・レオス・カラックス監督・・(仏・独・端) | 吐夢の映画日記と日々の雑感

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基本、鑑賞後の感想ですのでネタバレが殆どです。
ご了承くださりませ。

    『ポーラ✕』


    
カラックスさんが『ボンヌフの恋人』以来八年ぶりにメガホンを取った本作品,〔ポーラX〕.

ボーイ・ミーツ・ガール 1983年  デビュー作
汚れた血        1986年
ポンヌフの恋人     1991年
レックス三部作といわれたレオス・カラックス作品。
 

当時難解と評され、どれもが若者の孤独やエゴ、憧れや怒りを

詩的なセリフと感覚的な映像にのせて、 

多くの若者たちにとって自分達自身のことを語っている青春映画として

 熱狂を博したが、興行的には収支があわなかったようである。

 その<ボンヌフの恋人>から8年後に

さらに難解な<ポーラⅩが製作された。

 カラックスは当時、ジュリエット・ビノシュと恋人関係にあったが

ボンヌフ撮影中に破局を迎え、それが原因で映画製作が出来ない精神状態が

 続いたようである。

1990年代の西欧といえば、コソボやユーゴの混乱に

悩まされた時代だったと思う。
 溢れる難民の流入に手を焼いていた。
そういった人たちを受け入れる国もあれば、
 拒否反応を起こす国もあるはず。

おそらく大半は後者であろう。

 この作品では

何不自由ない身分のお坊ちゃまがその純粋さゆえに

社会の不穏な渦に呑み込まれ、流されていった・・・・・

姉と名乗る女性の出現を機に、真実の人生を求めて彷徨をはじめる青年の姿を描いたドラマ


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主人公ピエール(ギョーム.ドパルデユー)は

 パリから離れたところのまるでお城のような邸で

   母と(カトリーヌ.ドヌーブ)と

     暮らしている。



のどかな風景です。

スプリンクラーが撒き散らす水しぶきはここの生活がいかに

何不自由の無い贅沢な生活であろう” かを映しだします。



芝生の先には、世間的な感覚で言えば、

お城に近いほどのお屋敷です。

 

身につけているお洋服は全員真っ白なコスチューム。

ピエールは、母親の話しで、父親の姿を知ります。

城館があるのは、パリからさほど遠くない森の中のにあります。

彼のフィアンセのリシュル(デルフィーヌ・シェイヨー)が、近くに

これも立派なお邸に住んでいます。

ピエールとフィアンセが手をつないで

草原を駆け下りるシーンは、ふたりが

とてもとても幸せそうでした。



ピエールは、””この草原は僕たちの成長を見守ってきたんだ””と

リシュルに告げます。

まだ大学生かなと思われる少女みたいなフィアンセは、

この世の幸せを独占するかのような明るくのびのびとした笑い声をあげています。

ピエールは
アラジンと名乗る謎の新進作家。

高名な政治家でもある父を持ち、

リュシルいう美しい婚約者もいる。

ある日、彼女の姉イザベル(カトリーヌ.コルベア)と名乗る

女性が現れます。

”この世を越える きっかけを得た”と感じたピエールは

母も婚約者リュシル(デルフィーヌ・シェイヨー)も棄て、

イザベルに誘われるまま

 彼女と友人、その子供を引き連れて、パリに移り住む。



従兄のティボー(ローラン・リュカ)を訪ねたピエール。

相手にもされずすげなく追い返された。

イザベルは父アラジンを訪ねてきた?

彼女は
≪東≫の国の戦火を逃れてきた不法入国者だった。

 ..純粋としておこう...ピエールは彼女を信じ、

パリ市民の外敵から守ろうとするが、
 

出版社も、親友もみんな彼を見限った。


 社会の彼に対する軽視は
 それまでの彼には無縁のものであったが、

 彼女と居る事で、
 宿泊所は拒否され、タクシーからも引き摺り下ろされ、
 警察におびえる彼女達に驚きながら、パリの街を彷徨う。



やがてふたりは音楽活動と武装訓練に余念がないアンダーグラウンド集団が
巣喰っている廃墟の倉庫にすみかを定める。
そうやって、ピエールは創作活動を始めた。

あんなに美しかった昔のピエールは、

 段々、老醜さえ感じる顔に変貌。
 視力も衰え、杖を突いて歩くようになる。...

本当にイザベルが彼の姉だという証拠はない。

彼女が生き残るために政治家の父を持つピエールを利用しようとしたのかも知れない。

イザベルは自分の存在が彼を不幸にしていると思い、
自殺を図ったりもするが、

 これはピエールの選択なのである。
 

少なくとも、フランス社会の中心にいた人物の彼が選んだのである。

 身分も教養も、財産も法の秩序もみんな標準以上の生活の彼が、

 越える境界線はこんなにも簡単に...そしてこんなことだったのか??

 彼の行動には理想も、思想も見えてこない。

 

ただ、差別の敵に闇雲に歯向かっているだけだ。

 彼ほどの財力があれば、もっと他の方法もあっただろうに。

そしてやがて、母の死と婚約者だったリシュルの病気を知らされるが。

リシュルは従兄の止めるのも聞かずに
 

パリへやってきて自分がかつて婚約者だったことを伏せて
 

ピエールとイザベルの元に強引に身を寄せた。
 

青年が人間としての幸せを失ってしまう

彼女にとっては不幸のどん底に落ちていってしまう=すべての外側の世界に

行こうとしていることを

本能的に悟っているからです。

青年の人間としての幸せを一番に考えるフィアンセリシュルは、

青年のことが心配で心配でならなかったから。

生活は窮迫してきたことに

イザベルは自分がピエールの幸せを

壊しているのではないかとセーヌ川に身を投げた。



運よく??助かったものの、従兄のテイボーからリシュルがピエールの

婚約者であることを知らされる。
 

ピエールはテイボーの口に銃口を突っ込み,発砲した。
一族を根絶やしにしてやる」と叫んで。

超えるとは・・・

幸せそうに見えた・・彼にとってはうつろな
充たされない家庭への反発もあり、心のうずきのようなものだったと思うのですが

充たしてくれるのはイザベルでもない、リシュルでもない。

時には自分ひとりで乗り越えなければならない。自分の心の問題でしょうから。

イザベルはそう告げたかったのではないでしょうか。

逮捕されるピエールを見てイザベルは突然

”わたしの弟ピエール!!”と叫んで

再度、車の波に身を投げた。

呆然とするだけのピエールだった。

ボンヌフの恋人で、人間の成長を美しく描いたカレックスが、

あの時代の社会状況、政治を風刺して、

ありのままを描いたのだろう本作品。

ピエールの心と行動.....は
 

(真の人生を生きたい)と

願った青年が隠された真実を知るための旅に出る物語のようでした。

で、隠された真実とは

真実を知りたいと思わせてくれた姉に出会ったことそのことが

真実なのかもしれません。

前半のそれはそれは幸せそうに見える映像は結構長く

後半、堕ちて堕ちてゆく底辺の青年像を

カラックス流に表現するとこんな映像になるのでしょう。
 

封切当時、若者特に若い女性にとって

(ボンヌフの恋人)は絶大なる人気を誇り、

フランス映画で一番好き!!と答える女性が多かったことを思い出します。

第52回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品。

監督   レオス・カラックス

原作   ハーマン・メルヴィルの『ピエール』。


キャスト

    ギョーム・ドパルデュー ・・・・・ピエール
 

    カテリーナ・ゴルベワ  ・・・・イザベル

    カトリーヌ・ドヌーヴ  ・・・・母マリア 

  ギョーム・ドバルデユーは37歳で夭折しています。

 

   

急性肺炎だとか・・彼の父上は名優ジェラール・ドバルデユー。

わたしの記憶ではトリュホー監督、ドヌーブ主演の『終電車』でのベルナール役の俳優さん。

たしか、この作品でセザール賞主演男優賞を獲得している。

レオス・カラックスの魅力って

緑色を積極的に使用している映像の美しさとか

歌と音楽での撮影がとてもナチュラルに感じられるなど・・

23歳の時の『ボーイ・ミーツ・ガール』での長編デビュー

まさに早熟といえます。

重くて、暗くて、救いのない・・けれど嫌いではない。でも、

作品としては『ボンヌフの恋人』のほうが好きです。