(天城越え)・大胆な演技とはかなげな笑顔の魅力・・田中裕子さん・・1983年度作品 | 吐夢の映画日記と日々の雑感

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     (天城越え)

 

こんばんは。いつもご訪問ありがとうございます。

 

今夜のお題は  (天城越え)でございます。

 

スタッフ

 

監督   三村晴彦
製作   野村芳太郎、宮島秀司
脚本   三村晴彦、加藤泰


キャスト
静岡県警本部・田島刑事  渡瀬恒彦
大塚ハナ         田中裕子
小野寺建造        伊藤洋一、平 幹二郎

被害者大工        金子研三  
旅で出会う菓子屋     坂上二郎
旅で出会う呉服屋     柄本 明
土谷良作         石橋蓮司
良作の妻         樹木希林
茶店の婆さん       北林谷枝
建造の母         吉行和子
建造の叔父        小倉一郎
江藤署長         佐藤 慶
山田警部補        山谷初男

 

モントリオール映画祭といえば数々の日本作品が受賞している映画祭である。

 

最近では舘ひろしさんが作品(終った人)で主演男優賞を受賞したとか。

 

ヴイヨンの妻や悪人、わが母の記、利休にたずねよ、新しいところでは

 

(散り椿)と賞はそれぞれ違うがかなりの作品がお馴染の映画祭である。

 

そのモントリオール国際映画祭が始まったのが、1978年

 

まだ間もない頃の1983年に

 

(天城越え)で主演女優賞を獲得した田中裕子さんを思い出しました。

 

監督の三村晴彦さんの監督昇進第一作目がこの(天城越え)である。

 

1983年度のキネマ旬報ベストテンの第八位。

 

だが、わたしは本作品はさておき、最近改めてはまってしまったTVドラマの

 

(剣客商売)の第一期、二期、四期、五期シリーズの監督をされていることを

 

知りました。池波正太郎作品はとても好きで(鬼平犯科帳)や、(光と影)もただいま

 

スカパー鑑賞ではまっております。

 

 

その(剣客商売)の演出の上手さは何度見ても飽きない魅力があります。

 

ということで色んな分野の作品で才を発揮されている三村さんの

 

(天城越え)を取り上げます。  

 

原作は言わずとしれた松本清張。

 

その原作に母を恋うる少年の思いをプラスして

 

本作品はとても情念に満ちた三村ワールドとなっている。

 

やはりこの作品のすばらしさは主演の田中裕子さんの好演に

 

いや存在にあると思います。

 

強烈な印象を与えた彼女ですが、私は彼女の演技ではない持って生まれた

 

醸し出される独特の雰囲気がおハナという女性と重なってみえます。

 

彼女の醸し出すものは演技を超えたオーラ・・・演じなくとも

 

田中裕子が重なる役がいつも彼女の演じる役柄にはあると思うのですね。

 

つかみどころの無い、妖艶であるがいやらしくはない。そして人の心を

 

見透かしているそんな田中裕子の個性がぴたりと来る役どころで光る。

 

このハナという娼婦は(天城越え)と共に後世に語り継がれるはずだ・

 

ストーリー

 

ハンチングをかぶりマスクをし、スーツを着て汗びっしょり掻き、足を引きずって歩く男が

 

雑踏を抜け、ビルの階段を辛そうに上がって行った。

 

たどり着いたその事務所は 港印刷 。

 

小野寺という男が経営する印刷屋だった。

 

汗びっしょりになり、辛そうに足をかばいながら・・そんなにまでして逢いたかった男小野寺は

 

病院で診察を受けていた。

 

女子事務員が 渡してくれた名刺には田島と書いてあった。

 

そして、渡された菓子箱を開けると  (天城峠土工殺人事件資料)と書かれた刑事調書が入っていた。

 

事件が起きたのは昭和15年6月15日とある。

 

田島は県警の依頼で来たようだった。

 

 

小野寺はその原稿を見て激しい衝撃を受けた。

 

小野寺が十四歳の頃を思い浮かべる回想シーンへと・・・・

 

この導入部のやぼったさに比べ、これから始まる回想シーンは

 

非常にすばらしい。

 

夏のうっそうとした山中。

 

山の匂いが伝わってくるような湿気と高温と靄・

 

その中を歩いてゆく小野寺少年。

 

小野寺は十四歳のとき、母の情事を目撃した。

 

彼にとって、それまでは母は神であり恋人であった。

 

亡くなった父を裏切った母(吉行和子)が許せず、発作的に家を飛び出し、

 

修善寺にいる兄を訪ねるべく天城越えの旅に出たのだった。

 

天城越えをしようと思ったのは、

 

川端康成の伊豆の踊り子に影響を受けたせいもあった。

 

トンネルを抜けた時の少年のクローズアップの顔。

 

伊藤洋一君・・・近年の映画界にはいない

 

大正、昭和の時代の雰囲気のきりりとした少年。いいですねえ。

 

この作品はサスペンスであるが、ロードムービー的な要素もあり

 

先に書いたキャストでも分かるようにたくさんの名優たちが

 

ちょっとづつ登場する。

 

まず最初に出会ったのは菓子の行商人の坂上二郎さん

 

なけなしのお金でパン菓子を分けてもらい途中一緒に歩く。

 

次に出会ったのは呉服行商人の柄本 明さん。

 

滝の轟音と静寂の対比の中を二人は歩く。

 

茶店で一休み

 

茶店のばあ様は北林谷枝さん。

 

 

そしてすれ違った男は土工のようで、汚い身なりで少し知恵が遅れているようにも見える。

 

少年は交わす会話の中で、柄本さんが言った”この世で怖いものは人間かもしれない”と言った言葉で

 

土工を見たときにとても怖くなり、

 

柄本さんと分かれてから、

 

色んな物音を立てる山の中が今やっと怖いと感じるのだった。

 

少年は草履履き、足元をやたら映すカメラで少年の心理状態がわかる。

 

少年は家出を後悔し始めていた。

 

そして事件は起こる・・・・

 

 

山中でなにやら事件性のある被服や持ち物が散乱しているとの知らせで

 

現場検証をする田島。だが、肝心の持ち主の生きた姿も死体も見当たらない。

 

近くの氷室を捜査する田島。

 

その砂場に足跡を見つけた。九文半。

 

山、川と雨の中をけが人もしくは死体・・と捜査は難航。

 

目撃されている土工ではないかとの証言に付け加え、

 

裸足の若い女が歩いていたという証言が出てきた。

 

石橋蓮司さんと樹木希林さん夫婦に聞き込み。

 

母の元に帰った少年のところにも田島は訪ねてきた。

 

ぱっと転換するシーンに鮮やかなハナ(田中裕子)さんの笑顔が写る・・・

 

少年のハナとすごした経緯が話されるという示唆でしょう。

 

すごく印象的なショット。

 

そして若い田島刑事渡瀬さんはポワロのようなヘアスタイルで優しく、明るくエネルギッシュなキャラクターであるが

 

印刷や小野寺の前に現れた渡瀬田島はいかにもいわくありげそうな暗く、疑り深そうな人物である。

 

 

少年は素足で歩いている若い娘ハナと出会う。

 

 

ハナは見るからに素人娘ではない、娼婦のようだ。

 

少年はハナと並んで歩いた。

 

少年は美しいハナに母の面影を感じた。

 

二人の前に現れた一人の土工。するとハナは

 

無理矢理に少年と別れ、男と歩きだしたのである。

 

 

 

気になった少年が後をつけると、

 

草むらの中で情交を重ねる二人を目撃してしまった。

 

それからしばらくしてその土工の死体が川で発見されたのだった。

 

土工と一緒に歩いていたのを見られていたこともあり

 

ハナが容疑者として逮捕されたのだった。

 

まして

 

ハナは土工から貰ったと思われる金も持っていた。

 

さらに、現場には九文半ほどの足跡が残っていた。

 

ハナの足も九文半だった。

 

 

警察の執拗な取調べに、小用も許さぬ警察。

 

特に田島は人が変わったようにいらいらした鬼刑事ぶりだ。

 

 

 

ハナは、座ったままおしっこを漏らしてしまう。涙を流しながら渡瀬田島を睨むハナの悔しい表情・

 

この凄惨な描写は三村監督の成功場面ですね。

 

ハナは土工と関係して金を貰ったことは認めたが、殺しは否認した。

 

売春宿の女だったハナは一文なしでそこを逃げだしたので、

 

お金が必要だったのだ。

 

護送される雨の中、群集に混じってハナを見つめながら泣いている少年に、

 

ハナは笑っているようにも見え、かすかに首を振ってみせた。

 

切ない雨の別れのシーン。

 

ここはいいシーンでしたね。

 

 

彼女は誰が土工を殺したのか知っていても

 

頑として口を割らなかった・

 

 

だが、結局、ハナは証拠不十分で釈放された。

 

事件は迷宮入りとなった。

 

スローモーションの画面が

 

裕子さんの表情と相まって情感溢れるシーンでした。

 

少年役の伊藤洋一君がとってもよかった。

 

 

田島老人はそのときの刑事だった。

 

「九文半の足跡を女のものだと断定したのが失敗でした。犯人は子供でした」と

 

老人は小野寺に宛て付けの様に語る。

 

 

そして、犯人である子供の動機が分らないと続ける。

 

少年はハナと土工の情交を見て、

 

母と重なった……

 

恋しい母の情事を見て家出し、その母親の面影を見たハナが

 

母と同じように男に身体を許しているのを見て

 

腹立たしく、汚らしく土工が憎かった。ハナが憎いのではなく

 

あくまでも男=土工が憎いのですね。

 

少年と天城を肩を並べて歩いているうちに、

 

少年の純粋な気持ちがハナにも何となく分かったのだろう。

 

だからこそ、

 

目撃した事実を口にしなかったのだ。

 

刑事だった老人は、三十年ぶりで小野寺が真犯人であるという推理に達し、

 

小野寺の反応を見たくて

 

印刷依頼を口実にやって来たのだ。がもう時効は何年も前に切れていた。

 

(天城越え)は他の清張作品とは異なり

 

三村監督独特の情念のほとばしりを演出した個性ある作品に仕上がっているように

 

思いました。

 

天城山の旅情も豊かに捉えたカメラもすばらしい。

 

現在と過去を交叉させる手法がとっても効果的だった一作です。

 

何度も何度も映された山中の中での足元・・少年の草履足のアップは意味があったんですね。

 

田島の帰った後に血を吐いて倒れる瞬間に

 

ハナと出会って温もりと恋慕と安らぎを瞬時に味わった★そのシーン★・・・・・・・

 

足の指の又に出来た草履のマメが血だらけ、それをゆったりと治療し、彼の足を抱く温かさ。

 

 

そのぬくもりこそ、あの汚らしい土工を殺す動機に・・

 

どんな残忍な殺しをしたか・・・

 

どんな少年でもあんな状況ではそうなるかもしれないであろう!!

 

その殺人シーンを

 

ラストの意識朦朧の中に、持ってきた。

 

ハナをずっとずっと思い続けていた小野寺少年が、

 

手術台の上でポトリと落としたお守りを

 

渡された田島は見ながら、合点が行った様にかすかにひとりうなずいた・

 

見事なラストでした。

 

 

 

製作、野村芳太郎氏で、その野村カラーいっぱいでした。

 

裕子さんは、この他、ブルーリボン主演女優賞

           キネマ旬報主演女優賞

           毎日映画コンクール女優主演賞と、各賞総なめでした。   

 

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