『山の音』・銀幕の女優 34 原 節子さん 川端文学 ・成瀬巳喜男監督 | 吐夢の映画日記と日々の雑感

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あなたはどんな映画がお好みですか??

銀幕の大女優  原 節子さん、

 

こんばんは。

 

いつもご訪問いただきましてありがとうございます。

 

女性の役者としてのバイブル的存在つまり原典を杉村春子さんとするならば

 

銀幕のスターの原典(いろんな要素を踏まえての)は 原 節子さんだと

 

思うのですね。スターが憧れる大スターという存在の方。

 

 

作品はもう もうたくさんありすぎて全部一気に取り上げたいくらい

 

好きですね。数ある中でのほんの一部ですが・・・

 

        (安城家の舞踏会)        吉村作品

 

紀子三部作  (麦秋) (晩春)(東京物語)    

 

         (秋日和) (小早川家の秋)   

 

         (東京暮色)             小津作品

 

       (めし)(驟雨)(山の音)     成瀬作品

 

       (わが青春に悔いなし)(白痴)   黒澤作品

 

       (青い山脈)            今井作品

 

       (お嬢さん乾杯!)          木下作品

 

日本の女優さんシリーズ の  原節子さんとしては

 

まだ取り上げてないんですよね。どれを選ぶか・・・・

 

大事に取っておきました・

 

原さんの出演作品として 吐夢で取り上げた作品は、

 

(東京物語)、(麦秋)、(白痴)(小早川家の秋)(安生家の舞踏会)(青い山脈)

 

(東京暮色)(秋日和) (わが青春に悔いなし)、(めし)

 

(お嬢さん乾杯!)

くらいですか・

 

 

 

彼女が存在した以前も以後も  こんなにつましくて品の良い女優さんは

 

いませんね。

 

 

黒澤、今井、木下作品に登場する彼女は激動の時代に動くニッポンの女性だった・

 

が、小津作品で彼女は 静 おだやかなヒト に変わった。

 

原さんに関しては 何本か取り上げてみたいと思いますので

 

どうぞお付き合いくださいませ。

 

で、本日は まず、成瀬監督作品 川端康成原作の
          (山の音)を選びたいと思います。

 

原作川端康成の(山の音)は海外でとっても評価が高いようで、なにやらの運営す

 

る雑誌の 史上最高の文学100というものに 近代日本の作品として選ばれた唯一の

 

作品だそうです。

 

そんな大それた作品を成瀬巳喜男監督は映画化しました。

 

林芙美子の原作モノはいつもなにかしみったれたムードの漂うのが

 

カラーのような作品が多いのですが(それはそれで魅力的な作品ですけれど)、

 

川端文学の(山の音)はちょっと違って 

 

題名から感ずるように自然の風物を心に描く心象文学の

 

川端さんのテーマをこの映画は損ねていないように思います・

 

同じ成瀬作品の(めし)をご覧になった世の男性は地団駄を踏んで

 

憤慨しました  (わたくしの周りの殿方の評)・・・・

 

       原節子さまにあんな汚れ役をさせて・・・と。

 

結婚五年目の倦怠期の女房ーーー(めし)

 

毎日毎日、お米を研ぎ、おみおつけの鍋をかき回し

 

黙って新聞を広げている  能無し亭主の上原さんにごはんを運ぶ

 

所帯やつれをした原さん。そりゃあ世の殿方  腹も立つでしょう。

 

こんな汚れ役は原さんでなくったって、そんな役の似合う女優なら

 

当時の日本映画界なら五万と居るでしょうに・・・って話。

 

まあでも林芙美子の原作の女性はもっとよれよれでヒステリックだったから

 

それを回避したところで我慢してくださいな・・・・

 

だけどもその後、同じ成瀬作品の  (山の音)、

 

これは絶対に原 節子嬢でなければならない役だった・・・なぜでしょうね??

 

 

           ストーリー

 

62歳といえば、今は

 

ひと昔、ふた昔前に比べれば十年は違う若さであるが

 

その頃の60代(昭和三十年代)はサラリーマンは定年を迎え

 

再就職ということもなく老後を送る晩年の域で、年寄りというイメージであった。

 

尾形信吾(山村聰)は、62歳になったこの頃

 

夜半に、よく目がさめる。

 

鎌倉の谷の奥から

 

満月のしずかな夜など、ごうごうと海の音にも似た深い山の音を・・・

 

厳密に言えば風にそよぐ木々の音かもしれないのだが、

 

気のせいかもしれない。

 

が、聴こえると

 

彼はなんだか寂しさというか近づく死の怖さをを感じずには

 

いられないこの頃だった。

 

修一(上原 謙)は信吾が専務をつとめる会社の社員で

 

菊子(原節子)という女性と結婚し、

 

鎌倉に信吾と母保子(長岡輝子)と同居していた。

 

 

修一は傷ついた復員兵で心を少し病んでいるようなところがあった。

 

信吾は少年のころ、あこがれていた妻保子の死んだ姉の面影を見る

 

息子修一の嫁に 優しくするのは当然の成り行きだったかもしれない。

 

修一は 結婚生活わずか数年というのに、

 

もう外に女をつくり、家を頻繁に開けた。

 

会社の女事務員谷崎(杉 葉子)からそのことを聞いて、信吾は

 

菊子が不憫になった。

 

ある日、修一の妹房子(中北千枝子)が夫と喧嘩をし、

 

二人の子供を連れて帰ってきた。

 

房子は信吾が子供たちが幼い頃修一ばかりを可愛がっていて、

 

自分のことを可愛がらなかったと思い込んでいた。

 

それが原因で自分の性格も悪くなり、その上そのことを夫から言われたことも

 

房子は癪だった。

 

同居している菊子への何くれとないいたわりや心遣いを見て、

 

房子はさらに僻んでしまうのだった。

 

子供たちまで暗くいじけてしまっていた。

 

ひがみが増して房子は、また飛び出し、信州の婚家に帰ってしまった。

 

修一の留守に、信吾は谷崎に案内させ、

 

修一の女絹子という女性の家を訪ねる。

 

谷崎の口から絹子は

 

戦争未亡人で、同じ境遇の池田(丹阿弥谷津子)という三十女と

 

一緒に自活していること、

 

修一は酔うと

 

゛おれの女房は子供だ、だから親爺の気に入りだ゛と言い放ち

 

女たちに狼籍をはたらくこと、などなどを聞いて、激しい憤りを覚えた。

 

それもやがて寂しさみや哀れみみたいなものに変わっていった。

 

その日は、女の家を見ただけで帰った信吾だった。

 

帰ってきた房子の愚痴だったり、

 

修一の焦燥や、

 

家事に追われながらも 夫の浮気にうすうすは感づいている菊子の苦しみ--

 

家の中は鬱陶しい、気まずい空気が充ちていた。

 

感じないのは鈍感な保子だけであった。

 

菊子は修一の子を身ごもったが、

 

夫に女のあるかぎり生みたくないと、

 

家族にはうそをついて

 

ひとり東京の医師を訪ね、堕胎してきたのだった。

 

房子の子供たちを見ていると子供が嫌いなわけでもないのに

 

大人しい彼女の必死の抗議なのであった。

 

それを知った信吾は、

 

思いきって絹子の家を谷崎と訪ねた。

 

同居している池田と話したところによると

 

絹子はすでに修一と訣れたあとだった。

 

しかも彼女は修一の子を身ごもっていた。

 

めずらしく相当に酔って帰った信吾は、

 

菊子が実家に帰ったことを聞き信吾は菊子が不憫でならなかった。

 

菊子のいない家の中は、

 

気が抜けたようだった。

 

数日後、菊子からの電話で

 

新宿御苑に呼びだされた信吾は、修一と別れるという彼女の決心に気づいた。

 

菊子はむろんのこと信吾もたまらなかった。

 

だが信吾は菊子に  ゛菊子は自由なんだよ。自由に生きていったほうがいいよ゛

 

と励ますしかなかった。

 

しかし、信吾も家で苦しんでいる菊子の顔を見るよりも

 

修一と別れてやり直し、幸せになって欲しいと願うしかなかった。

 

いくら自分が寂しくてもだ。

 

 

 

山村 聰扮する舅と息子の嫁の原さんの間に通い合う心の触れ合い・・・

 

 

一歩間違えば近親相姦心理(川端作品の感性の嫌いなところデス)になる

 

雰囲気・・・・だけれども原 節子さんだからこそ 生臭くならずに

 

非常に 生きたキャラクターというか 原さんの演技のひとつを生み出したと思う

 

のですね。

 

 ふたりの関係の微妙ないたわりあい・・

 

成瀬さんよりも川端原作よりもまず心にしみ込んできた作品の魅力は

 

原 節子と山村 聰の 親娘のいたわりと触れ合いである。

 

ここにに自分を重ねた・・・憧れた

 

中年紳士諸君は多かったはず。

 

義母はいるんだけれど、無頓着。

 

舅が勤めから帰ってからもお世話をするのは

 

嫁の楽しみ。会話も楽しみ。舅は自分を理解してくれるからだ。

 

能無し亭主の上原は 嫁を愛しているのかどうなのか全然理解しようともしない。

 

夕飯の買い物帰りの嫁が自転車を押しながら、勤めを終えて駅から歩いてきた舅と

 

何気なく弾む会話に

 

笑う幸せそうなひと時の家路。

 

 

鎌倉であろう自宅のりっぱな家の竹塀をカメラはロングショットで写す。

 

両親に果物を剥いてやるときのうれしそうな顔の嫁。

 

ことごとく子ども扱いされ自分の存在などこれっぽちも認めてくれない夫修一の

 

顔を垣間見るときの原さんの寂しげな顔・・・

 

義父を慕うが好きになる一歩手前のこの感情を魅力的に演じられるのは

 

原さんならではでしょう。

 

山村聡さんの義父役も危うさが感じられない清潔感があって

 

良かったと思います。

 

上原さんの能無し亭主は、(めし)のときよりも数段  はまっていて巧い。

 

上原謙さん、山村聰さんについてはまた改めて

 

   銀幕の男優で投稿したいと思いまする。