(忘れじの面影)・人はこんなにも人を愛せるのか 究極の愛を描いて・・ジョーン・フオンテイーン | 吐夢の映画日記と日々の雑感

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戦前のフランス映画が大好きです。
基本、鑑賞後の感想ですのでネタバレが殆どです。
ご了承くださりませ。


人は こんなにまで愛せるのか....究極の愛 と言っても良い??


邦題≪忘れじの面影≫
原題≪LETTER FROM 
AN UNKOWN WOMAN≫
ヒロイン リザににジョン・フォンテイーン
リザの愛する人にルイ・ジュールダン


まずはストーリーから。

19世紀のウイーン。


まだ15歳の少女リザ(ジョーン.フオンテーン)は

 

両親と三人でそこそこのアパートに住んでいる.

 

階下に越してきたピアニストステフアン(ルイ.ジュールダン)の奏でるピアノの音色に耳を傾けているうちにリザにとって

 

ステフアンは憧れの人になる.

リザはステフアンが出かける時に1階の出口で一度だけ

 

彼に気づいてもらって、声をかけてもらった。

 

いつも遠くからうっとりと眺めるだけで良かった。

 

ステフアンは独身だが、毎夜、違う女性を伴ってくる・

 

彼の世話をしている下僕は口が利けない。

 

年に一回部屋の絨毯を外に干して大掃除をするアパート・

 

ステフアンの部屋の絨毯を運ぶ下僕の後について行って

 

部屋の中を覗く事が出来た。

 

何もかもがリザ゙にとってはいとしく見えた。

 

リザの母は再婚していて、その相手の仕事の都合で

 

リンツの町へ越す事になる。

 

ウイーンに残りたい彼女だが、駅からひとり引き返し彼の部屋へ

 

行ったがまた、いつものように女を伴って帰ってきたのを

 

見てあきらめて両親と一緒にリッツへ向かう。

 

少女から美しい乙女になったリザ・

 

軍の若い将校からの縁談もあったが、彼女は好きな人がいると

 

その人を袖にした。

 

リザはウイーンに戻り洋装店のモデルになり、

 

毎日彼のアパートの前で彼の姿を眺めていた。

 

ある雪の日、ステフアンは彼女に気がつき声をかけた.

 

”時々、ここで見かけますね?”

 

楚々としたこの美しい女性にステフアンはとりこになり、

 

雪の夜の町を二人歩き、食事をし、語らい、

 

そしてアパートヘ向かった。

 

リザは一夜を共にすることに何の抵抗も無く

 

それは自然な事だった。


翌日、イタリアへ演奏旅行に発たねばならない彼は

 

駅まで見送ってくれたリザに”10日間だよ!”と言い残して

 

発った。”もっと、君を知りたい”...。

 

リザは”謎がお好きでしょう?”と微笑んで見送った。

 

かつて隣に住んでいたことにも気づかない、

 

身の上も話さないリザに神秘的な魅力を感じた。

 

そして、それきりとなってしまった二人..。

 

やがて、リザは彼の子を産む。

 

自分の子として育てると言ってくれた貴族の元へ嫁いだ.

 

幸せな毎日。

 

ある日、夫婦で出かけた音楽会で、かつての

 

ステフアンではない、忘れられた人となったステフアンを

 

見かけた。

 

客席にいても落ち着かない彼女はとうとう席を立ち階下へ

 

降りていく。

 

見つけたステフアンに微笑むと、

 

彼は、”どこかで逢った? そんな気がするのだが?”と聞く。

 

リザは微笑むだけでうっとりとしている。

 

不審に思った良人の出現で仕方なく家路への馬車に乗る。

 

帰りついて、良人は言う。”今なら引き返せるぞ。

将来の事、子供の事を考えろ!”と。

 

そんな言葉は耳に入らない。

 

息子を連れて家を出たリザは、息子をとりあえず

 

施設へ預けて彼の元へ。

 

しかしウイーンの町にチフスがまん延していて、

 

息子は病院へ運ばれて死んでしまう。

 

ステフアンを訪ねたリザは懐かしい部屋を眺め、満足であった。

 

最初に会った時からこの人だけ。。。とずーっと

 

慕いつづけたリザにとって、この時間をどれだけ待ったか。。

 

収入の無くなったステフアンだが、ワインを出して

 

やさしくもてなしてくれた。

 

”どこかで会った事が...??”

 

彼が席をはずした時に彼女はコートをつかみ

 

静かに部屋を出ていった。

 

この前も、今度もとうとう私のことを覚えてはいなかった....

 

リザもチフスにかかっていた。

 

この長い手紙は彼女がチフスに罹って、

 

最後にステフアンへ充てた手紙でした...

 

看護婦が彼女の遺言だといって、届けてくれた手紙を

 

涙を流しながら読み、追想しながら、又読み、そして.....

 

浮かんだのは15歳の少女が静かに微笑んだあのアパートだった.

 

ドアを開けて見送ってくれたあの時の..。

 

自分の愚かさに涙は溢れるのでした..。

 

顔をあげ、酒を運んできた下僕に”知っていたのか?”

 

口の利けない彼はうなずくだけでした..。


さて、絶望のリザは、淋しく病院で

 

ひとり息を引き取ったわけです.

 

恋い慕い続けた男は、一夜の出来事としての

 

記憶  すら もっていない・

 

恋とは一方的な自己幻想に過ぎないのか..

 

失意のうちに慈善病院で息を引き取るリザが哀れでした。

 

邦題の忘れじの面影...はリザがステフアンを
想う心です.

原題のletter from an unkown woman 

 

ステフアンにとってはリザの決意を込めた手紙も、

 

”見知らぬ女性からの手紙”でしかなかったわけです.

 

どうしてこんなにまで愛せるのか...と思いつつも

 

あの夜が全てだったのですね。

 

以前取り上げましたウイリアム・ワイラー監督の

 

≪女相続人≫はジョーンの姉のオリヴイア・デ・ハヴイランドがオスカーを

 

取った作品ですが、このヒロインは自分の心を意図も簡単に踏みにじった

 

しかも二度も・その男を許さなかった。知り合った当初、ヒロインキャサリンは

 

一途に男を信じて愛した。

 

だが、男の目当ては最初から父親の遺産目当てでキャサリンなど眼中にない

 

身勝手な男だった。だからこそ世間知らずのキャサリンが男を一途に愛するのが

 

いじらしいほどであった。が踏みにじった男を許さなかった。

 

引き寄せて突き放すという復讐をやってのけた。涼しい顔をして。

 

この≪わすれじの面影≫のヒロインリズは女たらしのステフアンを丸ごと愛した。

 

自分のことに気づかないしかも二度とも思い出しもしない男を

 

ただひたすら愛した・そこに打算や嫉妬や意地など何もなくただ、ただ

 

ひたすらに思い焦がれた・・・・命をかけてまで。

 

切ない切ない恋でした・

 

前者のヒロインは復讐したけれど後味は悪くなかった。むしろ

 

小気味良かった。でも後者のヒロインリズの場合、

 

相手には悪意もなく、孤独な音楽家がヒロインに気づかなかっただけで

 

彼に罪はない。自分に気づきもしないそんな男なんだけれど

 

リズにとっては  

 

偶像を愛したということでしょうか。そして愛したことを後悔していない・

 

うらむこともなく、満足して死んでいったのではないでしょうか。

 

だから私たちも男を憎めないんですね。

 

偶像を偶像のまま愛して死んでいったリズの究極の愛は

 

やはり胸にこみ上げるものがありました。

 

ぐいぐいとラストに向けて情感たっぷりに描かれた

 

佳品です。

 

ルイ・ジュールダンは二年ほど前に93歳で亡くなりました。

 

叶夢の日記では≪白鳥≫と<パラデイン夫人の恋>に登場しましたが

 

モーリス・シェバリエとレスリー・キャロン共演のミュージカル≪恋の手ほどき≫

 

など ハリウッド黄金時代に活躍したフランス人では最後の俳優さんですね。

 

制作  米  1948年度
監督  マックス.オフユルヌ
出演  ジョーン.フオンテーン/ルイ.ジュールダン