『帰郷』妖艶でインテリ 山の手夫人を演じて右に出る人なし!日本の女優 31 木暮実千代さん | 吐夢の映画日記と日々の雑感

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懐かしい名画、最近の気になる映画、映画への思いなどを綴っています。特に好きなフランス映画のことを書いていきたいです。





妖艶でインテリ、山の手夫人を演じて右に出る人なし!!
日本の女優 31 木暮実千代さん

私が
女優さんを意識して見出したのは、岸恵子さん、久我美子さん、有馬稲子さん
たちが活躍している頃でした。
だから、もっと前の高峰三枝子さんや田中絹代さんあたりは、逆に
晩年の作品を先に鑑賞する形になった。
その頃もう一人の美人スターがいらした。
木暮実千代さんである。
彼女も間違いなく大スターである。
彼女の代表作は??というよりもやはり、彼女も名脇役のひとりといったほうが
いいかもしれない・
現代劇でも時代劇でもどんな役を演じても気風が良くて、色っぽい木暮さんだが、
私生活の彼女は堅物、まじめ、世話好き、社会貢献もされてるようでした。
1938年  愛染かつらでデビューしてから引退された1984年まで
凡そ45年間活躍され、出演作品は
現代劇、時代劇半々であろう・
数ある作品は、あれにもこれにもと言うほど脇役で光ってらっしゃった。
特に印象に残った作品だけピックアップしてみると

愛染かつら
純情二重奏
四つの恋の物語
醉いどれ天使
青い山脈
続青い山脈
石中先生行状記
帰郷
雪夫人絵図
自由学校
源氏物語 カンヌ国際映画祭撮影賞受賞
お茶漬の味
慟哭
千羽鶴
祇園囃子

宮本武蔵 一乗寺の決闘
新・平家物語
赤線地帯
かげろう絵図
鳴門秘帖
五番町夕霧楼
冷飯とおさんとちゃん
湖の琴
三婆
刑事物語
とほんの一部ですがどの作品でも彼女の演ずる役柄は
他の女優さんでは表現できない彼女独特の存在感である。
妖艶だけどインテリジェンスが感じられ、お育ちから来る気品があふれていた。
山の手夫人を演じて ざあます 言葉をおしゃべりになるとそれはもう
演技と言うより板についた流暢な ざあます 言葉でございました。

今夜は1950年度のキネマ旬報ベストテン二位に輝いた
   (帰郷)を取り上げます。
佐分利信さんとはその後 (お茶漬けの味)で再度共演するが
佐分利さんのお相手は木暮さんが一番合っているような気がします。

さて、作品(帰郷)



戦前、若気の正義感から、友人の公金横領の罪を被って
海軍士官の地位を捨て、そのまま死亡とみなされ、
無国籍なった男..

その彼が日本に残してきた娘に逢いたさに、
終戦後戻ってきて、
今は美しく育った娘に
京都の苔寺でたった一度逢うという  大仏次郎原作、
大庭秀雄監督の作品である.

人にはいろいろ事情があるだろうが
この人守屋恭吾はこういった事情で
マラッカの刑務所に二十年間入り、ニ十年ぶりに帰った日本、
祖国で見たもの・・・

ここまで書いてくると
なにか聞いたようなお話。

そう松本清張の”球形の荒野”の野上という男も
スパイの汚名を着せられ無国籍となって
日本にいる娘に逢いに帰ってくるという筋書きだ。

こちらは太平洋戦争を挟んででであるが.。

清張のこの原作はサスペンスものとして仕上がった.


そしてもう一作 林芙美子原作、成瀬巳喜男監督の ”浮雲”ですが
全体のストーリーはこの2作とは
全然違うものの、
そこから香ってくるもの
遠い異国から戻ってきてのストーリー展開という類似点で
共通するシチュエーションの設定が興味深い.

原作が総て大物が執筆したというのも面白いし、
それぞれが素晴らしい作品となっているのも興味深い。

”帰郷”が映画化された年が昭和25年、
浮雲の映画化は昭和30年。
球形の荒野は昭和49年だったか。

日本が侵略していった国での出来事が人生を狂わせたという
結果がドラマテイックになり易いシチュエーションだったのであろう。

この作品で娘に扮するのが津島恵子...
いつぞや迄  テレビ放映されていた土曜ワイド劇場の
牟田刑事官の妻の役で
若い方はご存知だと思います。
彼女がとっても愛らしい娘役を演じています。

この映画の魅力は
戦後の日本が狂い咲きしている中で
無国籍者となった守屋の哀愁、その彼を慕いながらも
汚い商売に手を染めた高野左衛子という日本人離れした
女性の キャラクターであろう。

そして父との対面に生命の喜びを彷彿させる娘のいじらしさ、
などがいつまでも深い感銘を与えて、そして消えないのである。

戦争の残した傷跡はいろいろあるが
馥郁たる香りのするこの作品は哀愁も、理不尽さも
言い難い魅力となって、優れた文芸作品となっている。

こういったエキゾチックな舞台背景という映画はハイカラで
ストーリーから離れてみても、
時代の香りとその雰囲気がなんともたまらなく私は
好きなのです。
高野佐衛子という女性を演じているのが
   木暮実千代さん。


ストーリー
戦時中のシンガポール、
一人の男、守屋恭吾と一人の女、高野左衛子がそこで知り合った。
男は海軍士官だったころ、仲間の不正の身代わりとなって
国外に去り、そのまま無国籍となって放浪の人生を送っていた。

女 高野左衛子は持ち前の美貌と才気で海軍に取り入り
ダイヤモンドの買占めで巨万の富を得ていた。

シンガポールは空爆下だった.
二人はむなしいという人生の共通点で
男と女になった・

左衛子はこの翳りのある男に強く魅かれていった。
しかし守屋の方は再び、左衛子に逢うことを拒んでいる。
女の仕事を軽蔑し、冷たく去っていく。

女は悔しさのあまり男の過去を憲兵隊に密告する。

そうやって男の気を引きたいというゆがんだ..これも
左衛子なりの愛情表現だったのかもしれない。

戦後、左衛子は東京築地で料亭とキャバレーを
営んでいた。
ふとした縁で、日本に残された守屋の娘伴子と知り合う。
恭吾の娘だとわかると
左衛子は守屋の消息を知りたくなり調べてみると
日本へ旅行中で、今は京都へ行っているということがわかった。

左衛子は要らぬおせっかいだが伴子に父のことを教えてやる。
自分が会いたいのも重なって、伴子に父親に逢うように勧め、
伴子の指に自分の指輪をはめてやるのであった。

そうすれば伴子の指を見たときに自分の存在を恭吾が
思い出してくれるのではと思ったのである.

伴子は今は再婚している母と養父との平和な家庭を
壊したくなくて、一人ひっそりと京都へ行って
父と会うのであった。

恭吾と伴子が京都苔寺で逢うシーンは感銘深いものがある.
父親としての嬉しさ.。深い心が揺れ動く恭吾であった。
しかし今、娘の幸せと、平和に暮しているかつての妻の
平和を乱さない為にも
自分は日本にいてはならない異邦人だと悟るのである。

恭吾は築地で左衛子に逢う。
伴子と逢わせてくれたのは指輪を見ればわかっていたからだ。
左衛子はシンガポールでの密告という罪を詫びて、
この先の人生を一緒にと迫るが....

恭吾はトランプで決めようと...負ければ自分が左衛子の
言う通りになると。

長い放浪生活で恭吾はトランプはお手のもの。
左衛子の札から勝ち札を抜きとっておくのである。

これから先一生、孤独に生き、地の果てで孤独に死ぬであろう
恭吾のせめてもの人間らしい愛のあり様であったのではなかろうか??

制作  松竹  1950年度
監督  大庭秀雄
出演  佐分利 信
木暮美千代
津島恵子

その後、森 雅之と吉永小百合でリメイクされましたが
これは吉永の青春映画の延長作品というだけのもの.
比較できない全然別のものでしかない・

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