(女の園)・戦後のイデオロギーの幕開け ・高峰秀子・ 岸 恵子・ 久我美子 | 吐夢の映画日記と日々の雑感

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(女の園)再投稿

(女の園)は1954年作。

高峰三枝子、秀子に
岸恵子、久我美子、に
脇役は演技派の東山千栄子、
望月優子、浪花千栄子と
錚々たるメンバー。

前回、書きましたが、
岸恵子さんと久我美子さんは
この作品で出会って意気投合、
会社から与えられた役を演るのではなく、自分達の演りたいものを
自分達の意志で演る。そんなところから出発して
(文芸プロダクションにんじんクラブ)設立に至るわけです。

一頃、女子校を指して、”女の園”という言いかたが流行った。

今日は上流家庭の子女の集る全寮制の名門で
戦前の封建的な教育が根強く生き残っているある女子大を舞台に
 度を越えて人権侵害に成りかねない問題を
鋭く抉り出した問題作ー
ー≪女の園≫木下監督ー

あまりのナンセンスな教師陣の言動や、行動に噴出してしまい、
今の若い子たちから見れば、わたしたちの学生時代を
覗いた時にも
ナンセンスだと思うのだろうと笑ってしまった。

このナンセンスという言葉ももはや死語となりにけり..ですが
この表現がぴたりとくるようだ。

わたしも高校時代に寮生活を経験して、舎監にイタズラを
した思い出があります。

この作品で意地の悪い舎監に、珍しく高峰三枝子さんが挑戦しています。
じわじわと陰湿ないじめをする。

高峰三枝子さんという方は
田中絹代さんとお二人、
松竹大船の黄金時代を支えたビッグスターです。

筑前琵琶宗家の血を引く気品と知性に溢れた美貌は
代表作(暖流)の誇り高きヒロイン志摩啓子に打ってつけでした。クールな美貌とドライな物言いの近寄りがたさは
ファンには憧れの的だったようです。高峰三枝子さんについてはまたの機会に述べます。

学生には岸 恵子、久我美子、高峰秀子さんの三大女優が
競演しているのも見物である、高峰秀子さんはともかく、
岸さんと久我さんはまだデビュー間もない頃であるので
なんと初々しいと思ったが

いやいやなんと力強い!!

真知子巻きを流行らせた(君の名は)、結ばれぬ恋に身を焼いた(雪国)の駒子、
凛とした気丈さがいじらしかった(おとうと)のげん
冷たい美貌が冴え渡った(怪談)の雪女
どれをとってもすこぶる美しく、崇高でさえあった。

久我美子さんは
没落華族とはいえ、
元公爵家のご令嬢で
どんな役においても 上品がついてまわる、
本当のご令嬢はのびのびと
思ったことをづけづけおっしゃる。
(女の園)でも
しっかり役柄に表れています。

そして田村高廣さんのデビュー作でもあるんです。


さて、
映画のタイトルの後にメッセージ゙がある。
”学生は学校に自由を求め、教師は学校に理想を求める。
しかし何故、この両者が争いを起こすのであろうか?

この学校に尋ねてみよう” ではありませんか‼️


ストーリー

映画は京都のある女子大の入学式から始まる。
女性の校長(東山千栄子)をはじめ、
教師は殆どが五つ紋の黒留袖である.

規則は厳しく、まるで軍隊のようである。

上級生の久我は
新入生に学校の内部のことをいろいろと教える.
どういう風に封建的か...を熱く語る。
学問の自由だとか、学校の不条理だかを熱く語る。

高峰秀子さんはは学習についていけず、
トイレの中や階段で勉強をしているところを舎監にたびたび
咎められる。
寮を出て、下宿をしたいと申し出るが、全寮制なので
きつく諭され、諦める。

岸恵子はヘアースタイルやつけた頭のリボンンが派手だと
注意されるが、普段はみんなの議論を
黙って傍観しているだけだけどマイペースである。


ある日、敏子と言う女性から久我は”無駄口がおおすぎますわ”
と注意される。

”お金持ちの娘が、学問の自由だの言ったって
単に下級生を煽動しているだけだわ.
卒業してから就職の心配があるわけじゃないし、
口先だけの自由論でしょう.あなたもっと苦しまなきゃだめよ”と。

高峰は相変わらず勉強についていけずに悩んでいる。
久我が学生の集会にも出席していると聞いた舎監は
”うちの学生が赤だと思われては困るんですの”

舎監は逆に久我から彼女の過去の男関係のことを仄めかされ
やり込められてしまう。

男子学生と口を利くことが禁じられているのは
この時代の常識で、この学舎でも当然禁じている。

岸さんはテニスをしていて男子学生から声をかけられる。

とまあ、この三人それぞれ問題ありのお嬢さんたちである。

ある日、門限に遅れて帰った岸さんを高峰秀子さんが危うしというところで
助けるが、舎監のスパイが告げ口をした為にすぐにばれてしまった。
岸さんは停学となる。

舎監の このとがめかたが小憎たらしい!
学校側は問題児(ちっとも問題児とは思わないが)と
されている娘の親当てに手紙をだして、呼びつける。
しかし疑問に思うのは
親は何故子供の話を聞く前に学校の言い分を完全に信じているのだろう?
あの時代は教師は聖職で
絶対だった!


岸さんに身の上を話す高峰秀子さん。
どうやら結婚話を逃れる為に学校へ入学したらしい。
別に言い交わした相手もいるようだ。

その相手は東大法科のアルバイト学生(田村高広)である。
(懐かしい”産業予備軍”などということばが出てきましたよ。)
やっとの思いで彼に手紙を出した高峰さん。
返事が無事に彼女のもとに届くかどうか....

いつも悩みをやさしく聞いてくれる岸さんがいて、高峰さんは少し
落ち着いたようだ。
終始しくしく泣いてばかりいる。

おばのうちに寄った岸さんは停学になったことを話すと、
おば(浪花千栄子)は学校に掛け合うと言って聞かない。

停学になった岸さんはのんきにボーイフレンドとデイト。

手も握れないような風潮の中で彼女は彼にキスを許す。

学校への反発で、見せつけてやりたかったという
自己満足だけのことであった...涙は学校へのあてつけであった..今の時代から比べてなんといじらしい事か..。

あの舎監に立ち向かえるのは財閥の娘久我だけのようである。
舎監の秘密......弱みを握っているから、ことあるごとに
仄めかす。

舎監は生徒のことは意地悪く、
そして真実を歪めて処理するくせに
自分のことに関しては正当化してしまう.

それが気に入らない久我はここぞとばかりにやっつける。

自分を恐れないこの小娘が舎監は憎たらしくてしょうがないが
手も足も出ない。

学校の生徒には二通りのタイプがあると高峰さんは恋人に話す。
”一方は一生懸命に学問を身につけて社会へ飛び立とうとする人と、
お嫁入りの条件をよくしようとするタイプ。
みんな口先では文句を言っていても
誰も辞めていく人はいないわ.”

この映画は封建制に反発する木下イデイオロギーが素晴らしい。

そして、男とか女とかで物事を判断せずに人間として
どうあるべきかを考えないのかしら?という高峰秀子さんの言葉が
木下監督の感性であろう。

高峰さんは親にも学校にも責められ思いつめている、
好きな人ともしばし東京と京都と離れることになる.

さーて女学生たちは一致団結して反撃に出ます!
きっかけは岸さんだ。

体罰としてお寺へ行けという学校側。

行きません!子供じゃありません。何をしたって言うんです。
”学校の規則を破ったじゃありませんか”と舎監。

”その規則が気に入らないんです。”
高峰さんと泣いて抱き合う岸さん。

久我はここぞとばかりに張り切る。
敏子もやっと久我の言動が気まぐれでなかったことを認め、
みんなは結束する。

木下感性が捉えた民主主義とは何か?という学園紛争の
集団描写が素晴らしい!

一人一人に問い詰めるが、みんな考えは同じだという。
”わたしが坊主の所に行かないといったのが何が悪いんです!”
笑ってしまったセリフだ。

学校は本来楽しい所である筈だ。
苦しむ所ではない。
学校の下した処分は?

生徒の処分に軽重をつけた。
舎監は一人の教師に言う。
”こういう処分はいい加減にすればするほど宜しいんですわ!

生徒がバラバラになりますもの.ーー”怖い教師たちだ。ー
軽くて済んだ高峰さんの神経衰弱はひどくなる。
自分を責める。
みんなは仲間割れをさせようとしたその思惑にはまりかける。

そして高峰さんの精神状態はだんだんおかしくなる。
とうとう寮を出て東京へ。
学校は行方不明の高峰さんを探して大騒ぎだ。
恋人の元へ来た高峰さんは来たら来たで学校のみんなのことが
気になる。被害妄想は激しくなるばかりだ。
結局、彼女はまた姿を消し、
挙句の果て、教室で自殺をしてしまった。

学校側は身を守るために立場を都合の良い方向に持っていく
いい訳をするだけである。

結局学校側は何も認めちゃあいない。
しかし彼女たちの結束の合唱は空高く響いている....。

青い山脈が作られたのが昭和24年.
今井正の思う民主主義を高らかに謳いあげ
開かれた日本の未来を感じる素晴らしいエンデイングであった。

女の園は昭和29年の作品です。
この映画は、閉ざされた学園の実体をそのまま、ありのままを
観客にぶつけた木下イデオロギーですね。

この話には開かれた目を持つ教師は一人も登場しなかった。
今の学校がどうなのかわたしは知らないが
こういう映画を裏返して鑑賞すれば、生徒は学校の立場を
学校は生徒の気持ちが少しは見えるはず。

財閥が資本家として変貌し、私設の学校にまでお金が流れ、
教師たちは教育とは程遠いレベルで大手を振っている。

その犠牲になった学生たちの叫びは怒号のように響いた。

青い山脈と比較してみるとその対比が面白い!

表裏一体の捉え方で、今井正も木下恵介も目指すものは
同じであろう.,.。

制作  松竹  1954年度
監督、脚本  木下恵介
出演  高峰三枝子.高峰秀子.岸 恵子.久我美子
    東山千栄子.望月優子.浪花千栄子.田村高広


これは必見.必見!シナリオが抜群だ!