『おとうと』・幸田文原作 ・市川崑監督 1960年度作 | 吐夢の映画日記と日々の雑感

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 ≪おとうと≫ 

岸恵子はフランスの監督イヴ シャンピと結婚して
フランスに在住していたが、
市川昆監督のたっての要望で
この映画《おとうと》の出演に応じた。

それ以来、
市川崑監督と
岸 恵子さんは何作一緒に撮っているのでしょう。
おとうと
黒い十人の女
悪魔の手毬唄
女王蜂
細雪
天河伝説殺人事件
かあちゃん まで。


わたしは個人的には
木下恵介監督の
《風花》や《女の園》の岸さんも好きです。
小津監督の《早春》も。

わたしは兄弟姉妹がいないのでも時々兄弟姉妹がいたら
どんな感じだったのかなーと
思うことがよくありました。

なんでも相談できる兄貴と可愛がってみたいお.と.う.と.
がいたとしたらなあーー.

映画  ≪おとうと≫


製作  大映 1960年度作
監督  市川 昆
原作  幸田 文
出演  岸 恵子/川口 浩
森 雅之/田中絹代
     岸田今日子

幸田 文原作の
同名小説の映画化
小説も当時ベストセラーになった.
我が家の本棚にも発売当時並んでいたのをおぼえているが、
読んだのは高校生になってからだ.
それからというもの一時、おとうと しかもこの映画に出てくる”一郎”
が おとうと として欲しかったものだ。

父は物書き、母は、継母で、リューマチという持病を持ち、
神(キリスト教)だけを信じ、夫や、なさぬ仲の娘や、息子のことを理解し様とせず、言い訳と嫌味だけを言う。

そんな複雑な家庭に身を置く、姉と弟の美しい(姉弟愛)を描く。
  ストーリー

母の愛が欲しい年頃の
一郎にとって、
自分にも無関心で、姉には
嫌味と小言しか言わない継母の存在。
父はそんなことに背を向け
一切を姉げんに任せきりという環境は一郎を無軌道に走らせる。

お金に不自由なわけではないから、一郎はビリヤード、ボート、
乗馬などの遊びに手をつけては
次ぎから次ぎへと問題を起こし、げんの手を
煩わし、気を引こうとする。

顔を合わせれば喧嘩ばかりする二人だが姉は弟を一番理解し
庇い、弟も姉を陰に日なたになり危険から護る.

そのやんちゃな弟とカラッとした姉の関係を淡々と
小気味良く美しく映し、まだ日本の家庭がそこに
残っていた時代を忠実に捉え 感動的に描ききった.

そして 岸恵子と川口浩の代表作となった.

げんは日ごろ家事一切を取り仕切り、弟の面倒をみているため
男に対する免疫がない.
男につけまわされたり、
軟弱な男から恋文を渡されたり。
そんな時、どこからともなく
おとうと一郎が現れて、姉を助ける。

姉は姉で、警察のご厄介になったときは
おとうとを心配し慰める。

二人は父や母に不満をぶつけるわけでもなく、そのイライラを
お互いにぶつけ合い、なじりあう。
分かりすぎるほど分かる二人だからいじらしい.


黙々と家庭を切り盛りしても
不満をいう母の存在を
達観している姉はそれ程悩んでいる風でもないが、おとうとは
まだ大人になり切っていないので不満が募る。

姉に欠けているところをおとうとが、おとうとに欠けている
ところを姉が補っている.

そんなとき、おとうとに末期の結核の症状が...。

サナトリウムに入ることになったおとうとは
強がっていても、まだ子供。
死の恐怖が彼を襲う.

死期が迫ったことを感じているおとうとは
姉のこの先が心配でしょうがない、
姉に高島田を結ってくるよう頼む。最期に目に焼き付けるため。

その晩 もういけないと悟ったおとうとは姉に頼む...
夜中になにかあったら起きてくれとベッドの下に布団を敷いた
姉の手と自分の手を紐で結わえてくれと.

がその夜疲れてぐっすり眠った姉は引っ張るひもに気付かず
おとうとは虫の息である。

翌朝、見舞いに初めてきた母親とやっと親子になれる
会話をしたあと
一郎は息を引き取る。
というストーリーである.

風俗考証や優れた美術感覚、宮川一夫のセピア色のカメラが、ストーリーの重要な背景ー
大正末期という時代をみごとに映し出している.

どちらかというとバタ臭い彼女が、日本人の感性を
あれだけ、魅力的に演じるというのは、
やはり、どこに住んでいても、その本質といったものは
変わらないんだと言うことを
感じましたね.

あの役を他の女優で想像してみたが浮かびません。

やはり、何度観ても泣かされる映画の一本でしょう.

お下げ髪に銘仙の着物、家にいるときは、すこぎの帯を
結び
ちょっと出かける時は貝の口に結ぶ.
バタ臭い顔 姿 に
とてもすてきに映るんですよね.
大正ロマンの香るレトロなお着物がとっても彼女に映ります。

この家庭の設定に個人的意見ですが、父親は多分
幸田露伴をモデルにげんは幸田文自身の性格を感じます。

利口で 控えめな所はちゃんと心得、言うべきことは男以上に
はっきりと小気味良いくらい言う。
やさしさも形こそ違え 感じられるし
おとうとにとっては理想の姉でしょう.

幸田文が嫁ぎ先から小石川の露伴の家に出戻って来てから、
露伴に子供のころ以上にシゴカレ躾られて行きますよね.
小説《小石川の家》の中で
幸田文さんの娘の青木玉さんが書いていました。

その様がちゃんと
げんに現れているんです。

病気で死ぬのは嫌だけど
あんな”おとうと”と青春を一緒に謳歌してみたかったと
切に思ったわたしです。

これもリメイクしないで欲しい
一作です。

市川崑監督生誕100年を記念して三作品、デジタル修復版が
今年のベルリン国際映画祭に
出品されました。
《炎上》、《おとうと》、
《雪之丞変化》