秋利が好きなクラッシックのメロディが遠くで鳴り響いている。
夢の中で、秋利は念願の企画が通り、皆で祝杯をあげていた。上司や同僚、後輩達が晴れやかな表情で誉め湛え、分厚いカーテンの後ろからは生演奏のメロディが優雅に流れている。
「駿河さんの好きな曲ですよ!」誰かが秋利の背を押し、生演奏のカーテンの前に連れていかれる。バイオリンとチェロ、グランドピアノ等が並ぶステージを想像した秋利は、勿体ぶってゆっくりと開かれる重厚なカーテンを凝視した。
「・・・・!」
現れたのは、白い肌が縺れ合う淫猥な図。声こそ聞こえないが、同性同士が欲情に濡れた目をして交合っていた。秋利にとっては慣れているものでも、ノンケの人間達には強烈な嫌悪感を表すもの。背後でざわざわとした囁きが聞こえ、秋利はこういうのが好きなのか?と蔑みの視線が突き刺さる。
「ち・・・違うんだ・・・」
今まで、仲良くしてきた同僚達が「だって駿河ってホモだろ?」などと嘲笑する。女子社員や上司などは冷ややかな目で秋利を睨み、目が合った途端汚いものでも見たかのようにふっと視線を外す。
一番恐れていた状況が目の前に起きているのに、秋利は半ば混乱してカーテンの奥で絡んでいる男達を引き剥がしにかかる。
そんなもので、一度認識した事を覆せるはずもない。無駄なこととは分かっていても、そうしなければならないと取り憑かれたような激しさで男達を追い払った。
「・・・・はやく出ていけー!・・・っ!!」
滅多に怒鳴る事がない自分が大声で叫んだ声で、秋利は覚醒した。
静まり返った部屋に携帯から流れる着信音が鳴り響いて、それが夢の中で流れていた好きな音楽だったんだと苦笑いをしつつ、鞄の中に入れっぱなしだった携帯を取り出す。切れる事なく鳴り続ける着信音は、秋利が心を許している仲間からの着信でしか流れないメロディで、待受画面を見ずとも誰が掛けてきているのかは分かっていた。
「はい。勇河 ?なんだよ」
<あれ?何で出るんだよ?仕事中じゃないのか>
ゲイ仲間で、秋利と同世代の勇河は社会に属するのが嫌いで、自ら居酒屋を経営している実業家だ。あのBarと同じく、表向きはただの居酒屋だが、店の奥に秘密の社交場を作り、そういう趣向の者達の憩いの場としている。唯一異なるのは、店の名前が一目でそれの為の店だと分かる所で「バラ族」などという、尤もらしい店名だからか結構な賑わいなのだ。
「なんで出るんだとか・・・じゃあ掛けてくんなよ。仕事は首だよ。ゲイってバレただけでな」
<お?何かイラついてる?首って・・・お前、とうとうカムっちゃった?>
今まで、朝から自宅に帰る前までは一切の着信は拒否していた。もちろん、会社用の携帯を渡されていたから全く不自由はなかったし、仲間も仕事をしている者が多い為、不躾に掛けてくるのは気ままな自由業の勇河だけだった。留守電機能は付けていない為、どうしても用がある時には鳴動時間一杯までしつこく鳴らすしかないと勇河も分かっている。
何か重要な事なのかと思った秋利は、出ない方に掛けていたかのような勇河の台詞に苛立ちを隠せない。
「はぁ?俺がどれだけ周りに隠してたかって知ってるだろ?バレたって言ったろ!誰かが会社に匿名でタレこみしやがったんだよ」
<まあまあ、落ちつけ。俺が悪かった。ところで、仕事がないなら暇だよな?これからちょっと来いよ。今日はとっておきのマッチョが来てるんだぜ>
「・・・そんな気分じゃない。それに、俺はマッチョはタイプじゃないし・・・」
会社を首になった事など大した事ではないと思っているのか、勇河は自分の店に来ている客にフリーの秋利を紹介しようと目論んでいるようだ。今までも、何回かは紹介され付き合った事もあるし、その中の1人があのメールに添付されていたキスシーンの相手だったりもする。
勇河とて、秋利がいつまでもフリーなのを心配するあまり、フリーの客を見つけては紹介してくれているのだと思うが、時間を選ばない傍若無人な勇河にはほとほと困っている。
<マッチョは言い過ぎか・・・長身で、男臭い色男なんだけどなぁ・・・。お前なんて、ひょいっと抱き上げちゃえるぜ?>
電話の向こうでは、夕方にほど近い時間でも盛況なのが伝わってくる。夜はそれこそ御用達っぽい店に変貌するが、開店直後のこの時間は普通の客も大勢来ていて、よっぽど勇河の経営が上手いのだろうと感心してしまう。
電話の側に居る、そのマッチョな男を眺めながら説明するのは目に見える様で、言われるままに形容していくと、秋利の頭には自分を繁華街のメインストリートの中横抱きにして歩いた男が瞬時に浮かび上がった。長身で男臭い、それでいて秋利をひょいっと抱き上げる強靭な筋肉に覆われた逞しい筋肉。
「・・・へぇ・・・」
<んん?ちょっと興味あるだろ?会社首になった経緯も聞いてやるから、な?気分転換に来いよ?家で湿気てるとロクな事考えないぜ?>
「・・・分かったよ」
秋利をホモだ、ゲイだと倦厭していた男が勇河の店になんているわけがない。何故か、安曇の事が頭から離れない秋利は、それがどういう意味を持つのか分かっていなかった。
寧ろ、日常に隠れて潜む秋利の様な趣向を持つ者を嫌っている、自分の敵だという認識しかないと、言い聞かせていた。
夢の中で、秋利は念願の企画が通り、皆で祝杯をあげていた。上司や同僚、後輩達が晴れやかな表情で誉め湛え、分厚いカーテンの後ろからは生演奏のメロディが優雅に流れている。
「駿河さんの好きな曲ですよ!」誰かが秋利の背を押し、生演奏のカーテンの前に連れていかれる。バイオリンとチェロ、グランドピアノ等が並ぶステージを想像した秋利は、勿体ぶってゆっくりと開かれる重厚なカーテンを凝視した。
「・・・・!」
現れたのは、白い肌が縺れ合う淫猥な図。声こそ聞こえないが、同性同士が欲情に濡れた目をして交合っていた。秋利にとっては慣れているものでも、ノンケの人間達には強烈な嫌悪感を表すもの。背後でざわざわとした囁きが聞こえ、秋利はこういうのが好きなのか?と蔑みの視線が突き刺さる。
「ち・・・違うんだ・・・」
今まで、仲良くしてきた同僚達が「だって駿河ってホモだろ?」などと嘲笑する。女子社員や上司などは冷ややかな目で秋利を睨み、目が合った途端汚いものでも見たかのようにふっと視線を外す。
一番恐れていた状況が目の前に起きているのに、秋利は半ば混乱してカーテンの奥で絡んでいる男達を引き剥がしにかかる。
そんなもので、一度認識した事を覆せるはずもない。無駄なこととは分かっていても、そうしなければならないと取り憑かれたような激しさで男達を追い払った。
「・・・・はやく出ていけー!・・・っ!!」
滅多に怒鳴る事がない自分が大声で叫んだ声で、秋利は覚醒した。
静まり返った部屋に携帯から流れる着信音が鳴り響いて、それが夢の中で流れていた好きな音楽だったんだと苦笑いをしつつ、鞄の中に入れっぱなしだった携帯を取り出す。切れる事なく鳴り続ける着信音は、秋利が心を許している仲間からの着信でしか流れないメロディで、待受画面を見ずとも誰が掛けてきているのかは分かっていた。
「はい。
<あれ?何で出るんだよ?仕事中じゃないのか>
ゲイ仲間で、秋利と同世代の勇河は社会に属するのが嫌いで、自ら居酒屋を経営している実業家だ。あのBarと同じく、表向きはただの居酒屋だが、店の奥に秘密の社交場を作り、そういう趣向の者達の憩いの場としている。唯一異なるのは、店の名前が一目でそれの為の店だと分かる所で「バラ族」などという、尤もらしい店名だからか結構な賑わいなのだ。
「なんで出るんだとか・・・じゃあ掛けてくんなよ。仕事は首だよ。ゲイってバレただけでな」
<お?何かイラついてる?首って・・・お前、とうとうカムっちゃった?>
今まで、朝から自宅に帰る前までは一切の着信は拒否していた。もちろん、会社用の携帯を渡されていたから全く不自由はなかったし、仲間も仕事をしている者が多い為、不躾に掛けてくるのは気ままな自由業の勇河だけだった。留守電機能は付けていない為、どうしても用がある時には鳴動時間一杯までしつこく鳴らすしかないと勇河も分かっている。
何か重要な事なのかと思った秋利は、出ない方に掛けていたかのような勇河の台詞に苛立ちを隠せない。
「はぁ?俺がどれだけ周りに隠してたかって知ってるだろ?バレたって言ったろ!誰かが会社に匿名でタレこみしやがったんだよ」
<まあまあ、落ちつけ。俺が悪かった。ところで、仕事がないなら暇だよな?これからちょっと来いよ。今日はとっておきのマッチョが来てるんだぜ>
「・・・そんな気分じゃない。それに、俺はマッチョはタイプじゃないし・・・」
会社を首になった事など大した事ではないと思っているのか、勇河は自分の店に来ている客にフリーの秋利を紹介しようと目論んでいるようだ。今までも、何回かは紹介され付き合った事もあるし、その中の1人があのメールに添付されていたキスシーンの相手だったりもする。
勇河とて、秋利がいつまでもフリーなのを心配するあまり、フリーの客を見つけては紹介してくれているのだと思うが、時間を選ばない傍若無人な勇河にはほとほと困っている。
<マッチョは言い過ぎか・・・長身で、男臭い色男なんだけどなぁ・・・。お前なんて、ひょいっと抱き上げちゃえるぜ?>
電話の向こうでは、夕方にほど近い時間でも盛況なのが伝わってくる。夜はそれこそ御用達っぽい店に変貌するが、開店直後のこの時間は普通の客も大勢来ていて、よっぽど勇河の経営が上手いのだろうと感心してしまう。
電話の側に居る、そのマッチョな男を眺めながら説明するのは目に見える様で、言われるままに形容していくと、秋利の頭には自分を繁華街のメインストリートの中横抱きにして歩いた男が瞬時に浮かび上がった。長身で男臭い、それでいて秋利をひょいっと抱き上げる強靭な筋肉に覆われた逞しい筋肉。
「・・・へぇ・・・」
<んん?ちょっと興味あるだろ?会社首になった経緯も聞いてやるから、な?気分転換に来いよ?家で湿気てるとロクな事考えないぜ?>
「・・・分かったよ」
秋利をホモだ、ゲイだと倦厭していた男が勇河の店になんているわけがない。何故か、安曇の事が頭から離れない秋利は、それがどういう意味を持つのか分かっていなかった。
寧ろ、日常に隠れて潜む秋利の様な趣向を持つ者を嫌っている、自分の敵だという認識しかないと、言い聞かせていた。