幼子が二人。
レースをふんだんに使った可愛らしいピンク色のワンピースに赤い靴を履いた女の子と、服装から見れば、男の子に見えるヒーローもののTシャツに半ズボン、運動靴を履いた「女の子」。
片田舎の夏の遊び場は専ら神社の境内で、かくれんぼや鬼ごっこ、人数が多ければ多いほど、朝から夕方まで家に帰るのも忘れて駆け回っていた。

ーだが、この時は違った。

理由は覚えていないが、その時二人は夕方以降は入ってはいけないと言われていた境内の裏手にある森の中に居た。
幼い子が親の言い付けを破ってするものなど、たかが知れているが、その時の二人にとってはとても重要な事だった気がする。





夏とはいえ、油断していると陽が傾くのは案外早く、気がつけば辺りは薄闇に包まれそうになっていた。

「ねぇ。暗くなってきたよ。帰ろう?」
「まだ大丈夫よ!秋利、弱虫なんだ~」
「違うよ!ママの言い付け破ったら怒られるよ!」

女の子よりも可愛らしい顔立ちの秋利は、服装だけでも男の子っぽい物をと母親が戦隊ヒーローがプリントされている服を無理矢理着せている為、見た目は「女の子」が好んで男の子っぽい服装をしているように見える。
一方、お姉さんぶった態度で秋利を笑った女の子は、秋利の従姉妹で同じ幼稚園で同い年の薫といって、顔立ちは秋利より大人びているものの、姉妹と言っても良い程のそっくりな造りをしていた。それが、下卑た男達のかっこうの餌食になるとも知らず、二人は良くこうして森に来ていた。

「あれぇ?お嬢ちゃん達、こんな所で何してるの?」

迫り来る闇に怯えていた秋利の背に、舌舐めずりでもしそうな野蛮な出で立ちの男が声をかけてきた。
如何にも心配そうな言葉で近寄って来ると、薫と秋利を交互に見てニンマリと笑う。
その顔が赤ずきんに出てきた狼の様で、秋利はひっ!と叫ぶと薫の背に隠れた。
男たるもの、女を守れ!と厳しい躾をしている父親に見られたら、拳骨ではすまないなと思いつつも、同い年でもしっかりしている薫は、そんな秋利を庇う様に両手を広げて男を睨みつける。

「秋利!私の側から離れちゃダメだからね!」
「うん・・・」

「知らない人についていってはいけません!」と口を酸っぱくするほど言われていた秋利にとって、突然現れた男の存在は震えあがるほどの恐怖である。一定の距離を置き、薫の勇敢な態度を目を細めて眺めている男が、ふと後ろに目配せをしたのを秋利は気がついていた。しかし、それが何を意味するものかを察する程、秋利は大人ではなかった。

「あっ・・・!」

背後から伸びて来た太い腕が、秋利の脇をガッチリと掴み抱えられる。いとも簡単に薫から引きはがされてしまった秋利は、自分に何が起こったのか瞬時に理解出来ず急激に視界が高い位置に来たのに目を丸くした。振り返った薫の顔が驚きに見開かれているのを見て、やっと自分が知らない男の人に抱え上げられたのだと悟る。

「秋利!!」
「薫!」

手足をバタつかせ、なんとか男の手から逃れようと試みるも大人の手から容易に逃れる事が困難である事を、同じく大人の父親にお仕置きを受ける事が多い秋利は抵抗しながらも感じていた。

「やんちゃなお嬢ちゃんだねぇ。おじちゃん達にちょっと協力してくれれば、すぐにお家に帰してあげるよ」

必死の抵抗をする秋利に目をやり、肩を竦めた男は秋利を振り返っている薫の口を大きな手で覆うと、そのまま森の奥へと抱きかかえて連れ去っていく。
恐怖のあまり声が出せない秋利は、薫の危機を感じ更に抵抗を強めるものの、地に足がついていない秋利もまた、薫が連れ去られた方向へ抱えられたまま移動させられる。

「やだっ・・・やだぁっ・・・!」

背後の男が両手で自分を抱えている為、口を封じられる事がないと感じた秋利は震える声を必死に上げ、周囲に人が居ることを願った。
しかし、夕方以降の森には野生の動物達が増えてくると、大人たちも滅多な事がない限りこんな鬱蒼とした森の中まではやって来ない。それを知りつつも、秋利はどんどん深くなる森の中を移動させられつつも声を上げ続けた。

「おい、そっちはお前がやれ。五月蠅くてならねーよ」
「いいぜ。俺ぁ、やんちゃな子が趣味だからな」
「けっ、いいやがる」

森の中で、木々を伐採する為に作られた空間に辿りついた男達は下卑た笑いを浮かべ、互いの獲物の分配に興じている。
それぞれ抱えた方を自分の餌食にするつもりだろうか、秋利は自分が食べられてしまうのかと子供心に皮膚を食べられたら痛いんだろうなと涙を浮かべ、両親の言いつけを守らなかった自分と、自分の所為で食べられてしまう薫の事を悔やみ、大粒の涙を流して泣きだした。

「幾らでも泣いてもいいぜ?ここは誰も来やしねーからな」
「さ、始めるか。興奮するなぁ・・・お嬢ちゃん、静かにしてれば気持ち良くなるからねぇ?」
「やっ・・・!何するの!!パパとママに言いつけるから!!」

薫を餌食に決めた男は、封じていた口元の手を離して彼女自慢の洋服に手を掛ける。それに危機を感じたのか、薫は幼いながらも必死に男を牽制する。泣く事しか出来ない秋利と比べ、自分なりに効果的な言葉を選んで抵抗する彼女には凛とした強さがあった。

「はいはい。どうぞ~?幾らでも言いつけてくれよっ」
「やぁっ!!秋利!逃げて!!!」

ワンピースに付いていたボタンが弾け飛ぶ。何をされるか薫には察しがついたのか、声を張り上げてくるのを見て、秋利はその場で固まってしまう。
恐怖と興味と。人間が食べられる瞬間はどんなものだろうと、目の前で繰り広げられる悪魔の晩餐から目が離せない。

「秋利?・・・そういや、女の名前じゃねーな」
「うわっ」

薫の衣服が無残にも引きちぎられるのを見ていた秋利の下半身に、無骨な男の手が半ズボンの裾から忍びこんでくる。
一瞬で辿りつく小さな男の証に触れた男は、しばらく無言でその証を弄び、やがて大声で笑い出した。

「おい!こいつ男だぜ!?ちんこついてるぞ」
「はぁ?そんな女みてぇな面してんのにか?」
「こりゃ傑作だ!一回、男も食ってみるか」
「お前も物好きだな。勝手にしろ、俺は興味ねーし」
「じゃ、遠慮なく」

言って、秋利を抱えていた男は薫がされている事と同様に身につけているものを乱暴に引き裂き始める。
ビリビリと容易く服を破いていく男を凝視し、秋利は恐怖の他になにか胸の奥から滲み出てくる奇妙な感じを味わっていた。

「やっ・・・やだぁ・・・っ」
「イイ子にしてろ」
「秋利!早く逃げて!!」
「か・・・おるっ・・・」

薫の必死の呼びかけにピクリと身体が反応するも、全裸に剥かれた秋利の上を這いまわる男の手の熱さに抗えない魔力のような気持ちよさが彼女の声を耳にする事を止めていた。
声では拒絶を露わすものの、既に身体は愛撫といえるものでもないものにも反応しかけている。
逃げなきゃ、薫を助けなきゃと思う気持ちは、いつしか白い幕で覆われて、自分の中に芽生える快楽に身を興じていた。






それから数時間後。
気を失った薫と、茫然と彼女を見つめていた秋利を発見したのは、辺りでは見た事がないランドセルをしょった男の子だった。
探検ゴッコでもしていたのか、手には木で作った銃を持ち昆虫を入れる籠には沢山のカブトムシ。
薫と秋利が居る事に驚いた様子で近づいてきた男の子は、さすがに尋常ではない雰囲気を察し「そこに居ろよ!」と言い残し、一目散に森の出口へ走っていった。
その後ろ姿を目で追い、やっと家へ帰れるんだと安堵した秋利は、つい先ほどまで行われていた惨劇を思い出し、シクシクと泣きだした。
脳に記憶されたのは、自分が感じた悦楽の感覚と、薫がされていた暴行の数々。男の自分より、女の薫が受けたものはこれからの将来きっと傷として残るだろうと、助けられなかった己の不甲斐無さと、それを感じながらも男の手に身を任せていた自分とが綯い交ぜになって、言いようもない悔しさが募る。

「秋利!薫!」

完全に夜の闇に支配された森の中に懐中電灯の光が射し込み、ようやく親が来てくれたと知った秋利はその後ろから、親達を呼びに行ってくれた男の子がついて来ているのを見た。
薫の状態を嘆き、秋利の姿を見て悲嘆に暮れる双方の両親が「無事で居てくれただけでも良い」と抱きしめてくるのに、居たたまれないと言った様子で立ち尽くしている彼は秋利の胸に大きな印象を与えた。
この人は誰か?と聞ける状態ではないし、夜が明けてから両親に尋ねればよいと思った秋利は、そのまま父親の腕に抱かれて家路に着く事となった。






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今でも鮮明に残る記憶ではあったが、男にレイプされた事など常日頃感じているわけにもいかず、薫の事を思うにしても思った所で気に病む事しか出来ない。
余程のキッカケが無ければ思い出す事がないようにと、無意識に頭の片隅に封じ込めているにも関わらず、安曇を見ていると知らず知らずのうちに「自分が男にしか興味を持たなくなった」要因の時の事が甦って仕方がない。
見ず知らずの男の手によって開発されてしまった自分の忌むべき身体。それにハッキリと気がついたのは、大学の頃隆生に恋い焦がれた時からではあったが、それ以前にも何故だか自分は大人の男から言い寄られてはいた。それを嫌悪しない自分も不思議だったが、全ては、この幼児期の体験が起因しているのは確かな事。
そして、最初に秋利を見つけ、両親を呼びに行ってくれた小学生の男の子の存在が今でも気になっていた。あれは一体誰であったのか。親に聞いても「そういえば見ない顔だった」としか教えて貰えなかった。秋利の中で、いつまでも小学生の姿で残る少年。もしかしたら、あれが秋利自身が初めて味わった初恋の相手なのかもしれない。
安曇を見ていると、その少年が大人になったらこんな感じになるのだろうかと感じる時も多々あることには自分の中で必死に否定している。
否定しなければ、一度捨てた恋心が頭を擡げてきてしまうのが分かっているから。

「・・・」

激しいセックスの後、必ず少しばかりの仮眠を取る安曇の寝顔を見つめ、秋利はその顔にそっとキスを落とした。