高校を卒業して入社した会社で、ひときわ印象に残っている人がいた。
通勤に2時間近くかけながら、いつも私より早く出社している人だった。
その人の「おはようございます」という一言は、どこか温かくて、朝の少し重たい気持ちをやわらかくしてくれた。
営業の仕事をしていたその人が、ある日ミスをした。
上司から厳しく注意を受け、取引先にも電話越しに何度も頭を下げていた。
夜7時を過ぎても席に残り、仕事を続けていた。
その日、何時に帰ったのかはわからない。
それでも翌朝、いつも通り早く出社し、何事もなかったかのように仕事をしていた。
その姿を見て、胸が苦しくなった。
優しくて、いつも周りに気を配っている人が、苦しそうにしている。
それをただ見ていることしかできない自分が、どうしようもなく嫌だった。
あの頃の私は、自分のことで精一杯だった。
周りに目を向ける余裕なんてないと思っていたけど、本当は違ったのかもしれない。
ただ、向き合うことから逃げていただけだった。
この出来事をきっかけに、困っている人を見ると放っておけなくなった。
大したことはできなくても、せめて少しでも力になりたい。
そう思うようになった。
あのとき、言葉にすることはなかったけれど、
「誰かの心を少しでも軽くできる人になりたい」と、静かに思っていた気がする。