西塔のゼノンの部屋には、内側からドアを開けようと、必死に爪で引っ掻く音や、嘴で突く音がしていた。

 

この状況を、早くメグミに伝えなければ。

 

黒猫のカノンと鳩のアガレスは部屋から出ようとするが、一向にドアは開かない。

 

ゼノンの魔術で完全に閉ざされていた。

 

「ダメだ。開かねぇ。ご主人の暴走癖は結局治らないのかよ。どうにかしてメグミに会わねぇと」

 

「どう足掻いてもここから出られないなら、いっそメグミが来るのを待った方がいいんじゃない?きっとまた用事があってここへ来るよ」

 

「何呑気な事言ってんだよ。そう都合よくここへ来るわけ・・・」

 

そのとき、ドンドン、とドアを強めに叩く音が聞こえた。

 

二匹は顔を見合わせ、ドアに駆け寄る。

 

「メグミなのか!?ここを開けてくれ!!」

 

「黒魔術がかかってるんだ!!君の歌で無効化してよ!!」

 

すると再び、ドンドンと叩く音。

 

こちらの呼びかけが聞こえていないのか、強めのノックは暫く続いた。

 

「・・・んだよ。せっかく人づてに聞いてやっとゼノンの部屋まで来たのに。留守か?」

 

男の声。メグミじゃない。

 

誰が訪ねて来たのだろう。

 

「今の、聞き覚えあるな・・・。あぁ、あれか、レジスタンスの小僧か!」

 

「へぇ。ここに何の用だろう?この際誰でもいいから助けてもらおうよ!」

 

「でも俺たちの声が届いてないみたいだ。防音の魔法でもかかってんのか?」

 

「それなら向こうの声も聞こえないはずじゃ・・・」

 

すると、諦めたのか、ノックが止み、ドアから遠ざかっていく足音が聞こえた。

 

「あぁ!!行かないでくれよ!メグミを呼んできてくれ!!頼む!!」

 

しかし無情にも、足音は聞こえなくなってしまった。

 

「僕もう疲れたよ。少し休憩しようカノン」

 

「いっそ、悪魔化するか」

 

「部屋がぶっ壊れてもいいって言うならお好きにどうぞ」

 

 

 

ゼノンに会えなかったアランは、仕方がないのでひとまず腹ごしらえしようと食堂へ向かった。

 

「ちっ。ゼノンに会えばちっとは俺も役に立てるかと思ったのに。ツイてねーな。昼メシ食って、午後から出直すか。・・・にしてもペット置き去りにして出かけるとか薄情な飼い主だぜ」

 

カノンやアガレスの声はドア越しにしっかりアランに聞こえていた。

 

しかしそれは、“言葉”ではなく単なる“鳴き声”にしか過ぎない。

 

『意思疎通』の白魔術を施されていないアランにとっては・・・。

 

 

 

一方、メグミは城下で、いるはずもないアンナをずっと探していた。

 

「どこにもいない。広いし。城下に来てたら、そう簡単に見つかるわけないか」

 

歩き疲れたので、近くのベンチに腰を降ろす。

 

振り返ると、あの森へと続く大きくて綺麗な湖が日に照らされてキラキラと光っていた。

 

「魔族との争いは、あそこから始まった。そして、終わったんだね。この本の世界が平和になって、本当に良かった」

 

自分を飲み込み、城へ連れて来てくれたパルバン。

 

今はもういないが、改めて湖に向かって感謝した。

 

その後は、レジスタンスの元アジトの近くに行ってみたり、閉店したゴードン・レストラン跡地を覗いてみたり・・・。

 

アンナ探しはいつの間にか思い出巡りへと変わっていた。

 

「私のこの世界での役目も、ほとんど終わっちゃったんだね。後どれくらい、この景色を見ていられるんだろう」

 

城下町からハトリック城を見つめ、不意に寂しさが込み上げた。

 

長い間お世話になったお城や、そこで出会った人々ともうすぐお別れしなくてはならない。

 

「現実世界に戻ったら、ゼノンやロビン、アメリア姫たちとも二度と会えなくなる。もう、お話できなくなるんだよね・・・」

 

気がつけば、涙が出ていた。

 

アンナに会って、帰り方をちゃんと確認したい。

 

けど、急にそれが怖くなった。

 

「・・・どうしよう」

 

自分の中に、芽生えた迷いは、城に戻ってからも消えることは無かった。

 

 

 

「メグミ!戻ってくるの早かったな!アンナは見つかったのか?」

 

「・・・ううん。いなかった」

 

その日の夕方、レジスタンスの部屋で、メグミとアランは再び落ち合った。

 

朝とは打って変わって、覇気が無いメグミを見て、アランが焦る。

 

「おいおい、そんな落ち込むなって!俺の方だってゼノンに会いに行ったのに留守で会えずじまいだったんだから!アンナが見つからなかったのはお前だけのせいじゃないって!明日になりゃ教会で仕事してんだろ!仕事終わりに捕まえりゃいいじゃねーか!」

 

元気が出ない理由はそこじゃないんだけど・・・。

 

メグミはため息をついた。

 

「ごめん、ちょっと私に時間をくれない?気持ちが追いついてないの。整理できたら、また声かけるから」

 

小さくそう言うと、メグミは部屋から出て行った。

 

「なんだよ、見つからなかったのがそんなにショックだったってのか?変なヤツ。明日でいいじゃん」

 

勘違いしているアランは、特に心配するでもなく、他の仲間と合流していつも通り笑い騒ぐのであった。

 

 

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思ったより書き溜められたので自動更新しています。

明日ももう1話アップできそうです。

その後は未定です・・・。