夜、私はベッドの上で、なかなか寝付けないでいた。

 

城下で思ったことをずっと考えてしまい、不安が心を支配していた。

 

現実世界に戻る方法。

 

物語の正しい結末。

 

以前アンナが教えてくれたのは、私がロビンと結ばれること。

 

それは私も心から望んでいた。

 

だけど、そうなってしまったら、私はもうこの世界にいられないんだよね・・・。

 

 

 

私は目を閉じて、物語の事をもう一度振り返ってみた。


現実世界にいた頃、同じ夢を繰り返し見ていた。

それが、私とファンタジーワールドを繋げるきっかけだった。


王子であるロビンがビアンカ姫を守り、魔族に貫かれる夢。

 

私があのビジョンを見たのは、私がビアンカ姫の生まれ変わりで、その記憶が残っているから。

 

それは分かる。

 

けど、どうしてよりによってロビンが呪いにかかった瞬間の記憶だったのかな?

 

ビアンカにとってそれが一番大事な記憶だから?

 

それとも・・・

 

「もしかしてビアンカ姫は、あのビジョンで何かを私に伝えようとしてた・・・?」

 

私は自分の胸に手を当てた。

 

「・・・そうなの?ビアンカ姫」

 

問いかけてみても、真相は分からない。

 

ただ、ビアンカ姫は私に何かを訴えかけている。

 

そんな気がしてならなかった。

 

 

 

考えているうちに深い眠りに落ち、私は夢を見た。

 

久々にあのビジョンの夢を。

 

私はロビンの後ろにいて、戦いが終わるとロビンは黒い何かに貫かれて、倒れた。

 

いつもなら、ここまでだった。

 

けど今回は・・・。

 

「王子・・・?」

 

倒れたままのロビンに近づく。

 

彼は動かない。

 

私は震える声で唄い始めた。

 

全てのものを癒す力。

 

唄う事で、ロビンを助けようと思った。

 

けれど、彼は目を閉じたまま反応が無い。

 

手遅れだった。

 

「王子、いや!そんな・・・。お願い、目を覚まして!もう一度私を見て・・・」

 

私はこれが夢であることを忘れていた。

 

祈る気持ちでロビンにそっと口を近づけた。

 

キスで姫が目覚める話はよく聞く。

 

奇跡を期待してのことだった。

 

ロビンの唇に触れるのと同時に、私の中に何かが入ってくるのを感じた。

 

すると、王子は目をゆっくりと開けた。

 

信じていた奇跡が、起こったのだ。

 

しかし、喜ぶ間もなく、私はその場に崩れ落ちた。

 

視界がだんだん暗くなる。

 

王子の顔がぼやけて消えた。

 

 

 

一体、何が起こったというの?

 

――私は死んだ。ロビンへの口付けによって、魔族の呪いを私が代わりに受けたから――

 

声がした。

もしかして、ビアンカ姫なの?

 

――その代償として、ロビンは私への想いに縛られ続け、私の子孫は力を失い続けた――

 

え、それってどういう?

 

二人とも呪いにかかってしまったって事?

 

――あの人を助けてあげて。お願いよ――

 

呪いを解くにはどうしたらいいの?

 

知っているなら教えて、ビアンカ姫!!


そこで目が覚めた。

 

あれはただの夢じゃない。

 

ビアンカ姫はまだ私の中にいる。

 

「黒い何かに貫かれて、あの時ロビンは死んじゃったんだ。けど、ビアンカ姫のキスで目覚め、代わりに姫が死んだ。呪いは、それをきっかけに始まってしまった・・・」

 

“私の子孫は力を失い続けた”

 

「あれは、アメリア様の治癒の力がロビンにしか通用しなくなったことを言ってるんだ。世代を通して力が薄れていったのはあの時受けた呪いのせいだったんだね。そしてロビンの方にかかった呪いは・・・」

 

“ロビンは私への想いに縛られ続け”

 

「ロビンがビアンカ姫を想っている以上、彼女のいない世界を転生し、生き続ける。ロビンの苦しみはそうして永遠に続く。これがロビンにかけられた呪い」

 

私はこの時、ハッとした。

 

「だとしたら、ロビンの呪いを解く方法は・・・」

 

ロビンに、ビアンカ姫への想いをなくさせればいいの?

 

アンナが言うように主人公の私と結ばれれば彼の呪いが解けるのかな?

 

ビアンカ姫への想いが断ち切られるのかな?

 

とてもそうは思えないけど。

 

だって私は本の人間じゃないもの。

 

ロビンの傍にずっとは居られない。

 

それでロビンは幸せ?

 

「いや、そもそも私はビアンカ姫には勝てない。ロビンは私じゃなくて、私の中のビアンカ姫に会いたがっているんだから」

 

思い返すと、モヤモヤしてきた。

 

私は勢いよくベッドから起き上がると、着替えを済ませ、食堂へ向かった。

 

「何が正しいのか分からなくなっちゃった。もういい。ひとまずご飯食べて、アラン誘って、やっぱり直接作者に聞きに行こう。それでやるべきことがはっきりしてスッキリするなら、何でもやってやるわよ!」

 

ビアンカに振り回されている気すらしてきて、若干ヤケ気味になっていた。

 

ご飯を食べればきっと落ち着くだろう。

 

呪いの事も、アンナに話せば気持ちが楽になるかもしれない。

 

いいアドバイスももらえるだろう。

 

皆に会えなくなるのは辛いが、自分は主人公としてやるべきことを最後まで果たす。

 

ビアンカの夢を見たことで、寂しさよりも使命感の方がずっと強くなった私は、改めてアンナに会う決意をした。