一人暮らしを始めて、ちょうど一年が過ぎた。

あたしがこの狭い1Kにひとりきりだった時間なんて、正確には、ほとんどない。
引っ越してから最初の2ヶ月は彼が出入りしていたし、入れ替わるように現れた同居猫が、今となっては帰りを待ち詫びてくれる唯一のソウルメイトだ。

高速に巻かれるようにそびえる薄い灰色の建物は、その立派な外観とは裏腹に、あまり外向けできない事情の人が多く住んでいる。
明け方近く、尖った踵で冷えた廊下を蹴る彼女は、がちゃがちゃ鍵を鳴らしてドアを開く。同じ頃、単身者用マンションの一室に集う4人の男が、大声で何やら意味不明な言葉を発しながら出て行った。

そんなこの場所を、あたしは愛しているのだと思う。誰もが面倒を放棄して帰ってくるこの場所。気怠い帰路の先に待つ、各々の熱いシャワー。
朝は、太陽だけが連れてくるものではないということをまことしやかに教えてくれたのは、グレーのコンクリートと、ボルドーの遮光カーテンだった。

嘘っぽい灯りに24Hと縁取られた店で、ヨーグルトを買った。「カロリーオフ」のどきついピンク色が、真夜中の不摂生に言い訳をしているようで好ましい。
言い訳もせず、不正を不正とも気がつかず、その上、世のためになっていると傲っている人たち―昼間大きな顔を晒して歩いている人たち―は、不摂生もしないのだろうか。



3層のセキュリティの先には、護るべき幸せの個室が待っている。護られるべき人たちの気怠い帰宅は温かく、あたしを安心させる。

不摂生が連れてくる朝をこんなにも、愛している。
時間を共有する相手なら、
きっと誰でもよいのだろう


寝床を分け合ったり、食卓を囲んだりしたところで、

同じセカイを見ている訳でもないのだから。


ただ、少しだけ怖いことがある。

大切でないものを周囲に並べているうちに
大切なものが見つけられなくなっていることに気付いた。


簡単に手放すことに
慣れてしまったこの頃は
誤って、
大切なものまで棄ててしまうことが
多くなった。


誤ったことに、後悔も残らないのだけど。


守りたいもの
手に入れたいもの
貫きたいもの

蘇生が必要かどうかも分からない。
いろいろ飲んできたけど
いまのおくすりが
いちばんキツいかも。


日毎続く鈍痛。

恒常的な吐き気。

動けない。起きられない。

目の奥が痛い。

かなりの強敵。
こいつに抗うべきか。


刺してくれればいいのに。

いろんなことがめんどうで

今夜眠りに落ちたら、
どろどろ溶けて、
カタチがなくなってしまいたい。
そうでなければ
目をつむって
息を潜めて
岩になってしまいたい。


なんだろう。
自分の周りから、
何かに押されているこの感じ。

圧迫感。

いたい。おもい。

いたい。おもい。
【そのとき】だけ
相手を好きになったり
自分のものだと想ったり。

そういうことは
男のひとによくあるみたい。


寧ろ
【そのとき】のために
気持ちに灯を点すのは
彼らにとって簡単なこと。


だから
【そのとき】
彼らの口から紡がれた
優しくて易しい言葉たちは
皮膚に絡ませて愉しむだけでいい。


【そのとき】の愉しみ方。