「うっ、なんだこれは?」
対峙した吟之助は、いやらしいサングラス風のめがねをかけて、不愉快そうに人を見下しているパンチパーマ風の異物に出遭った。
その男の周囲には、倒されたらしい住民の残骸が……。
「そうか、こいつか、この平和な地域に侵入してきた悪性ウィルスの親玉というのは」
さて、どうする。みんなに知らせるか?
そうすると向こうも隠れるだろうから、その前に一人で奴がどのくらいできるか腹芸較べでもしておくか。
退く様子はないから押し出しも多少出来るようだが、果たして機に対し敏かな。
ほほう、変幻もできるとは嬉しい。手ごたえありそうだ。
しかし、こいつの狙いは何だ?
増殖か。
すると、ここの栄養源であるたんぱく質を食われる前に、このグラサンの異物をやっつけて無害化または排出願わんといかんな。
よし、本部に報告!
「こちら偵察部隊の吟大尉、人体本体の左上腕部付近にグラサンした外敵発見、本官はこのまま監視活動を続けながら指示を待つ。」
「こちら本体自律神経指令本部。了解した。
ただちに人体本体には休息及び入浴などリラックスしてもらい、副交感神経優位の防衛体制に移行する。
各隊かかれ!」
「諒解した。こちらは副交感神経の指令所。
かかる当該事案は、この時期に多発するカゼのウィルス先遣隊と見られる。
よって白血球及びリンパ球の非常呼集後、ただちにスクランブル発進。
戦闘地域は本体左上腕部付近とみられる。なお敵の装備はグラサンと毒々しい触手」
「資料部はこれまでのウィルス情報から型を特定し有効手段を早急に調査せよ」
ここで解説を加えると、健康であるために人間の体は日々細菌などと闘っているのである。
いや、人間に限らずいかなる動植物もそうである。
それはゲノム(遺伝子情報)に生命存続の刻印がなされているからである。
たとえば、人間は恒温動物で体温はほぼ一定しているが変温動物の中には冬眠する個体もある。
また、野生の猫などを観察していると、猫いらずなどの毒物を体内に取り込んだ時は、ニラなどの野草を食べて吐きだし、デトックスなど無意識の防衛本能が瞬時に繋がって個体を維持するようになっている。
ストレスや疲労で躰が弱るとウィルスの侵入、発症しやすくなるが、予防策はある。
先ず帰宅したら、手洗い、うがいの励行。
そして入浴などリラックスして栄養、休養。無理をしない事。
これはどういう事かと言うと、仕事など緊張している時は自律神経の交感神経が優位に立っている時で、これが続くと免疫力が落ちる。
そうならないために、ONとOFFのメリハリをつける。つまり副交感神経優位にしてあげること。
その方法は、上記のリラックスなどで血中の白血球、特にリンパ球の量を増やして活性化し、侵入した外敵と闘い排出する。
暖かい部屋でみかんなどのビタミンCなどの栄養摂取などが有効だ。
そのあと、水分を摂ってぐっすり眠る。
後は汗をかいて新陳代謝をよくする。
快食、快眠、快便、そして運動をして各機能を活発に。
さて本部の指令で騎馬の一分隊が駆け付けて来た。
さすまたを構えて不逞グラサンを取り押さえようと円陣をせばめる。
すると不逞グラサン、なにやら口から蜘蛛の糸のような粘液を辺り一面に吐き散らした。
その毒気にあてられ、さすまたから伝わったか捕り手の手がしびれて全身に毒が回った。
つぎつぎに捕り手が倒されていく。
こいつ相当の毒の使い手だな。
本部!本部!至急、応援頼む!
(つづく)