むかしあるところに若い男がおった。
そしてその近くにあるスーパーがあって、そこのレジにいわゆる別嬪さんがおった。
二人はもう何年も顔見知りで傍で見ていても分かるほどの相思相愛の気(遇うと元気)が漂っていた。
しかしその若い男は不器用でそれ以上はなす術を知らず周囲をやきもきさせてもいた。
「ったくじれってぇ野郎だ」などと陰口を叩かれる始末。
しかし本人はいたって生真面目。
そんなある日、レジの娘は言った。
「あら、今日もまた野沢菜?」
男は恥ずかしそうに目が泳いでいる。
瞬間、娘は悟った。そういえば、これを薦めたのも私だったわ。この人はずーと言われたことを守る人なのね、と。
娘は気の毒になり、以来同僚の陰口にも庇い続けてきたのである。
そんなある日男が唐突に告げる。
「野沢菜って長野だね、明日長野にいってくる」
「はっ?」そうか今日は野沢菜、きらしてたわね。
確かにその男らしい言い方だ。
確かに野沢菜薦めたのは私だけど、なんで長野まで行くの・・・・・・?
そして次の日、その男はバスで長野に発った。 バスの後ろから娘が追いかけて来ている。
危ない、歩道には自転車が・・・・・・。
「止めてください」
「それは無理です」
男は気が気ではない。
ふぅー、大丈夫だったがバスからの視界からフレームアウトした。
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と、むかし似たような映画があったのに思い当たる方もおられよう。
そう、当時ブルーリボン賞受賞した「幸福の黄色いハンカチ」の設定、シーンに似ている。
そう、ただ似ているというだけで、この旅物語は始まる。
その男はバスに乗ってどこに行ったのか?
勿論野沢菜を買いに長野に行った。
娘は野沢菜が入荷すると云って男を見かけ追っていたのだったが・・・・・・。
しかし、男が着いたのは善光寺だった。「牛に引かれて善光寺参り」という言葉もあるが・・・・・・。
多分に、お世話になった作家の松谷みよ子さん、その先生が長野で何らかのインスピレーションをお受けになった事とも関係があるやも知れぬ。
いや、ただ野沢菜を追い求めて来ただけかも知れぬ。
時はあたかも北陸新幹線で湧く長野近辺。熱気のあるところに吸い寄せられたと云う見方もあながち否定できないやも知れぬ。
いんにゃ、それでは余りにも味気なさ過ぎて双方欲求不満になるであろうから以下に示す写真をご覧になって推論をお寄せください。