『抵抗する動物たち』グローバル資本主義時代の種を超えた連帯

 

2023年3月1日 第1刷発行

著者 サラット・コリング

訳者 井上太一

発行者 青土社

 

人ならぬ動物たちの行動や鳴き声などから、動物たちの「声」を「聞く」ことの重要性を語る本書では、人ならぬ動物の飼い慣らし、植民地化、資本主義との繋がりが明瞭となり、人間社会の構造の問題が可視化されています。そのため、読者に数々の気づきを与える1冊だと思いました。

 

この本を読んで思ったのは「人間以外の動物に対する人間の扱いは、人間中心な動物への認識や価値観」とのことで、人ならぬ動物たちは生の主体であるにも関わらず、人間はそのかれらを人間の利益ある「モノ」のために存在するものと位置づけているということです。人間は人間以外の動物たちを犠牲にして繁栄しているのです。

 

そして、人間が他の種の動物へ共感したり、感情移入したりするのは大集団の動物ではなく「個々の動物たち」に目を向けた時に発動しやすいことがこの本からよくわかります。

 

しかし、個々の動物たちに向けられた目が、動物に対する憎悪や危機感などであれば、個々の動物たちはまた人間の気まぐれで命を奪われるのです。

 

個々の動物たちを生の主体であると理解していない人間は、自分たちの気まぐれで多くの動物を殺し、利用し、種によっては種の絶滅を起こします。

 

人間による大きな抑圧から逃れようと、人ならぬ動物たちは行動を起こしますが、その声に耳を傾け手助けする人間はまだまだ少ないのではないでしょうか。

 

この本には、人間の抑圧から逃げる動物たちの物語が多くか書かれているので、読み進めるたびに胸が苦しくなりましたが、人間の抑圧から逃げた動物は、うまくいけばファームサンクチュアリに保護されます。しかし、ほとんどの抵抗者は、抑圧者に再度捕まり殺されています。サンクチュアリは人間が作り出した境界線を突破した者たちにとって安全で安心な暮らしを提供する大事な施設です。

 

抑圧システムから逃げ出した動物たちはしばしば笑いのネタにもされ、見世物として扱われる時もあり、人間の手から逃げる動物たちは命をかけて懸命に逃げているにも関わらず、多くの人間はかれらのその声を聞こうとはしません。

 

個々の動物たちの存在は、人間以外の動物に対する人間の意識や認識、価値観、ライフスタイルなどに変革をもたらしますが、残念ながら、ごく一部の変革に留まっています。

 

この本を読むと人間以外の動物に対する人間が行なっている支配・抑圧がよく理解できると思うので、動物たちの声を聞くためにも是非、多くの方に読んでもらいたいと思いました。

 

そして、人間が構築する社会の問題を理解しその問題の解決策を自分で考えてほしいと思いました。人間は他の動物種や自然環境への暴力行使で繁栄する歴史を歩んでいますが、そうでない繁栄の方法があります

 

まだ知らない方も多いかも知れませんが、差別に反対し、動物の犠牲を避けるヴィーガンという生き方があります。

 

動物たちを大きなひとくくりの集団と見るのではなく、「個々の存在」であることをこの本を手に取り実感していただけると幸いです。

 

ここからは、わたしの思考の整理をしたいと思います。

 

著者は「種を超えた連帯」を述べていますが、わたしと動物との関係とは少し違うと思いました。「連帯」関係(物事を行なうためにむすびつくこと)は力の不均衡があるとできないのではないかと思うのです。人間と人間以外の動物には、力の不均衡が必ずあるため、抑圧されている主役と人間であるわたしとの連帯関係は成立しないと思いました。わたしは保護鹿や同居犬と連帯している実感もなければ実態もありません。動物たちと対等であろうとしますが、保護鹿や同居犬の生活の支配(ご飯や散歩、生活空間)をしているのは事実です。

 

わたしと動物たちとの関係は、お友達ですが、声を抑制されている主役(動物たち)の声を聞き、その声を通訳するというものです。

 

第8章サンクチュアリで書かれているように、動物たちのその時々の感情を聞き、それに答えることがとても大事ではないかと思います。動物たちの行動や鳴き声、動作などから動物の声を聞きとり、それを人間が理解することで、動物たちの声は多くの人間に向けて届くのではないかと思います。

 

わたし自身、鹿たちの保護を「飼育下にいるこの子たちは不幸だ」と思うことがよくあります。しかし、他の国のサンクチュアリのように個々の動物たちの声を丁寧に聞き、その声に応えられる場所では、動物たちが不幸を経験しているとは言えず、動物たちは自分として生きることに謳歌し、人間の飼育下でありながらも(制限ありの)自由を得ています(訳者あとがきでもこのことに触れられています)。

 

動物保護関係の方たちには第8章を読み、他の国のサンクチュアリスタッフの動物に対する接し方や意識等をどんどん吸収して、動物の「声を聞く」プロになってほしいと思います。自分が担当する動物種だけではなく、すべての動物への思いやりと配慮、そして尊重を理解してほしいなと思いました。

 

動物の声を正確に聞くには、人間的であってはならず、誤った擬人化を回避する丁寧な動物観察や考察が必要になるので、「ありのままの動物」たちの姿を見て、生の主体である動物たちの声を聞き(観察)、種の異なる動物たちへの理解を深め、その声に応えたいものです。

 

人間以外の動物たちも自分で様々なことを考え、感じ、決断をもします。動物たちの時々の感情をわたしたちは最大の想像力でもって「どう思っているのだろう?」「こうしたいのかな?」と想像し動物の行動などから理解し、動物たちを取り巻く現状から多くのことを読み取ってほしいです。

 

人ならぬ動物たちの考えていることや感じていること、気持ちなどそのすべてをわたしたちは知ることはできませんが、動物たちの置かれている状況などからその者の気持ちや痛みを知る努力をして、動物たちの苦しみや悲しみ、喜びなどを共に感じることができるといいなと思います。

 

動物たちの声を聞いてみよう。

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