「<図説>生物多様性と現代社会『生命の環』30の物語」

著者 小島望 社団法人 発行所 農産漁村文化協会 2010年9月25日第1刷発行

 

本書は翻訳家の井上太一さんにオススメ本として紹介してもらった。

 

野生動物と自然環境を語るには、まず、基礎的な知識が必要になる。

 

本書には、その知識がぎっしりと詰め込まれているので、非常に勉強になった。

 

本書を読み、人間が過去から現在にわたり自然環境に行っている(きた)行為は、自然生態系に対し破壊的であることがよくわかった。

 

自然環境に悪影響を与える事業のひとつにダム建設がある。

 

ダム建設は川の構造やそこに棲む生物の生活を大きく変え、その変化は海までも及ぶ。

 

本書は、自然環境に対する人間の破壊(開発)行動が生態系に甚大な悪影響を与え、種の多様性に危機をもたらしていることがよくわかる構成になっているので、手元に置いておきたい一冊だ。

 

自然環境に対し人間が行う開発は、自然環境の構造を変え、生態系を破壊するだけでなく、その後、予期せぬ問題を発生させている。そのことからこの悪循環をどう食い止め、自然環境(生態系)を回復させていくかという課題の取り組みが急務である。

 

一般的に行われている河川工事(川を真っ直ぐにし、両岸・川底をコンクリートで固める)により、洪水が発生した東京都の町田は、その後、河川を昔の形状に戻す取り組みが行われ、河川の氾濫がなくなったそうだ。

 

自然環境に対する破壊活動がもたらす影響は、自然環境に生息する生物種だけでなく、わたしたち人間も及ぶ。

 

人間は自らの行いで、自らの生活を苦しめているのだ。

 

開発にあたり、開発者や政策を行う政府などは、「環境に影響はない」「市民の暮らしを考え開発が必要なのだ」などと説明していることが多いが、開発を行うことで自然生態系は破壊され自然エコシステムが崩壊する。この意味の重大さが理解されていないのだろうと思う。

生物多様性や自然環境を保護するための条例や規則などを定めても、それが抜け穴だらけだと保護に値しない。

 

自然環境とそこに棲む生き物たちはすべて繋がっており、その中にわれわれ人間も当然入っている。

 

自然環境と野生生物に対し人間が行っている暴力のしっぺ返しは必ずある。

 

地域によっては、自然再生事業が行われているようだが、現在は地球温暖化の影響もあり、過去とは異なる自然環境にある。

 

「自然環境を過去の状態に戻そう」と考えるのは妥当性がないと思う。

 

自然環境とは流動的であることから変化は避けられない。

 

破壊された環境は、破壊される前の自然環境には戻らないので、現状を把握したうえで、現代に合った自然環境保全を目指すのがよいのでは?と思う。

 

本書には「外来種が及ぼす影響」の解説もある。

 

「外来種」は自然環境の生態系に悪影響を与えると言われているが、最新の科学的知見では、非在来種が生物の生存できる生態系を構築しているとも言われている。

 

本書に非在来種は「『人工的自然』を好む傾向がある」と書かれているが、これは人間が荒らした自然環境(生態系)に非在来種が入り込むということであり、自然破壊によって、そこに生存できなくなった種に変わり、その地に適した他の種が生存(植生)し始めるということだ。

 

このようなことから非在来種は多様性を高めていると言えるが、非在来種と在来種が生存をめぐり繰り広げられる種間の行動が、在来種の生存を脅かすとも言われている。非在来種が在来種の個体数を減らすこが問題視されている。

 

しかし、生態系とはそういうものなのだ。環境に適応した種は繁栄する。生態系とは自然環境、植物、生物の関係によりその場、その場に流動的生態系を構築していく。その長年の過程では、種が交雑することもある。

 

本書にも書かれているが、問題は、人間が自然界で起こる種の移動域をはるかに超えた種の移動を行っていることや自然環境破壊・汚染である。

 

本書の最後には、このようなことが書かれている。

 

「『生物多様性』とは、突き詰めていけば、人間のためにも必要不可欠であるが、人間のためだけに存在するのではないとの結論に行きつく。『あらゆるものがつながっている。私たちがこの生命の織物を織ったのではない。私たちはそのなかの一本の糸にすぎないのだ』というネイティブアメリカンの言葉は、生物多様性のこの本質を的確にあらわしている」(223ページ)。

 

そして、問題点がまとめられている。

 

「生物多様性国家戦略は、生物多様性条約を締結した国に求められる、国として生物多様性保全に関する方針や取り組みについて定めた総合的な計画である。日本はこれまでこの戦略を2度改定したが、ほとんど効果をあげていない。縦割り行政・経済優先・生命軽視の日本政府の姿勢が変わらない限り、決して実を結ぶことはないだろう」(223ページ)。

 

自然環境保護や野生生物保護に関して問題山積であることは確かだが、日本のあり方を作ってゆく(政治を変える)のは、わたしたち市民であることから、自然環境保護や野生生物保護に関心のある方は、議員や行政などに自然動植物を守る声を届けよう。そして、身近な人たちに自然環境の話やそこに生きる生物たちの話もしてみよう。

 

 

本書を紹介してくれた、翻訳家の井上太一さんは現在、自著を執筆されており、5月に出版される予定だそうで、読むのを楽しみにしている。

 

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