2021年12月14日、東洋経済ONLINEに「全国で勢力拡大する『シカ』増えると困る理由~天敵不在で無双状態、生態系破壊の原因にも~」という記事掲載されていた。

 

・記事はこちら↓↓↓

内容はシカに対し現在一般的に言われていることの総まとめ集のようになっている。

 

シカの個体数増加の原因については、天敵の不在、降雪量の現状(地球温暖化)、植林事業、捕獲禁止措置、人間の生活形態変化があげられ、シカがもたらす問題としては、生態系の破壊や農作物被害交通事故があげられており、結論は、「食べて貢献、絶品シカ肉料理」「このクリスマスは、シカ肉のジビエ料理を楽しんでみてはいかがでしょうか?」ということだ。

 

つっこみどころ満載のひどい記事に仕上がっている。

 

この東洋経済記事に書かれている内容には以下のような反論がある。

 

シカの個体数増加の原因にオオカミの不在説については以下の通りだ。↓↓↓

 

オオカミが絶滅したのは北海道で 1890 年頃(俵 1990),本州では 1905 年頃である(栗栖2004).ところが,少なくとも北海道や長野県ではオオカミが生存していた時期にも多くのシカが生息していたことがわかっている(小山 2008, 揚妻 2009).シカは爆発的に個体数が増加しうる動物だとされている(Kaji et al. 2004, 三浦 1999).もしオオカミがシカの数を抑制していたのなら,オオカミ絶滅直後にシカは爆発的に増加したはずである.ところが,シカ個体群が回復してきたのは,オオカミ絶滅後 100 年も後のことである.そもそもオオカミが,増加するシカ個体群を制御している事例は必ずしも多くない(Skogland 1991).

●参考文献 揚妻直樹 「シカの異常増加を考える」HOKKAAIDO UNIVERSITY 2013-11-01

 

「オオカミの頭数とシカの頭数の相関関係を表すようなデータ」について、当館所蔵資料を調査しましたが、見あたりませんでした~」。

●参考文献 レファレンス協同データベース 提供館 中野区立中央図書館(2310165)

 

積雪量の減少によるシカの個体数の増加説についてはこちら↓↓↓

温暖化により積雪量が減少したことでシカの死亡率が下がり,シカが異常に増えているという説もある.しかし,そもそもこの説は,積雪が少ない地域には当てはまらない.さらに,積雪地域でも必ずしもこの説が支持されるわけではない.それは,温暖化の影響がほとんど現れていない時代に,先に示したように北海道や長野県などの積雪地で多くのシカが生息していたからである.確かに北海道では 1879 年と 1881 年に相ついで襲った豪雪がシカ個体群を崩壊させた事例もある(俵 1990).しかし,一方で北海道における 1980-2002 年までの積雪量とシカ個体群変動の分析からは,大雪が個体数を減少させていなかったことが示されている(Kaji et al. 2004).温暖化は平均気温を上げるが,同時に極端な気象現象も引き起こす(Sanchez et al. 2004).事実,記録的な大雪は 2000 年以降に各地で発生している.例えば2003-04 年の冬には北海道各地の気象観測地点で観測史上最高の積雪深が記録されており,1970 年代以降で最も雪が多かった(中村ほか 2004).さらにその翌年は,本州各地でも多くの観測地点で観測史上最高の積雪深を記録している(Agetsuma 2007).ところが,その後シカ密度が著しく低下した地域があるとの報告を聞かない.このように,単純に積雪がシカ個体数を抑制しているとも考えにくい。

●参考文献 揚妻直樹 「シカの異常増加を考える」HOKKAAIDO UNIVERSITY 2013-11-01

 

狩猟者の減少によるシカの増加説についてはこちら↓↓↓

シカの増加を狩猟者の減少と関連させている説もある.確かに 1970 年以降,狩猟者が激減し,狩猟圧も減ったと感じられるかもしれない.しかし,1970 年よりもう少し前までを視野に入れてみると話はずいぶん違ってくる.実は 1970 年代は,その前の年代と比べても極めて狩猟者が多かった時期なのである(図 3).少なくとも 1920 年代~1960 年代は,シカの被害が急加した 1990 年頃よりも狩猟者数は一貫して少ない.もし,狩猟者減少説が正しければ,1990 年頃より 1960 年以前の方が野生動物による被害が激しかったはずである.シカ個体群への影響を考えるなら,狩猟者数よりも実際の捕獲数の方を注目すべきだろう.しかし,狩猟・駆除によるシカ捕獲数は 1920 年代より一貫して増え続け,特に 1990 年以降は,狩猟者の減少にも関わらず急増している(図 3)(間野 1998).これでは過去に今よりもずっと少ない捕獲数でどうやってシカの数を抑制していたか疑問が残る.シカは人間が駆除しない限り増え続けるため(農林水産省農林水産技術会議ほか 2003),個体数が制御不能になる前に駆除しなければならないとの指摘もある(梶 2009).だからといって,かつては人間が狩猟によってシカ個体群を制御していたという根拠があるわけではない.むしろ,過去にたびたびシカが増えて人々を困らせていたという記録は各地にあり(Agetsuma 2007, 栗栖 2004, 小山 2008, 千葉 1995),かつても人間はシカ個体群を制御できていなかったことが示唆される.

●参考文献 揚妻直樹 「シカの異常増加を考える」HOKKAAIDO UNIVERSITY 2013-11-01

 

シカが生態系を破壊するという言説については、人間活動を度外視した発言である。生態系を破壊しているのはわれわれ人間で、その劣化した環境で適応行動をしているのがシカを含め他の野生動物たちだ。その行動や種を「異常」というならば、なぜそう考えるのか?根拠を示さなければいけない。

 

揚妻直樹 「シカの異常増加を考える」HOKKAAIDO UNIVERSITY 2013-11-01の最後にはこう書かかれている。

6. 異常な野生動物はいない

これまでシカが異常増加したことで自然生態系が破壊されていると考えられてきた(依光2011, 湯本・松田 2006).だから,人間の手でシカを正常な数に戻してやることが自然を守ることになると考える人も多い.個体数管理によって自然生態系を保全しようとする様々な提案や取り組みは,この発想から来ているようだ.しかし,本当にシカは異常なのだろうか.そもそも異常な野生生物というのは存在するのだろうか.生物の性質は永い進化の過程で環境に適応するように獲得されてきた.その過程で異常な生物は淘汰されていたはずである.それでも人々が異常に感じるのであれば,その理由は二つあるだろう.

一つは,その生物がおかれている環境が異常だということである.不自然な環境に適応するためには,生物は普通とは違う反応をしなくてはならない.つまり,一見,異常で不自然に見える生物の反応は,異常環境に適応するための正常で適応的な反応なのである.この場合,正常に戻すためには,異常な環境条件を取り除くこと以外にない.そして,その異常環境は人間が作り出したものであり,それが問題の根本的な原因となる.ただ残念ながら,こうした考えに基づく対策はシカの問題についてはほとんど発想されてこなかった.もう一つは,人々が正常と考えてきた認識が誤っているということである.1990 年代のシカの増加には目を見張るものがある.しかし,シカ個体群動態の歴史を見れば,現状のシカ個体数が自然ではあり得ない異常レベルかどうかは断定できない.一方,1970-1980 年代に成立していた植生がシカによって大きく改変されてきたが,では当時の植生が正常だったという根拠も明確でない.地域によっては 100 年近くも,シカがほぼ絶滅状態で経過していたからだ(揚妻 2009).シカがいないことで成立できた植生はむしろ不自然だったとも言える.シカに関しては科学論文の中でさえ,「増えすぎ」「異常」「不自然」などの言葉が何の定義もされずに頻繁に登場する.これらの言葉は,研究者の予想を超えた個体数となり,予想を超えた採食圧がかかり,予想していなかった植物種が食べられるようになった驚きを表している.しかし,それは過去の状態がどうだったのか,生物が本来どんな性質を持っているのかを,単に研究者が知らなかっただけのことかもしれない.

いずれの理由にせよ,シカに関わる問題をひとたび「異常」「不自然」と表現してしまうと,次なる人間の発想はその「異常」「不自然」をどう正すのかという方向に向かう.そして,“異常”なシカの数を“正常”にもどせば万事うまくいくと考えるだろう.しかし,それでは本当の問題から意識を遠ざけてしまうことになる.一見「異常」「不自然」に見える反応をなぜ動物たちが示すのか,何に適応した反応なのか,その原因を注意深く見極めて対処することが重要である.

 

一般的に言われていることを真に受けず、よく考えると疑問が出てくるだろう。その疑問を調べてみることには大きな価値があると思う。なぜなら、どんなことでも、そのことから過ちを正すことができるからだ。

 

少なくとも、苦しみ多大な恐怖と痛みを伴いながら殺された無実で小さく弱き者のからだの一部を誤って食べなくてもすむ。

 

科学的証拠に基づき正しい知識を身に付けよう!

 

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