『都市で進化する生物たち』

 

著者 メノ・スヒルトハウゼン

訳  岸 由二・小宮

発行所 草思社

2020年8月18日 第一刷発行

 

本書は、都市で進化を遂げる生物の記録や研究内容が書かれてあり、興味深かった。

 

現在、自然環境が人間活動により破壊され、野生動物たちの生存地が著しく減少し、野生動物たちの活動範囲の孤立化が引き起こす遺伝子の単純化などの問題(遺伝子プールの断片化)がひとつとしてあげられているが、都市で生きるシロアシネズミは、公園ごとに生息しているネズミで遺伝子が異なるそうだ。遺伝子的浮動とインブリーデングは個体群の遺伝子的健康を悪化させるものであるが、シロアシネズミは孤立した空間で上手く生存しているという。

 

偶然の遺伝子変異が消滅する可能性があるが、シロアシネズミはこの遺伝子変化がうまく作用し都市で生活をしている。都市における動植物の生息地の一つの特徴が遺伝子の断片化だそうだ。

 

本書には、都市で進化するさまざまな種が紹介されているが、どの種も環境の変化により、体格・耐性・行動が変化し、強い環境の変化が進化を加速させている。

 

そして、個体により、都市を好む者とそうでない者がいて、同じ種であっても田舎と都市暮らしの遺伝子が異なってくるという。

 

進化は、数世代・週十年で起こり、その進化の内容にはもともと生物学的に備わった能力、例えば、毒素を排出する作用が環境要因によってその作用が引き上げられ環境にうまく適応するということだ。

 

生物が生活する環境が生存率を上げるように個体や種を変化させ、それは、大気中の物質濃度や人為的な騒音、大気音度などの環境のあらゆることが影響を与える。

 

野生生物は人間活動に大きく翻弄させられており、進化論的罠では、環境に適応しながら命を落とす者もいる。

 

本書を読むと、人類がいかに他の動植物たちに影響を与えているかがよくわかる。人間活動が地球上すべての生物に影響を与えているのだ。

 

都市の61の庭を調べるBUGSプロジェクト(83ページ)では、10,166種の植物が見いだされ、これらの植物70%が外来種だったという。植物も庭ごとにほぼ完全に異なるそうで、新たに庭が加わると種類は増加するそうだ。

 

在来種、非在来種問わず、都市にあらゆる要素を入れ生態系を作り出しているのだ。

 

生物が織りなす生態系を綴った本書で、種の存在が自然生態系であるという興味深い内容に「生態系工学技術生物」であるビーバーの話があったので、それを紹介したい。

 

「生態系工学技術生物とは、生物的あるいは非生物的素材の物理的状態に変化を生じさせることによって、他の生物にとっての資源の有用性を調節する(中略)生物のことをいう」(P32ページ)。簡単に言うと「自分たちの生態系を自ら作り出す生き物」(32ページ)のことをいう。

 

「ビーバーの家族ほど優れた水文学的工学技術チームは他に存在しない。彼らは(中略)水の流れが緩やかな河川では直線的なダムを造るが、流れが速い川では(中略)ダムの形を曲線状にする。ダムができると川の流加速度は落ち、川幅が広がる。その結果、湿地が形成され、オオカミのようなビーバーの捕食者たちにとって足を踏み入れにくくなるとともに、冬季におけるビーバーの餌の供給が安定化する」(33ページ)。

 

ビーバーは歯を使い倒した木と岩を使い、陸上では運べない重さの建築材料で住居を建設。建築材料は大枝・小枝・草・土・泥・木片・樹皮で、ビーバーの活動が環境に与える影響は決定的に大きいという。ビーバーの活動により、あらゆる種にとって新たなニッチが生みだされるのだ!

 

ビーバーが造ったダムを手放した後、ダムは朽ち決壊するが、生じた洪水により、新たに川辺の草原が発達し、週十年それが持続するということだ。

 

すごい!としか言いようがない。ひとつの種が生態系・環境に与える影響の大きさを知った。

 

ビーバー以外の話でも興味深い内容が多い図書だったのでおもしろかった。

 

環境の変化に伴い、生存努力をしているあらゆる野生生物たちを排除することなく、彼らの種、個々の生活を脅かすことなく見守ってあげたい。

 

最後の「訳者のあとがき」では、「里山説」に触れられており、「混乱の極みは<里山>かもしれない」(330ページ)と書かれてあり、現状の問題点が指摘されている。

 

「里山」は外来生態系であるにもかかわらず、日本的自然の象徴をされ、外来種を排除せよという呼びかけが学者、研究者、ナチュラリストをこえ国民的熱狂になることさえある現状に、都市と里山と無垢の自然をわけて考える旧来型の景観生態学の方式に有望な未来を見ていないということだ。

 

どのようなことでも全面的に一致ということはないでの、本書はわたしの考えや思うことなど異なる内容もあったが、生物の進化や生態系を知るには勉強になる一冊だった。

 

・「里山説」については、「里山」は思想家や哲学者の脳内で作られた実際には存在しない妄想であることが分かっている。

参考文献

↓ ↓ ↓

 

 

●ブログ村の登録カテゴリーについてですが、今までは「犬」→「問題行動」に登録していました。

しかし、最近は犬の記事が減っているため、登録カテゴリーを「環境」→「自然保護・生態系」に変更しようと思いました。

今日から、「自然保護・生態系」のカテゴリーでランキングに参加しますね。どうぞよろしくお願いします。

 

★にほんブログ村のクリックをよろしくお願いします★

       ↓ ↓ ↓

にほんブログ村 環境ブログ 自然保護・生態系へ
にほんブログ村