改新みらいの冨井篤弥です。
伊奈町議会の令和6年6月定例会は一昨日に閉会しました。
今回審議した内容の中には、児童クラブに指定管理者制度を導入できるようにする条例改正案がございました。
文教民生常任委員会や、一般質問では、児童クラブの指定管理者制度導入について議論がなされました。
しかしながら、指定管理者制度を導入した場合のデメリットについて、その懸念事項を払拭できるような納得できる説明がないまま、議会で可決されました。
懸念事項は、伊奈町の子どもや保護者の皆様にも大きく関わるものでございます。
児童クラブのサービス低下や子ども達の安全安心に関わる懸念であるからです。
そもそも指定管理者制度とは?
指定管理者制度とは、自治体が管理している施設や、運営している事業などを自治体が選定した民間事業者に管理、運営する制度でございます。
いわゆる、官民連携(PPP)の一つの手法です。
指定管理者制度を導入する狙いとしては、民間のノウハウに頼ることにより、行政サービスの経費削減やサービス向上を図ろうというものです。
自治体の財政の負担を減らし、そのうえ、サービスは充実するという夢のような仕組みです!
しかしながら、指定管理者制度には向き不向きの事業が当然ながらあります。
その一つが、「児童クラブ」です。
なぜ、指定管理者制度に児童クラブは向かないの?
指定管理者制度に児童クラブが向かない理由として以下の二つがございます。
①児童クラブに指定管理者制度を導入したとしても、サービスの充実とコスト削減は両立することができないから。
②少子化という市場の失敗への対応として、児童クラブの指定管理者制度導入は問題を悪化させる正反対の解決法だから。
それぞれみていきます。
「①児童クラブに指定管理者制度を導入したとしても、サービスの充実とコスト削減は両立することができないから。」について
まず、児童クラブの運営費の大部分が何で占められているかご存知でしょうか。
答えは……人件費です!
令和6年度の伊奈町の予算では、児童クラブの運営費(放課後児童対策事業)として、1億9077万7千円が計上されています。
そのうち、1億6063万3千円が、人件費としてあてられています。
児童クラブの運営費の約84%が人件費となっています。
しかも、会計年度任用職員という非正規の公務員さんの人件費が、児童クラブの運営費の約67%を占めています。
これを前提に児童クラブのサービス充実とコスト削減についてみていきましょう。
児童クラブのサービス向上には、主に次のことが考えられます。
①子ども達や保護者の方の満足度をあげる
②児童クラブに預けられている子ども達の安全安心度を向上させる
③児童クラブに預けられる時間を長くしたり、預けられる日を多くする
これらのサービス向上のためには何が必要かと言いますと、支援員の方の育成と雇用の促進が求められます。
つまり、より一層、サービスを充実するためには、支援員の方の力が必要になります。
では、児童クラブのコスト削減には何ができるでしょうか。
光熱水費は見直せたとしても、効果は部分的です。
警備や清掃、衛生といった経費については、安全安心のために縮減するわけにはいきません。
あとは、固定費ばかりです。
つまり、創意工夫をしてコスト削減を図ろうとしても効果は限定的なのです。
規制が少なく、運営費の多くを占める人件費を削るものなら、人材の流出や職場全体が疲労することになるでしょう。
前述したように児童クラブの人件費の大部分は、非正規職員の人件費です。
非正規職員である会計年度任用職員は、正規職員と比較して現時点で既に満足とはいえない条件で雇用されていることを忘れてはなりません。
結果、人件費を削るとなれば、人材の流出、人手不足、ひいてはサービスの低下につながります。
児童クラブでの人手不足は、子ども達の安全安心にも関わることであり、あってはなりません。
サービスを向上したいのであれば、人件費に費用をかけることが必要です。
したがって、児童クラブを指定管理者制度の導入という形で民間移行しても、サービスの充実とコスト削減は両立することができません。
指定管理者制度を導入している児童クラブでは、コスト削減やサービスの充実が図られているケースがありますが、それは人件費のコストカットにより成り立っているということに留意しなければなりません。
②少子化という市場の失敗への対応として、児童クラブの指定管理者制度導入は問題を悪化させる正反対の解決法だから。
少子化対策を本気で解決したいならば、児童クラブの指定管理者制度の導入が基本的な経済学的視点から見ても誤っていることが分かります。
まず、少子化の原因とそれを解決するためのキーワードは、「市場の失敗」という経済用語一つで事足ります。
少子化の原因は、政府が子どもに対して、市場原理にほぼ任せっきりにしていることがそもそもの原因です。
政府が、「誰かが子どもを産み、誰かが子どもを育ててくれるだろう」という感じで、子どもを産み育てる方々にタダ乗りしてきたのが原因です。無賃乗車、フリーライダー状態であったのです。
一方で、これまでの日本社会で、多くの女性は子育てを無償で引き受けてこられました。
そういった男女平等とはいえない状況を是正するために、20世紀後半に雇用機会の均等や女性でも働きやすい社会をつくるための取り組みがなされました。
しかしながら、政府は、子育てについてフリーライダーからの脱却が遅れました。
子育てを無償で引き受けてこられた女性に代わり、政府が子育てを手厚くサポートするという流れにはすぐにはならなかったのです。
結果、産まれてくる子どもが少なくなるという、フリーライダー問題から発する「市場の失敗」が起きてしまったのです。
市場の失敗については、経済学の基本に倣えば、政府がその問題について介入することがあげられます。
つまり、必要な子育て支援事業を適切に拡充することが求められます。
このような社会状況では、このまま市場原理に任せていても少子化は止まることはないので、政府や行政が子育て支援事業を充実させるしかありません。
児童クラブの指定管理者制度導入はどうでしょうか。
指定管理者制度導入は、コストの削減とサービスの充実が目的です。
これはつまり、実質的に、児童クラブという子育て支援策に対する財政縮小を意味しています。
少子化対策のためには、子育て支援策を拡充しなければならないのに、その一つである児童クラブに充てる費用を縮小しようとしているのです。
少子化対策とは正反対のことをしているのです。
しかも、児童クラブに指定管理者制度を導入したとしても、サービスの充実とコスト削減は両立することができません。
こうしたことから、児童クラブに指定管理者制度はそぐわないことが分かるかと思います。
よりよい児童クラブを作るのならば、町が責任を持って運営していく必要があります。
そして、民間から運営改善のアドバイスが欲しいのならば、事業について民間など外部から評価を受ければよいのです。
指定管理者を指定するしないの自由はあります
今回の条例改正で、伊奈町の児童クラブに指定管理者制度を導入することができるようになりました。
しかしながら、児童クラブに指定管理者の指定は必須項目ではございません。
よって、指定管理者を指定するしないの自由はありますので、町に引き続き運営を任せることもできます。
ただ、伊奈町では、この夏から児童クラブに指定管理者を決めるために動かれていくようです。
今後も改新みらいでは、児童クラブについての町の動きを注視してまいりたいと思います。
改新みらい
冨井 篤弥