■溶けない死体 TOP
http://ameblo.jp/a-rm/entry-10475626046.html
■クリックして頂くと励みになります。小説ブログ ミステリー・推理小説
クリック⇒ http://novel.blogmura.com/novel_suiri/
================================================================
「私と恵理子は、野上を殺害するために群馬の伊香保温泉に野上を呼び出したの、しかし、恵理子には尾行がついていたし、恵理子には何にも出来ないということがわかった。だから、お母さんにお願いしたのよ。野上は私が伊香保に行きたいといったら二つ返事で了解したわ。そして、ここで殺すしかないと思ったの。だから、私たちのアリバイが必要になったわ。それで、野上が利用していた鵜飼のアリバイ工作を使ったのよ。しかし、野上にも尾行がついていたし、簡単には野上が移動することはできない、だから、野上に似た男も用意したのよ。警察は野上が部屋を出る時に尾行するのだから、偽の変装した野上が外に出ていけば、その男を野上と思って尾行する。夜に野上が出る、しかし、その男は偽者。刑事が偽の野上を尾行している間に本物の野上が外へ出るということにしたのよ。車は使わないで・・・だから、新開刑事が、野上の車を運転することが出来たのです。それは、昨日のことです。刑事が追っていた男は偽者の野上で部屋に戻り変装をやめて外に出る。刑事たちは野上が部屋にいるものと思っていたのだと思うわ」
三浦真紀の完全なる筋書きの上に周到に準備されたものであった。
僕は「ということは、昨日は野上は伊香保にいた?」
「そうです。伊香保にいました。お母さんが来るのを待って殺害しようとしたのです。女一人では難しいと思いました。だから、お母さんが必要だったのです」
「もう一度聞きます。野上は殺害されているのですか?」
「はい、私が野上と温泉に入っている時に、後ろから・・・」
「死体は、どうした?」と、新開刑事が強い口調で尋ねた。
「埋めました。伊香保の山に・・・」
何ということだ、野上は殺されていたのだ。
伊香保にいた女二人とは、真紀と母親だったのだ。
そして、野上は、どこかの山の中に埋められている。
つまり、新開刑事が運転したことによって、死んだはずの野上の逆のアリバイを用意していたのだ。
新開刑事は野上の影として・・・
そして、このワタナベケーキ店に着き、野上の車は、ワタナベケーキ店の主人が、Nシステムの設置されていない道を運転し、どこかの山の中に車を放置する。
いずれ、警察は野上の車を発見するが、野上の所在は不明となる。
三浦真紀の考えた計画だったのだ。
まさか、母親も共犯となって動いていたとは予想すら出来なかった。
もし、新開刑事がアリバイ工作の鵜飼という男に会わなければ、この事件は解決することはなかったと思う。
僕は「どうして、到着場所がこの店なのですか?」と、一つの疑問を問いかけた。
すると、驚くことが分かった。三浦真紀が重い口を開いた。
「実は、ご主人は、私の母の兄なのです。だから、協力してもらったのです。勿論、恵理子も知っていました。だから、この店のケーキをでいつも買っていたのです。しかし、野上を殺すということまでは知りません。本当に、ごめんなさい・・・」
と、ご主人の腕にすがって泣いた。
「真紀、恵理子・・・」と、ご主人は言葉にならない声で泣いていた。
翌日、野上幸則の死体が伊香保の山中で発見された。
そして、真紀と恵理子の母親も逮捕された。
母親の三浦逸江の供述も一致していた。
親子三人による、野上幸則の殺害。
妹を思う姉、娘を思う母の、どうしようもない激情が産んだ悲惨な殺人。
その奥には、十数年前の、未解決事件が絡み、その恐怖から次々に殺人を犯した男。
一夜にして、命も地位も名誉も全てを失くした悲しい男の人生を見た。
南紀夫と鵜飼浩二の取調べにおいても、田中雅彦と中川和義の殺害についての供述も安永恵理子と一致した。
また、港区の堀田不動産についても、鵜飼からの供述により、不動産業が成り立たないために、アリバイ工作の裏ビジネスを全国展開していることも判明した。
二日後の全国の新聞には、今回の連続殺人事件のことが大きく載り、新開刑事には警視総監賞が授与された。
日光南署の今野刑事には、栃木県警本部長賞が授与された。
今野刑事は、娘の仏壇に手を合わせ、事件の解決を伝えた。
そして、京都の漬物屋の武田博之さんにも、ひき逃げの犯人が判明したということが伝えられたのであるが、田中雅彦と野上幸則は、この世にはいない。
「雪田さん、本当に有難うございました。これで、息子も成仏できたと思います。」
「いえ、武田さんの、手の火傷という言葉が事件解決の糸口になったのですよ。今度は、観光でお会いしましょう」と、電話を切った。
一月七日になっていた。
七草粥を食べようということで、新開刑事と岩崎弁護士が店にやってきた。
僕は、母親の習慣で、毎年一月七日には、七草粥を作って食べる。
「今年も七草粥か・・・雪ちゃんの七草粥も何回目だ。今年こそは旨いのを頼むよ」
「そうだよ。新開刑事の言う通りだよ。いつも、何かが足りない味だよ」
「贅沢言うなよ。精一杯作っているめんだから・・・」
「雪田社長、今年こそは頑張って下さいよ。僕も期待しています」と、新藤が言う。
「まかしとけ・・・」僕は言ったが、自信はない。
そして、旨いともまずいとも言わないみんなの顔。
その顔が僕の料理の出来を物語っていた・・・
四人で七草粥を食べながら、今回の事件の話になった。
「岩ちゃん・・・お見合いは?」
「当分はいいよ。それこそ、雪ちゃんはどう?」
「女というものは怖いよ。あんな綺麗な顔をして・・・」
「雪ちゃん、そんなものだよ。美人は怖い。うちのカカアは大丈夫だな?」
と、新開刑事。
「確かに・・・ハハハ」四人は大笑いだ。
「しかし、最初の容疑が岩ちゃんだったよな?」と、僕が言うと。
「そうだよ、俺がいたからこそ解決したんだよ」
「それはあるけど、岩ちゃんが殺人犯人を作ってしまったということは事実だよ。警察の情報を流さなかったなら、三浦真紀は、野上を殺すことはなかったと思うよ」
「それは・・・俺としても心が痛い。でも、どうして女に弱いのかとつくづく思い知らされたよ。弁護士に向いていないかもしれないな。しかし、俺は、あの姉妹や母親の弁護をしようと思っている。せめてもの罪滅ぼしになるといいけど?」
「弁護?いつも、岩ちゃんは、事件の関係者の弁護だな。それだけで食っていけるのかい?」
「大丈夫だよ。食えなくなったなら雪ちゃんの店でも手伝うから?しかし、やるせない事件だったよ」
新開刑事が「そうだな。溶けない手と足首・・・何か小説のネタになるような始まりだったな。姉妹の愛と母親の愛。普通の人たちが落ちていく理由なんかは何もないな。愛が強ければ人は殺人鬼にでも何にでもなる。野上という男とさえ出会うことがなければよかった。しかし、この世の中は男と女。男と女が存在している限り事件は起こる。それに、愛と欲望とが混じると引き返せない。いつも、いつも、引き返せない男と女だ」
「そうですね新開さん、引き返すことは出来ると思うけど、一度、回りだした歯車を止めることは出来ないということですね。車のギアのように壊れてくれたならいいと思いますよ。人も機械のようになれればいいかもしれませんね。感情という機械が、突然、意思を持ち動きだす。しかし、その機械を止めることはできない。もし、止めることができるのなら、それは人を思う愛しかないと思います。今度の事件は、人を愛することが逆回転したのかもしれません。せめて、ニュートラルで止まっていたなら、あの三人は殺すことはなかった。せめてもの救いは、安永恵理子の白百合だよ。必死で逆回転した自分を取り戻そうとしていたのかもしれないな?」
岩崎弁護士が「そうだな。その回転を止めることが出来たのは俺だったのかもしれない?弁護士としても人としても未熟だよ」
「岩ちゃん、自分をそんなに責めるなよ。三浦真紀は、自分の心の中の歯車をスタートさせたんだよ。多分、回そうか止めようかと悩んだと思う。しかし、回してしまった。一人の女として、いや、姉として三浦真紀は、妹を救ったことで良かったと思っているかもしれない?精一杯、弁護してくれよ」
「そうかもしれんな?しかし罪は罪だ。心の中のブレーキをかけるべきだった」と、新開刑事。
「ブレーキですか?ブレーキがあるから車は動く。人も車も同じなんですね」
「そうだよ、雪ちゃん、人もたまには心の中のブレーキを点検することが必要かもしれん。壊れる前に・・・車検があるなら、人検があってもいいかもな?」
「人検?それなら、ここにいる人は早速受けてもらいましょうかね?」
「みんなか?その前に、雪ちゃんの作った七草粥の検査が先じゃないかい?それにしても、まずいな・・・ハハハ・・・」
その後、岩崎弁護士他四名は、三浦真紀、安永恵理子、三浦逸江の弁護を引き受けた。
半年後。地裁での判決。
三浦真紀・殺人幇助罪 求刑 懲役七年にたいして懲役四年。
安永恵理子・殺人幇助及び道路交通法違反(轢き逃げ) 求刑 懲役七年にたいして懲役五年。
三浦逸江・殺人罪 求刑 懲役 八年にたいして懲役五年。
岩崎弁護士の尽力で、全員は求刑以下の刑期となった。
三人は、その後、上級裁判所に控訴することもなく刑が確定した。
終わり
■クリックして頂くと励みになります。小説ブログ ミステリー・推理小説