陶器市終了 そして自分を作る | 桜井ケンイチのデキゴコロ~陶・造形作家の日々

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陶・造形作家桜井ケンイチの出来心で書いたブログです。美味しいもの、旅で出会ったひと、作家としての生活、このようなことを紹介できたらと思います。趣味はゲストハウスの旅、車中泊の旅、低山ハイク。

益子陶器市が終了しました。

みなさんありがとうございました。



最終日を終えて一夜明け、

陶器市会場は普段の益子に戻りつつあります。

陶芸家たちが夢のあと、なんだか無常観を感じずにはいられません。





ロマンの湯で一緒に夕食を取ったN君とA君は、

昨夜のうちに帰路に着きました。

「日付が変わるころに着くよ。」

こう言って出発していったので、

もうとっくに帰宅して、今ごろは荷物を下ろしているころでしょう。


一昨日、ロマンの湯で、

それぞれが陶器市に出るようになる前の話しをしました。

独立して自分の窯を持ってすぐに陶器市に出店する陶芸家は少なく、

グループ展などに出て自分の作風を見つけてから、

陶器市にチャレンジするのが一般的なようです。

僕もそうでした。



僕と同じ年のN君は、

「リゾートの高級別荘地で陶芸教室の先生をしていたよ。」

とのことでした。

陶芸教室の先生を経て、またはしながら陶器市出店というのは多いけど、

リゾートの高級別荘地?



「会員制の大きな別荘地で、

会員さんは観光するよりはのんびりしに来るんだ。」

会員は有名人が多かったとのこと。


「先日亡くなった大女優やイケメンの雅楽師がよく陶芸しに来たよ。

芸能人の他に財界人や政治家が多かった。」


そうか、有名人で陶芸が趣味というのをよく聞くけど、

普通の陶芸教室に週一で通ったりするわけないし、

そういうところで陶芸をするのだ。



「もと総理大臣なんかも来たよ。」

そんな大物も来たのぉ?

どう見てもまじめタイプのN君、

そんな人たちとうまく接することができたの?

僕だったら緊張して、陶芸指導どころじゃないかも。



「雅楽師さんは車が好きで、

うつわを作らずにビンテージカーばかり作っていたよ。

面白い人だったなぁ。」

へぇ、N君て案外イケてる人なのかも。



「でも、自分の作品を自由に作る生活をしたいと思って辞めたんだ。

そして陶器市に出るようになったの。」

う~ん、始めて聞くタイプだ。

僕もA君も興味津々だった。



落ち着いて語る二人だけど話しは尽きず、

あっという間に閉店時間になってしまった。




翌日、N君のブースに行ってみた。

そこには、いつもと変わらないシンプルで

使い勝手を重視したうつわがあった。

人柄がよく出ているそれらの焼き物は、

彼自身が自分のことをよく理解して、

それをしっかりと投影しているものだった。



僕はうつわを手に取ってみた。

快晴の益子の空の下でN君のうつわはやわらかい陽射しを浴びて、

熱くもなく冷たくもなくちょうど体温と同じくらいだった。




(自分を作ればいいんだよ。)

うつわからそんな声が聞こえてきた気がした。