ショウブラザーズ第三黄金期を彩るアクションスター、チェン・クァンタイの主演デビューとなったアクション作品。

ヤクザたちが抗争を繰り広げていた上海。山東からでてきた若者馬永貞はここで一旗上げようと日々日雇いの仕事をしながら、友人のシャオと共にそのチャンスを伺っていた。

ある日、街に出た二人は道の片隅に停めたあった馬車を掃除するように言われる。
シャオは仕事にありつけたと喜ぶが、その御者の不遜な態度に馬は拒否。いきり立ち襲いかかる御者たちを馬は返り討ちにして撃退する。

馬の悪びれない態度に後ろからスーツに身を包んだ男が声をかける。
キセルを口にし、キザったらしく話しかけてくるこの男こそ馬車の持ち主である上海の実力者のひとりタン・スーであった。

タンは馬を試すかのように一元銭を投げ、それで馬車の掃除を持ちかけるが、馬は銭を持つとタンに挑みかかろうとする。
その向こう見ずで恐れ知らずな態度にタンは馬を自分の部下にならないかと誘うのだが、馬は自分がタンと同位置になるくらいになったら会いに行くと言い、彼の申し出を断る。

その心意気にタンは馬が将来大物になると感じ、馬もまた男気溢れるタンに憧れと尊敬の念を持つのだった。

そんな上海ではタンのほかにヤンを首領とする斧頭会があった。
彼らはヤンの直属の幹部である四大天王たちを筆頭に残酷で残忍なことで知られ上海の半分を牛耳る彼らはタンの縄張りを狙って日夜襲撃を繰り返していた。

ある日シャオと馬は歌が聞けるという食堂へと出かける。 しかしそこではタンの部下たちと斧頭会の面々が血みどろの縄張り争いを繰り広げていた。
訳も分からずやってきた馬たちは斧などで襲われ、劣勢になっていたタンの部下たちに加勢し斧頭会のヤクザたちを撃退。そこにいた四大天王のうちの三人も馬によって返り討ちにされる。

恐れをなして逃げていく斧頭会。
タンの部下たちは加勢してくれた馬に礼を渡そうとするが、馬は自分がやりたくてやっただけだとしてこれを断り、その場をあとにしていく。

馬一人にタンの店の襲撃を邪魔された首領のヤンは四大天王すらも敵わないという馬に驚きを見せるのだが、その始末はあえて天王たちに任せるのだった。

数日後。上海ではとあるイベントが話題となっていた。ロシアからやってきた怪力レスラーと戦い倒せたら20元もの大金が獲得できるというもの。その裏で手を引いていたのは斧頭会の四大天王のひとりチャンであった。
シャオの誘いでイベント会場へとやってきた馬は目の前で挑戦している同朋たちがレスラーによって大ケガをさせられている場面から奮起し自ら立候補してレスラーとの一騎打ちに挑む。

その体格差、パワーの違いから苦戦を強いられる馬であったが、人並み外れた拳力と胆力でレスラーを撃破。しかしそんな彼を勝ち逃げさせまいとチャンは会場を封鎖して馬の仲間ごと包囲して闇討ちしようとする。
そんな卑劣な罠も馬には効かず、反対に彼らを撃退すると再びチャンを病院送りにし、稼いでいた金をそのまま賞金として持っていくのだった。

賞金を手にした馬は作業場の仲間たちを連れてかつてヤンの部下たちを撃退した食堂へ。
すると店主をはじめ、タンの部下たちが馬を待ちかねていた。
実はヤンの襲撃から守った馬にタンはこの店の権利を外し、知らない間に馬に譲っていたのだった。
店からの上納金が入ることとなった馬は遂に上海における新興勢力として認められる存在となったのである。

先の喧嘩で馬の実力をみ、タンから鞍替えした者も含め、馬の勢力は着実に広がりつつあった。
しかし馬は自分の勢力が結果として貧乏な人々から上納金を得ようとしている現実を感じ、悩んでいた。

馬はより多くの上納金を得るため、他の勢力からの乗っ取りを決意。
尊敬するタンからではなく、最大勢力であるヤンのもつ最大の賭博場と女郎館のある街を殴り込んで奪う計画を遂行する。
あまりに危険すぎるため単身で殴り込むことにした馬。シアンを馬車に待たせ街に乗り込んでいくとそのまちを支配していた四大天王のひとりファンに喧嘩を売る。

馬のなぐり込みはたちまちヤンのもとに届いたが、ヤンはあえて馬の相手をせず、ファンにその街を明け渡すよう命令をする。
実はヤンはタンが大量のアヘンの取引のため商売相手のもとに行く情報を得ており、タンの部下を買収してアヘンとタンの暗殺を企てていた。

ファンが撤退し、大きな利益の生む賭博場と女郎館を手に入れた馬は仲間たちを呼んでつかの間の宴に酔いしれていた。

街にはいったタンは馬が自分と同じ馬車を作り、実力をつけてきたことを嬉しそうにしていたが、返す刀でアヘンの取引のため町外れにある大場へと馬車を走らせる。
しかしその最中の山中でタンは部下の裏切りに合い腹部を刺されてしまう。
さらに彼の暗殺のために潜んでいたヤンの部下たちが手負いのタンに襲いかかる。

致命傷を負いながらもヤンの配下の刺客達を次々と倒し遂に殲滅させるタン。
しかしそのタンも馬車に横たわるようにして息を引き取る。

翌朝、宿から出てきた馬はシャオからタンが会いたがっていたと聞き、彼が向かった大場方面に馬を走らせるが、そこでみたのは沢山のヤンの配下の死体と馬車の中でキセル咥えて息絶えていたタンの姿だった。

ヤンの卑劣な罠に怒りを滲ませる馬だが、面倒ごとに巻き込まれる前にその場をあとにする。

ヤンはタンが仕入れるはずであったアヘンを横取りし大きな利益を得ていた。
タンの死後、彼の部下だった者のその半数は馬のもとに加入し、馬の組織はさらに巨大なものへの成長していった。
だが、遂にヤンは最後の障壁である馬の暗殺を企て始める。

和平と称して離れの『青連楼』に招待された馬。ヤンは確実に彼を殺すために茶屋の客と店員全てをヤンの部下に交代させていた。
そうとは知らない馬はタンの復讐のためにヤンを殺害する機会をうかがう。
熱湯をかけられ、腹部に手斧の一撃をくらう馬。
深手を負いながらも手負いとなった馬はたったひとり100人以上はいるであろう、ヤンたちの伏兵に対して、血みどろになりながらも必死で戦う。

圧倒的不利で絶体絶命の状況の中、果たして馬はタンの仇をとり、生き残ることができるのか……

ショウブラザーズを代表するカンフースターのひとり、チェン・クァンタイの代表作のひとつでもあるバイオレンスアクション作品。

ジミー・ウォングをはじめとし、数々のカンフースターを生み出していったショウブラザーズ。その最盛期でもある第三期黄金期において、アレクサンダー・フーシェンと二枚看板を誇ったカンフースター、チェン・クァンタイである。

美男子系のフーシェンとは対照的にクァンタイはその野性味溢れるルックスと荒々しくも迫力ある豪快な手技でカンフーファンの心をつかんだ。いわば兄貴的役割である。
その彼の当たり役といえば少林寺ものにおける反清の志士の中心人物で後の洪家拳の祖である『洪熙官(ハン・カーロ)』であるが、もうひとつの当たり役が本作で演じた『馬永貞(マー・エイシュン)』である。

この馬永貞は実在した人物であり、上海においては伝説のヤクザとして讃えられている英雄である。
誰にも負けない腕っぷしの強さと侠気溢れる性格で義理人情に厚いその人物像は日本における高倉健らが演じたような博徒ヒーローものに近く、意外に馴染みやすい。

そして彼を描いた作品で特徴的なのが手斧を武器にしたヤクザ集団の存在。
これは以降のアクション作品でも多用されていて、『馬永貞作品』ではもちろんのこと近年ではチャウ・シンチーの『カンフー・ハッスル』でもそのオマージュが描かれていた。

刀や銃とは違う残忍で野蛮な感じが敵役としてのインパクトをさらに強めている感じといえる。

本作をはじめ実はジミー・ウォングや金城武らもこの『馬永貞』にチャレンジしているが、本作はそれらの作品群と比べると頭ひとつ飛び出している。
それは壮絶なアクションはもちろんのことだが、ちゃんと馬永貞の立身出世の物語が描かれていることにある。
アクション重視ではあるので伝記ドラマのようにこと詳しくはないものの英雄である馬永貞とはどんな人物であったかを知るならこれ程分かりやすいものはないだろう。

そしてこの馬永貞に当時新人だったチェン・クァンタイを抜擢したことで、ショウブラザーズとしてもかなり力のはいっていた作品であったことが伺える。
それはクァンタイが憧れるヤクザの親分タン・スーが描かれており、そこに第二期黄金期の代表格デビット・チャンが起用されたことでも分かるだろう。

アクションにおいては残酷ながらも耽美感溢れるチャン・ツェ節炸裂で、その武術指導組にはラウ・カーリョンとラウ・カーウィンの劉兄弟の名前がクレジットされている。
このため武骨ながらも迫力あるアクションシーンになっており、テクニック的なものは別として見応えは十分。

特にクライマックスにおけるチェン・クァンタイの血みどろ無双はまさにチャン・ツェアクションの面目躍如。
腹に斧が刺さりながらあれほど戦う人間などいないが、その滅びの美学の戦いっぷりがショウブラザーズ作品ファンにはたまらない。

そして特別出演であるデビット・チャンもどこまでもカッコよく、その散り様までカッコよすぎ(笑)
部下に裏切られ腹部を刺されて致命傷を負いながらも敵の雑魚達を何事もなかったかのように殲滅させると、どこまでも離さないキセルを咥えながら眠るように死んでいく。
キセル挿されたタバコが血で染まるという粋な演出も心憎い。

ほとんど女性の描写が出てこないが、これはチャン・ツェ作品ではデフォルト。
まさに男たちの熱い作品である。
カンフー好きにはもちろんであるが、後のアクション作品にも多大な影響を与えた男の中の男『馬永貞』を知る入門編としてもオススメな作品といえるだろう


評価…★★★★★
(アクションは粗いが見応えあり。血みどろのクライマックスは壮絶の一言)