『沈黙』シリーズでお馴染みのアクション俳優スティーブン・セガールの『沈黙』前夜のアクション作品。

アメリカの麻薬捜査官のジョン・ハッチャーは数々の麻薬組織や売人たちを壊滅に追いやった凄腕の捜査官であったが、ある日麻薬組織の捜査中に油断から相棒を殺されてしまう。
終わりのない混沌とした状況に、相棒の失ったショックも重なり、上司からの慰労も聞かずして刑事としての職を辞した。

退職したハッチャーは静養を兼ねて妹夫婦の住む故郷シカゴに戻り、母や妹夫妻ととも静かに暮らし始めた。
故郷では軍隊時代の戦友であり、今では高校のラグビーの顧問であるマックスと再会する。

マックスは過去に生徒、麻薬で亡くなったことを後悔し、売人たちが生徒たちに麻薬を売買している様を憎々しげにみていた。

ハッチャーはそんなマックスの正義感丸出しな言動に呆れ返ったように『そんなものはムダだ』とはいて捨て、トラブルに巻き込まれないように彼をなだめ家路につく。

しかしハッチャーの故郷も昔から勢力であるイタリアンマフィアと新興勢力であるジャマイカギャングとが麻薬の勢力争いで抗争を開始。イタリアンマフィアは呪術師を雇い入れて、ジャマイカギャングのボス、スクリューフェイスの暗殺を目論むのだが、そのスクリューフェイスはブードゥーの狂信的な信者で戦争の準備をするために仲間たちを精神的に操る術を持っていた。

ある日の夜。
マックスと飲みに出掛けたハッチャーはクラブで友としての一時を過ごすのだが、そこにイタリアンマフィアたちがやってくる。
キナ臭い予感を感じたハッチャーは警戒するが、そこにジャマイカギャングが乱入し、銃を乱射してマフィアたちを蜂の巣にする。
騒動に巻き込まれたハッチャーたちは逃亡しようとするマフィアのひとりと襲いかかってきたジャマイカギャングのひとりを捕まえるのだが、これがもとでハッチャーはスクリューフェイスに目をつけられることとなる。

仲間を殺され、逮捕されたスクリューフェイスは怒り狂い、直ちにハッチャーを標的にすることを表明。
早速、自宅が狙われハッチャーはギャングの銃乱射によって家を破壊され、彼の姪がその乱射によって瀕死の危機に陥ってしてしまう。

家族を狙われたハッチャーは復讐を開始。イタリアンマフィアを裏切ってスクリューフェイスについた情報屋ジミーを拷問にかけ情報をえようとするがそこにジャマイカギャングの一人が襲いかかり、ハッチャーは両者とも殺害するはめに。
FBIがハッチャーに目を光らせ始めるなかで、スクリューフェイスはイタリアンマフィアの雇った呪術師をブードゥーの生け贄の儀式に乗っ取って殺害していた。

ハッチャーらが仲間を殺害したことを知ったスクリューフェイスは遂にハッチャーだけでなく家族全員を標的にする。
自宅に奇妙な紋章が刻まれていることに気づいたハッチャーはFBIでジャマイカギャングを追っているレスリーにその情報を求める。
その紋章の正体は『死の標的』であり、家族全員を殺すというスクリューフェイスからのメッセージであった。
妹に連絡をとるハッチャーであったが、途中で妹は彼らの部下に襲われ連絡が取れなくなってしまう。
急ぎ駆けつけるハッチャー。
妹は儀式にさらされ殺害される一歩手前でハッチャーに救われ難を逃れるのだった。

レスリーより彼らのアジトがジャマイカにあると知ったハッチャーはマックスと共に武器を集め乗り込むことに。
ハッチャーに好意的なFBIの協力者でジャマイカの土地勘に詳しいチャールズを案内人として現地に乗り込んだ彼らはスクリューフェイスの情報を集め、彼が不気味なブードゥーの魔力を持つという噂を耳にする。

万全の情報をもとに強襲するハッチャー。彼の鬼神のごとき強さでアジトは壊滅に追い込まれ、死闘の末にスクリューフェイスはハッチャーの手によって首を落とされて死亡する。
あとは狂信的な行動を繰り返す故郷のギャングたちに彼の死を示すことでその催眠を解くだけ。

故郷に戻ったハッチャーたちは根城にしているギャングたちのアジトを訪れ、首を見せてボスの死をアピールするが、そこに死んだはずのスクリューフェイスが現れ、チャールズが刀で貫かれ、マックスが被弾し負傷する。
地元のギャングたちの言っていた『彼は二つの頭に4つの目を持つ』という謎の正体に気づいたハッチャーは、すべての決着をつけるべく刀を持って現れるスクリューフェイスとの最後の戦いに挑むのだが…


無敵のオヤジとしてアクション映画ファンでもカルト的人気をもつスティーブン・セガールの初期のアクション作品。

セガールを表すのに必ず用いられるキーワードが『沈黙』シリーズや漢字二文字シリーズであるが、この始まりは彼の最大のヒットとなった『沈黙の戦艦』より始まった。
彼のフォーマットといえば、
銃弾をうけても平気な不死身ぶり
誰の手にも負えない格闘無双
信じられない前職
信じられない人脈
であり、どの作品においてもこの形はほぼ守られているわけだが、その原型となるスタイルが作られた最初の作品が実はこの『死の標的』であることはあまり知られていない。

『刑事ニコ』のデビューより本作は三作目となるのだが、それまでの二作品においては実は結構セガールも痛めつけられたり、やられたりしていて危機に陥ったりしていた。
今回のセガールの相手となるのはブードゥーをこよなく信じるジャマイカギャング軍団であるが、セガールの無双ぶりにゾンビや独特の呪いなどで知られるブードゥーがどう絡んでくるのか期待値も上がるところ。

その結果は、ブードゥーらしい禍々しさはセガールにはほぼ通じることなく、これにより彼が作品を重ねるごとに『セガールを危機に陥らせる敵』がいるかどうかという裏テーマが一部評価のネタとなってしまった。

ストーリーはシンプルで、いわゆる事件に巻き込まれた主人公が徹頭徹尾暴れまわるセガール無双を後押しするような展開なのだが、危なげな所もなく気持ちいいくらいの無敵ぶりを見せるセガールにはもはやドラマ性など必要ないとばかりに派手なアクションを敢行している。

この頃のセガールは今と違って長身でスリム。トレードマークの長髪を後ろに束ねるスタイルに相まって、いざ仕掛けるときは流れるような合気道の投げ技やアグレッシブな蹴り技まで披露、今の肥りすぎてまるで動けないセガールをみてきた皆さまにはこのスピーディーさに驚きを隠せないだろう。

セガール自身も本作のアクションが自身のなかでもベストと答えているだけあって、容赦なく叩き伏せるセガール拳の速さと蹴りはかなりのもの。

軍のお墨付きの最新鋭のサイレント装備銃などガンアクションがメインではあるものの、クライマックスでは、敵の大ボス、スクリューフェイスとの丁々発止の日本刀対決がアツい。
セガールといえば合気道や空手などが有名であるが、実は彼、剣道でも有段者であり、さらには居合いもこなすなど日本刀アクションでもなかなかに無双ぶりなのである。

正義感に疑問を抱く元刑事というキャラクター設定はセガールとしてはひねった感じではあったが、フタを開けてみれば結果としてセガール最強をプッシュしていることには変わりなかった本作。
一応そのキャラクターに対比をつけるべくセガールの相棒として黒人名脇役のキース・デヴィットが熱血漢の猪突猛進男を好演しているのだが、結果としてはそれも霞むほどのセガール無双が際立ついつものセガール節炸裂となった。

アクション自体は淡白ではあるが、決してだれることはなく、セガール自身が推すのも分かる。
娯楽性を追求し始めたセガール作品群の最初の作品としておさえておくのもいいのではないだろうか?


評価…★★★★
(ブードゥーをもってしてもセガールには敵わなかったようです(^^;)