『酔拳』でブレイクする前の若き頃のジャッキー・チェンが挑んだ武侠アクション作品。

江南省の総督で名士として知られる奇峯は自身の誕生日の宴を開いていた。
多くの来賓が集い祝うなかで彼の跡取りである息子シャオレイだけはひとり外れのとこでたたずんでいた。

彼には使用人であるが恋人でもあるチェンチェンがいたが、その彼女を呼び出し突然の別れを切り出す。訳も分からぬまま戸惑う彼女にシャオレイは冷たく言い放ち、家から出ていくよう告げると彼女はショックでその場から飛び出していく。
チェンチェンはシャオレイとの子供を身籠っていた。

宴の場に戻ってきたシャオレイは父の目の前で宴に酔う客人たちに帰れと言わんばかりの言葉を浴びせる。
空気を読んで次々と帰る客人たち。面子を潰された父親はシャオレイに激昂するが、この一連のシャオレイの態度には理由があった。

かつて父が殲滅寸前まで追い込んだ悪逆の賊である『人面毒蜂党』が復活し、父親の命を狙っていたのである。
一族郎党まで死に至らしめる残虐な敵を相手にシャオレイは父をそして家を守るため、母と結託し、身籠っていたチェンチェンを友人に預けるために暴言をはき、多くの犠牲者を出さないためあえて宴の場で父の目の前で不遜な態度をとっていたのだった。

シャオレイの真実を知り、賊との対決を決めた父。そしてその覚悟を聞いていた友人や部下たちもまた彼と共に賊との生死をかけた対決に挑む。

その最中、幻惑的な仕掛けと共に『人面毒蜂党』が現れる。
シャオレイらが迎え撃つも圧倒的な力を持つ女首領の前に父と母は殺され、シャオレイも倒されてしまう。
総督らの死屍累々の山の中でひとり佇む女首領に息を吹き返したシャオレイが襲いかかり剣を突きつけるが、女首領ティンは過去に両親を総督に殺されたことで復讐のためにやってきたことをシャオレイに告げる。迷いがでたシャオレイは隙をつかれ女首領の一撃をくらい気を失う。

意識を取り戻したシャオレイの側にはあの女首領がいた。
命を助けてやったのは自身が味わってきた両親を失った苦しみを生き地獄のように味あわせるためと嘯く彼女。いつでも命をとることはできると言い放ち、シャオレイを置いて何処へと消えていく。
生き残ったシャオレイはチェンチェンに会いに行くため預けた友人ジンリェンのもとへと赴くが、自身が生死不明と聞かされたチェンチェンはジンリェンと共に旅立った後であった。

途方にくれるシャオレイの前に再びあの女首領が現れる。
彼女はチェンチェンのことは諦めろと忠告するが、シャオレイは頑なにチェンチェンを探すことを誓う。
そんな彼に女首領ティンは何者かが奇峯家の財宝と自分の命を狙っていることを告げる。

忠告を受けチェンチェンが旅立った先にひとり向かうシャオレイは途中の茶屋でかつて父と共に警備隊を率いていた警備隊長のロンスーと出会う。生死不明となっていたシャオレイが生きていたことを知り喜ぶロンスーは友としてシャオレイに協力を申し込むが、その恩義を知るシャオレイは義兄弟として契りを交わし、命を懸けてロンスーが追っている事件への協力を自ら申し出る。
ロンスーが追っている事件とは残虐な『血雨党』と呼ばれる殺し屋軍団が盗み出したとされる奇峯家の財宝。彼らは謎とされている『血雨党』の行方を追っていた。

茶屋で兄弟としての契りを交わし、宴を開くシャオレイたち。その様子を遠くからみている謎の影があった。

ロンスーたちとわかれ、ひとりになったシャオレイは突然四人の刺客に襲われる。
奮闘するシャオレイであったが多勢に無勢、賊の刀により腹を貫かれ瀕死の重傷をおってしまう。止めをささんと襲いかかる刺客たちからシャオレイを救ったのはあの女首領ティンであった。
四人の刺客を瞬殺した彼女は騒ぎをききつけたロンスーたちが来るのを見計らい姿を消す。

深手を負ったシャオレイはロンスーがよんだ医師も匙を投げるほどの重傷であった。
その時ロンスーの屋敷に女首領ティンが現れる。
彼を助けたければ自分にシャオレイを渡せと迫る彼女に義を感じたロンスーは苦心ながら瀕死の彼をティンに引き渡すのだった。

シャオレイを見送ったロンスーは部下と共に新たに江南の統治を任された総督のもとを訪ねるが、その新たな総督はなんとジンリェンであった。財宝の責任を取り罰を受けようと進言したロンスーに対してジンリェンは真の正体を告げる。
彼こそが江南の支配を目論む殺し屋軍団『血雨党』の党首であった。
ジンリェンは支配の障害となる奇峯総督を『人面毒蜂党』にけしかけて殺害させ、そして最後の障壁となるロンスーを殺すつもりであった。

真の黒幕を知ったロンスーたちは戦いを挑むがジンリェンの強さに全く歯が立たず、ロンスーたちは惨殺されてしまう。

一方、命を取り留めたシャオレイであったがそのショックから心は閉ざしたままであった。
気付けの薬草を手に入れ戻ってきたティンは呆けたシャオレイに対して、チェンチェンがジンリェンに嫁ごうとしていること、さらにロンスーが殺されたことを告げ、そのジンリェンこそが大悪党である『血雨党』の党首で、両親の死も、チェンチェンを騙して奪い取ろうとしていることも彼の策略によるものだったと告げる。

友として裏切られ、兄弟たちを死に追いやったジンリェンに怒りを露にするシャオレイ。
しかし今の腕では到底ジンリェンに敵わない。
ティンは自分を倒せないならここから脱出はできないとし、シャオレイは復讐を果たすため過酷な修行をつみ、ティンに挑む。
しかし腕を上げるもティンに勝つことができないシャオレイ。ティンは敗北した罰として焼きたぎった炭を食わせ、焼きごてで顔を焼くなど壮絶な罰を加えるがそれでもシャオレイは諦めず復讐のための鍛練を重ねていく。

遂に最後の挑戦として勝負に挑むシャオレイ。負ければ毒のはいった酒を飲まねばならない。
拮抗する勝負の末にシャオレイは敗北を喫し、迷うことなく毒が入ったとされる酒を飲み干す。
その揺るぎない覚悟にティンはついに折れシャオレイを開放すると同時に自らの拳の秘奥義である『血酒拳』の極意書を彼に譲り渡す。

実は毒のはいった酒というのは嘘でその酒は不死に近い能力を持つティンの血を入れたものであった。
命を救われて以来シャオレイが好きだったティンはあえて厳しい試練を課すことで敵に落ちたチェンチェンを諦め、自分へ振り向くよう仕掛けたのだが、恋人を思うシャオレイを振り向かせることは敵わず自らの血を飲ませることでその思いを馳せることを苦しみながらも選んだのだった。

シャオレイは一生の恩義とティンに深い感謝を告げると真の黒幕であるジンリェンのもとへと急ぐ。

ジンリェンによって仕組まれたチェンチェンとの婚礼当日。諦めかけていたチェンチェンの前に死んだはずのシャオレイが現れる。
怒りを露にするシャオレイに正体を知られたジンリェンは憎々しげにチェンチェンを奪ってみろと挑発する。

ついに始まる一騎討ち。しかし鋼鉄の体と凄まじい破壊力の拳法を駆使するジンリェンを相手にシャオレイは苦戦を強いられる。
恋人と友の復讐のため、シャオレイは決死の『血酒拳』を武器に強敵に挑むのだが…

武侠小説家古龍をむかえ、本格的な時代劇アクションにチャレンジしたジャッキー作品の中でも珍しい作品のひとつ。

『新精武門』でジャッキーを第二のブルース・リー路線を狙うも失敗に終わったロー・ウェイは次なる手として考えたのが武侠スターとしての方向性であった。
『ファイナルドラゴン』、『ヤングボディガード飛龍神拳』そして本作はロー・ウェイがジャッキーの可能性をみて製作した作品群であったが、脚本も兼ねた原作者古龍自体が『ジャッキーは自分の武侠小説には合わない』と断言し、結果としてこの路線も失敗に終わる。

こうして方向性が迷走し始めたジャッキーとロー・ウェイの間にはその関係性に溝が深まり、レンタル貸し出しして主演させた他社での『蛇拳』や『酔拳』が大ヒットしたおかげでコメディカンフー路線に光を見いだしたジャッキーはその後のロー・ウェイ作品でも衝突が絶えなくなっていった。

まず本作の雰囲気であるがとてもではないが本来のジャッキーらしさは感じられず、徹頭徹尾シリアスである。
特に本作は複雑な愛憎関係と復讐というゴリゴリな武侠アクション路線であり、ジャッキー本来のキャラとはちょっと違う違和感を感じる。

それもそのはず、当初はロー・ウェイとしても主役はあのジミー・ウォングを想定していた。だからか物語自体の暗さと、まどろっこしい恋愛劇がダラダラと展開していく。
ちなみにジミーさんは香港におれない理由があり、その後台湾へとジミーさんは移っていく。

そしてもうひとつの違和感が、本作におけるジャッキーの強さである。
設定としては普通よりは強いというくらいで、圧倒的に力の差がある相手とはまるで歯が立っていない。だからかクライマックスにおけるジャッキー対申一龍もほぼジャッキーがやられっぱなしで爽快感はない。

原作である古龍自体もアクションよりは複雑な愛憎劇のドラマ性を重視していて、ジャッキーよりも彼のお気に入りの時代劇アクション女優シュー・フォンの揺れ動く心をもっと取り上げたかったようである。
そして恋愛の愛憎劇に復讐、修行、アクションと詰め込みすぎて方向性を失った物語に監督のロー・ウェイ自体もその着地点を見失ってしまい、結果として消化不良ぎみな終わり方となってしまったという。

ジャッキー自身もあまり気に入ってはいないとされる本作。アクションとしての目玉とすれば当時トップの剣劇女優だったシュー・フォンと若手のジャッキーが織り成す究極のツンデレ格闘修行だろう。
若きジャッキーの師となる女首領は親の仇でありながらその息子に恋してしまい、振り向いてほしいがゆえに却って考えられない仕打ちをしてしまうというあまのじゃくな展開。焼けた炭を食べさせたり、顔を焼いたり、毒を飲ませようとするなどえげつない仕打ちをしながらもジャッキーの姿がないところで抑えきれない恋心が駄々漏れというツンデレぶりがこの作品のみそのひとつである。

全体的なアクションレベルとしては本来ならジミー・ウォングがやるべきであったろうレベルのアクションであり、身体能力のポテンシャルが高かった当時のジャッキーとしては物足りないくらいだったと思われる。
ロー・ウェイ不在の時に撮ったとされるクライマックスでは、その環境の悪さからかジャッキー自らが武術指導をし、無駄に長かったアクションを勝手に仕上げたという逸話もあり、どろどろの恋愛と凛々しいジャッキーの若武者ぶりが拝める前半以外はファンとしても賛否のわかれる作品の仕上がりである。

何より後半にいたっては顔半分やけどメイクでしかも頭ボサボサ、さらには辺りも暗めとアクションとしても主役の見せ方としてもちょっと…と思わざるを得ない感じではある。

陽性の明るいジャッキー作品が好みな方にはオススメしにくいところだが、若いジャッキーのチャレンジ作品群としてレアな恋愛ドラマも楽しめる点ではファンとしては押えておきたい作品といえるだろう。


評価…★★★
(ジミーさん想定のキャラ&アクションじゃあ若手のジャッキーではムリがあるよねぇ(^^;)








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