皆さんこんばんは。
アクションとホラー映画をこよなく愛す映画フリークいわしでございます。

前回の独論から間を空けずにお送りします『いわしの映画独論』。ありがたいことに今回で30回めを迎えることができました。
我ながらよくネタが浮かんだなぁと思いつつ、半分は自分の自己マンも織り混ぜてのシリーズとなっております。

毎回あれやこれやの続編を最近はしているのですが、今回はちょっと違った視点から掘り下げたいと思います。

アクションに限らず、俳優は下積みがあってとあるターニングポイント的な作品でブレイクをし、絶頂期を迎えながらもやがて安定期を迎え、そして人気が衰退していくという一連の波があります。
そしてその波が二度三度くるスターもいれば、いわゆる一発屋としてそのまま終わるケースもあります。

アクション俳優、特に格闘技出身のスターについてはそうした波のなかで出演する作品ジャンルに大きな特徴がみられることが多いのをご存じでしょうか?
いわゆるB級アクションスターたちの場合かなりその傾向は強まるようです。

今回の独論はそうしたアクションスターの盛衰期を出演する作品、ジャンルで解説していきたいと思います。

今回検証となるモデルですが、数多いる格闘俳優の中でもこの方が最もハマっていると思われました。
『ゲイリー・ダニエルズ』


でございます。

今回は彼を中心として色々な作品、俳優との関連性を論じていきたいと思います。

まず、基本情報としてゲイリー・ダニエルズについてですが、主体となる情報としましては
ゲイリーは1963年生まれの59歳。実は還暦前なんですね。
ブルース・リーに憧れて格闘技を始め、1979年にキックボクシングデビュー。14年間選手として活躍し、39勝しています。
次世代ヴァンダムの有力候補のひとりとして現役引退後はアクション俳優へと転身し、そのたぐいまれな身体能力と格闘テクニックで目の肥えたアクション映画ファンを唸らせていました。現在も鍛えぬかれた肉体は健在で、その美しい回し蹴りや開脚はヴァンダム以上の呼び声も高いスターです。

これを踏まえつつ早速追ってみましょう。

格闘出身の俳優たちは他のジャンルの俳優たちと同じく、最初は下積み時代があります。
しかし、格闘アクション俳優にとってはそれは己のポテンシャルを売り込むチャンスでもあるわけです。そして自ずとこの時期出演するアクション映画のジャンルにも特徴が現れます。
下積み期のこの辺りはいわゆる『地下格闘系』など元のポテンシャルを活かした、格闘技選手として出演することが多いです。

ゲイリーさんの場合、下積みの頃は一介の選手役として対決シーンをすることが多く、『キングオブキックボクサー2』『トリプルインパクト』『カジノファイター地獄の拳闘』といった作品で地下格闘技ファイターとして出演しております。
ここでのゲイリーさんはまさにキレキレで開脚はもちろんのこと、長髪を振り乱しての回し蹴りの連続は芸術的でさえあります。

下積み期を重ねていくといわゆる知名度が一気に上がっていく『ブレイク期』を迎えるきっかけとなる作品と出会います。
下積み期のポテンシャルに目が止まり、俳優を売り出すための宣伝が強化されるわけです。
ジャッキー・チェンでいえば『酔拳』であり、ジェイソン・ステイサムでいえば『トランスポーター』がブレイク転機となる作品ですね。

ゲイリーさんでいうと『シティーハンター』などで見せたポテンシャルが注目され、カルト的作品となった『北斗の拳』がそれに当たると思われます。


『北斗の拳』自体は興行成績自体は振るわなかったものの、人気原作の主人公ケンシロウを演じたというのはゲイリーにとっては広く世間に名を知られる転機になったともいえます。

こうしてブレイクを果たすと途端に色んなアクションジャンルの作品が舞い込んでくるわけですが、ここでハリウッドの格闘俳優たちは格闘路線の作品を避けはじめ、ガジェットを扱うアクションジャンルへと手を広げ始めます。
ブレイク期から絶頂期にかけて彼らはその入り口として『刑事物』に出演を始めます

『刑事アクションもの』は格闘アクションを温存して、ガンアクションでみせることができるため、まさにこのジャンルは禁断の果実とも言うべき代物です。
しかし多用すればするほどマンネリ化も早く、最初は格闘系刑事だったものがガンアクション比率が高くなり、刑事から諜報部員やエージェントになると更に格闘色が薄れていく傾向になってきます。

ゲイリーさんの場合も多分に漏れず、その傾向を歩むこととなっていきました。
ダレン・シャラヴィとの一騎討ちが話題だった『ブラッドムーン』ケイリーヒロユキタガワとの死闘が注目だった『ドラッグマスター』辺りは格闘主体の刑事だったものの、数本目の刑事役となった『アベンジャー』では10000発の銃撃戦が売り文句となり、エージェント役の『メガロ人質奪還指令』ではゲイリーとまともに戦う強敵もいなくなっていました。

刑事ものが飽和状態となってくると衰退の始まりとなるわけですが、ここでA級とB級の分かれ道となるべきジャンルがでてきます。
ひとつはハイリスクハイリターンなもの。もうひとつはなるべくしてやってきたジャンルです。

前者はいわゆるパニックアクションもの。
自然災害や火災などのディザスターパニックにほぼアクション無しで出演するパターンです。
売りである格闘シーンを捨ててなんと頭脳派の学者や博士などとなり、ヒーローばりに災害に立ち向かうものですが、格闘スターにとってはあまりにも危険すぎるジャンルといえます。
かつてシルベスター・スタローン『デイライト』でトンネル災害のレスキュー隊員役を演じたものの奮わず失敗。このジャンルで成功しているのはドウェイン・ジョンソンくらいでしょうか。

ゲイリーさんも『激震地L.A』でなんと巨大地震に襲われ逃げるITハッカー役を演じるのでふが、見事なまでにこけております。保険として地震の最中にテロリストが暗躍するなんて余計な味をつけてましたけどね(笑)

後者はガジェット頻度が更に進んだ『コマンドアクション』もの。
ハンドガンからマシンガンやライフルを携え、迷彩服を着始めたら、下降の第二段階に入ったとみて良いでしょう。
コマンドアクションものに出演すると更に格闘色が薄れていき、単独のミッションならまだ見せ場もあるものの、チームを率い始めてくると格闘シーンはもはや2シーンあるかないか。ほとんどは大型マシンガンや最新兵器が派手に暴れてのエンドロールという感じになります。

ゲイリーさんはこの形が非常に分かりやすく、『エネミーアクション2』『バトルブレイク』『デザートスコルピオン』など次々とコマンドアクションものに出演。いつしか格闘シーンもほぼなくなり、ゲイリーさんを使う意味があるのか?とまでなっていきました。
ここまでくるともはやなんの予告もなくDVDスルーしたり未公開が連なったりしてくるものです。おりしもこの頃になると肉体的にも厳しくなってきて、余計に格闘アクションから離れよう離れようとしてしまい、ファンをして酷評されるのでした。

低迷期ともなるともはやアクションすらさせてもらえず、その出番すらファンの期待を裏切る結果となるのも少なくありません。
A級のスターがアクション無しで挑むのとは質が違い、アクション俳優なのにアクションシーンをさせてもらえないという状況になるわけです。

ゲイリーさんの場合、その極限状態はドルフ・ラングレン主演の『レトログレイド2204』で起こりました。
ラングレンとゲイリーというファンなら嫌でも期待値の上がるマッチアップでしたが、肝心のゲイリーはアクション無しで銃撃であっさり退場。ラングレンの精彩を欠いた格闘アクションもあってかなり残念な作品になっていました。
この頃はセガール作品にも出ましたが一瞬にして殺害されるなど嘘のような扱いでした。

大抵のアクションスターたちはここで消えていくわけですが、ゲイリーの場合、スタローンのアクション祭り企画『エクスペンダブルズ』で黄金期を知らない世代にもゲイリーさんの格闘アクションの素晴らしさが知れ渡り、ゲイリー自身も『ワイルドファイトX』で原点回帰ともいえる地下格闘系アクションものに出演。
いま最も動けるアラ還格闘スターとしてまだまだ鍛えている肉体と格闘テクニックを武器にアクション映画界に復帰してきたのでした。

いかがでしたでしょうか?
今回はゲイリー・ダニエルズをモデルとして見てきたわけですが、このパターンはほとんどの格闘系アクションスターに当てはまるもので、次世代ヴァンダムはみな陥ったジレンマでもあります。
ゲイリーだけでなく、マーク・ダカスコスオリヴィエ・グラナービリー・ブランクス、そして数多くのキックボクシング俳優をはじめとする格闘スターたちがたどっていった縮図。
そしていま当に売りだし中のスコット・アドキンズトニー・ジャーといった新世代格闘スターたちがその波に乗ろうとし、抗おうとしています。

先人たちの失敗を繰り返すのか、それとももう一皮剥けてA級のスターへと確変し、時代を勝ち取るのか?
格闘俳優たちの出演するアクションジャンルによってまた違った目線でアクション作品を鑑賞することもまたアクションファンにとっては新しい楽しみ方のひとつといえますね。

そういったわけで今回の独論はこれにて終了。
次回もまた違ったネタでお会いしましょう

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