ショウブラザーズきっての功夫巧者、ラウ・カーリョン主演の本格派カンフーアクション。

京劇劇団の座長であるチェンたちは街の実力者ドアンの計らいによって『孫悟空』の公演を開催し好評のうちに千秋楽を迎えようとしていた。

その夜ドアンは座長のチェンに打ち上げの酒宴の誘いをかける。
かねてよりドアンはチェンの妹であるメイメイに横恋慕しており妹のことを思ってチェンはこれまでの誘いは断っていたのだが千秋楽を終えての最後の挨拶ということでメイメイも連れて出向くことにする。

しかしメイメイには不安があった。
拳法の達人である兄はことさら酒癖が悪く酔いつぶれては記憶をなくしてしまうことも多々あった。
和やかなうちに始まった宴はやがてチェンとドアンの拳法自慢へと発展していく。
酔いもまわってご機嫌になってきたチェンは猿拳の演舞でドアンの部下たちを相手に立ち回る。

それをほくそえむドアン。
実は彼はメイメイを自分の愛人にするために罠を仕掛けていたのだった。
ドアンは自分の正妻をけしかけて酔いつぶれてしまったチェンを不義姦通の現行犯に仕立て上げる。

気がついたチェンだが罠にかかった彼はドアンの妻を寝とろうとした犯人として町の掟として処刑されることになる。
それを聞きメイメイは自らドアンの妾となることを条件に兄の命を救うよう懇願する。

後に仕返しが出来ないように両の拳を潰されてしまったチェンはメイメイを失い町を追い出されてしまうのだった。

それから数年後。
チェンは猿回しの大道芸人として日銭を稼ぐ毎日であった。
辿り着いた街では理不尽なショバ代を要求するチンピラたちによって疲弊していた。

チンピラたちから盗むことで生計を立てている青年シャオホワはそんなチェンの芸に憧れ、彼の弟子になろうとチェンになにかと世話をやく。
だが争い事をとかく嫌うチェンはそんな彼を少し鬱陶しくも感じるのだった。

そんなある日。
チンピラたちはチェンの芸の最中に乱入。
要求額を払えない彼にチンピラたちは相棒でもある猿を暴行の末に虐殺する。
一瞬怒りで抵抗するチェンであったが相棒を失ったチェンはショックで引きこもってしまうのだった。

元気づけようとない知恵を絞ってチェンを励ますシャオホワ。
シャオホワの発案で失った相棒の代わりにシャオホワを猿役にして猿回しをするというアイデアで再起を図るチェンであったがチンピラたちは更に追い打ちをかけて無理難題をおしつけチェンたちは途方にくれるばかりであった。

そんな中でシャオホワの隠れた身体能力の高さに気づいていたチェンは理不尽なやり方に怒りを露にするシャオホワに全うな道を歩むことを条件に猿拳の特訓を行い、山へと連れ出す。

数ヶ月後。
腕をあげたシャオホワはチェンにチンピラたちへの仕返しをするため下山を申し込む。
特に止めることもしないチェンを尻目に意気揚々と町へと帰ってきたシャオホワは早速チンピラたちと遭遇し、鍛えてきたカンフーで彼らを返り討ちにする。

更に意気の上がるシャオホワはチンピラたちを統率しているというグォを倒すためチンピラたちを率いてグォが仕切る遊郭へ殴り込みをかける。
グォもシャオホワにとっては敵ではなく圧倒的な力の差をみせつけて勝利をおさめるのだがそこにグォの兄貴分という男が現れる。
その男こそドアンであった。

シャオホワのトリッキーな猿拳はドアンには全く通じず反対に動きを封じられて万事休すとなる。
しかしシャオホワのカンフーをみていたメイメイは頭をカチ割られそうになる彼を助けるとその拳法から兄が生きていることに気づく。

一度は脱出したシャオホワだったがチェンからもらった帽子を取り戻すために再び侵入。
そしてメイメイはドアンが最初から自分達を騙すために策略をたてていたことを知る。
駆けつけたシャオホワと共に怒りに身を任せドアンに襲いかかるメイメイ。
だが手負いのシャオホワはメイメイと二人がかりでもドアンには敵わない。
メイメイは決死の覚悟でシャオホワを逃がすのだが自身はドアンの攻撃によって息絶える。

圧倒的な敗北を味わい失意のうちにチェンのもとに戻ってきたシャオホワ。
シャオホワはチェンにメイメイが生きていたこと、そして全てはドアンが仕組んだことで彼によって打ち負かされたことを告白するとチェンは押さえきれないほどの憤りを感じるのだが、シャオホワの説得により打倒ドアンを旗印に二人は激しい特訓を重ね、遂にシャオホワは猿拳の奥義である『一八拾式』の技を会得するのだった。

積年の復讐のためにドアンの屋敷に乗り込んでいくシャオホワ。
だが敵も彼らに対抗すべく様々な罠を仕掛けていた。
更にメイメイが死んだことを知り、冷静さを失ったシャオホワは敵の捕縛の罠にかかって絶体絶命の危機に。
だがそこにチェンが現れ、仇敵ドアンの前に立ちはだかる。

運命を狂わせメイメイを死に追いやったドアンを倒すためチェンとシャオホワの猿拳師弟は絶対的不利の中最後の戦いに挑むのだが…

祖父があの伝説の武術家、ウォン・フェイフォンの直系弟子という本格派ラウ・カーリョンが手掛けたクンフーアクション作品。

香港映画界においてレジェンドとよばれる三大武術指導家がいるのだが、ユエン・ウーピン、サモハン、そして本作の主演を兼ねるラウ・カーリョンが挙げられる。

特にラウ・カーリョンは『少林寺三十六房』の主演を務めたゴードン・リュウの義兄にあたり、ジェット・リーの『阿羅漢』やショウブラザーズのオールスターが出演した『嵐を呼ぶドラゴン』で武術指導や監督を手掛けるなど、香港映画とくにアクションにおいては最重要人物のひとりである。

数多くの作品を手掛けているカーリョンであるが本作は特に自身も得意とする猿拳をフィーチャーしており、冒頭でのカーリョンの躍動感あふれるカンフーは生き生きとしているようである。

本作では既に40代と思わしきカーリョンであるがダブル主演であるシャオ・ホワと比べてもその身体能力は遜色なくずば抜けており、連続バク転や武器をかわす空中回転の姿勢の良さなどは鮮やかで目を見張るものがある。
そんな彼を師匠役に迎え、次世代の若者として抜擢されたのがラウ・カーリョンの秘蔵っ子とよばれたシャオ・ホワ(小猴)である。

主人公を演じるにはカリスマ性が薄くて見映え足りないが彼の特徴はその身の軽さ。
京劇出身で香港映画界イチのスタントマンと誉れ高いユン・ピョウをも凌ぐそのポテンシャルは名前の通り猿のようにすばしっこく、アクロバットがとにかく美しいのが特徴。

本作の見せ場はそんな二人の見せる細部に至るまで計算されつくした格闘シーンの数々。
よくよくみるとカーリョンの猿拳とシャオホワの猿拳にはそのアグレッシブさで違いがあり、特訓シーンでの二人のシンクロする猿拳の演舞は圧巻の一言である。

そんな二人に相対するラスボスを演じるのがショウブラザーズでは悪役でお馴染みのロー・リエ。
少林寺ものではあのタランティーノも大ファンという白眉道人という悪役キャラで有名であるが本作は悪役としてはインパクトは薄め。
悪い人ではあるがどことなく極悪非道さは薄めな上、使う拳法が地味だったりと主役たちの派手なムーブに比べるとちょっと物足りなさが残るのが惜しいところ。

クライマックスではそのロー・リエ対カーリョン&シャオホワの戦いなのだが、敵の部下たちが揃っての集団戦のうちは結構見応えがあるもののカーリョンによって部下たちが散滅すると明らかにロー・リエが分かりやすく劣勢になってしまうなどあと一歩惜しい所が目立つ。

ロー・リエの他にもショウブラザーズの看板女優であるクララ・ウェイがカーリョンの妹役で登場し、可憐な魅力だけでなくシャオホワとのタッグのカンフーもみせるなどアクションに関しては見処は多め。

ただ本作足を引っ張っているのがキャラクターが揃いも揃って間抜けであること。
後半の主人公シャオホワは天然のおバカさんで空気も読めないのだがこれが何ともコメディと呼ぶには笑えない微妙さでただおつむが弱いだけが目立ってしまう。
そして分かりやすい罠にものの見事にかかってしまうチェンもまたボケボケというか。それが笑えないので変な違和感を感じずにいられない。

アクションは良いのにもう少し何かが足りない惜しい作品。
ただこの時代作風や物語の展開に力をいれることは少なかったのでこれはこれで時代としては良いのかもしれない。
若々しいラウ・カーリョンの本格派のカンフーアクションを堪能するのにもオススメな佳作といえよう。

評価…★★★★
(人物像に感情移入はしないがアクションは最高に盛り上がる逸品。)