映画好きの皆さま何かと大変な2020年もあとわずかですね。
アクションとホラーをこよなく愛すフリークいわしでございます。

おしもせまった年末でやり残したこと沢山あるのですがこの独論シリーズもまたその中のひとつでして以前から節目の回にやろうと思っていたネタを今回20回目ということで書いてみることにしました。

記念すべき第20回のネタはアクションスターの誰もが考える未来についてのこと。
華々しく活躍するアクションスターも年と共に以前のような動きはできなくなるものでございます。
いくら鍛えぬいたとしても『老い』からくる能力の劣化からは抗えません。

アクションスターの場合それは顕著な形で現れますが、その時にみんな通るのが
『アクションからの脱却』
です。
数多くのスターたちが『アクション』という武器を捨てて勝負するのですが、いかんせん一般的にはそのチャレンジに対する評価というのは厳しいものです。

今回は数名のスターたちの『脱アクション映画』へのチャレンジとその後の状況、そしていわしが個人的に考える脱アクションを果たせた理想の俳優をご紹介させていただきたいと思います

まず取り上げますのは今もレジェンドとしてアクション大作をリリースし続ける

『シルベスター・スタローン』


でございます。

『デスレース2000』などでアクション俳優として燻っていたスタローンが自ら脚本を書き上げ作り上げた『ロッキー』のヒット以来、彼は『ランボー』シリーズや『コブラ』などのハードな刑事物、そしてドル箱の『ロッキー』シリーズとマッチョな肉体を駆使したアクション中心のイメージが強いですが、その方向性に悩み『脱アクション』を目指した作品に何度もチャレンジしています。

まず最初に目指したのはコメディ路線。
1984年に主演した『クラブ・ラインストーン/今夜は最高!』ではクラブ歌手に恋するタクシー運転手役にチャレンジし、人生初のラブコメと歌にチャレンジするも話題にはなるがヒットとはならず『ラジー賞』をもらうだけに至りました。

次はシリアスなドラマ路線を狙い、サスペンス映画『コップランド』主演。
20㎏以上増量して冴えない中年警察官を演じるも作品評価は不発でした。
以降も『スパイキッズ3D』でコミカルな悪役など色々とチャレンジするも結局は方向転換は叶わず、アクション俳優として開き直った彼はオールドスターの祭り『エクスペンダブルス』を大ヒットに導くなど75歳になる今も第一線のアクションスターとして活躍する方向性に落ち着いたのでした。

スタローンにはそもそも顔面麻痺や言語障害という演技派俳優としては不利な条件を持っており、一概に作品だけのせいともいえないがやはりスタローン=肉体美のイメージは崩せるはずがなく一周回ってスタローンは生涯アクションの意志に落ち着いたのでしょう。


次に紹介するのはアジアだけでなくハリウッドを代表するアクションスターとなった

『ジャッキー・チェン』


でございます。

彼は作品ができるごとにインタビューでは『アクションはあと数年で引退』とのべていて、そのことから一般だけでなくファンの間でも『アクション引退するする詐欺』と揶揄されています。
そんな彼がこうした発言を始めたのは『サンダーアーム龍兄虎弟』で命に関わる大ケガを負ってからのようです。

それまでは怪我こそすれどスタントマンとしてどこかに大丈夫だという意識があったらしいですがこのケガで死の寸前までいったことによりいつ死んでもいいように一つ一つの作品へ全力を向けることと合わせてノースタントアクションへの限界を感じ、自身がアクションから一線をひき、方向性を変えることと後進を育てる考えを持ち始めました。

そしてその動きは度々ジャッキーの作品の中にも実験的に取り入れられたりしています。

まず取りかかったのは自身についたコメディの色の脱却でした。
『新ボリス・ストーリー重案組』では実録犯罪ドラマを題材にシリアス作品に出演。
そして『ファースト・ミッション』ではそれまで禁忌としていた女優とのキスシーンにハッピーエンドとは言い難い重苦しい空気感の作品にチャレンジしています。

ジャッキー自身はよりドラマ性にも凝りだしその年の全てを費やしたとされる大作『奇蹟ミラクル』ではアクションだけでないドラマの重厚さを狙っていました。

しかしここまで用意周到にしてもアクションが残っているからこその評価でそのチャレンジについては酷評が続いてました。

やがてハリウッドでも成功を治めたジャッキーは遂に大胆なチャレンジとなる問題作を撮ります。
それが日本を舞台にした『新宿インシデント』でした。
本作は彼の代名詞でもあったマーシャルアーツアクションを封印し、銃と無骨なバイオレンスアクション、更には過激な濡れ場などファンにとっても踏み絵的なものになっていました。

以降のジャッキーは作品にメッセージ性が強くなり以前のような完全に陽性のアクションは徐々に鳴りを潜め、『ラストソルジャー』『1911』などジャッキーが長らく構想を練っていた作品では政治的メッセージを取り入れるなど個性派を匂わせる作品選びが多くなります。

そして幾度目かの『アクション引退』を掲げた『ライジングドラゴン』以降もいまだ元気にアクションやマーシャルアーツをみせていますが、やはり往年の動きからは陰りが見え始め、それはジャッキー自身も認識しているらしく相変わらず『アクションはあと数年で引退』のスタンスは守ったまま徐々に『アクションだけの俳優』としての、イメージを払拭しようと作品出演に奮闘しています。


さて、同じようにアクションスターとして活躍しながらこの方は少し違う事情があるようです。それが

『ジェット・リー』


でございます。

『少林寺』での大ヒットから『ワンチャイ』の黄飛鴻で再ブレイクを果たすまで暗黒時代を過ごしてきた彼はことのほかカンフーマシンからの脱却を目指し、ようやく『リーサルウェポン4』においてハリウッド悪役デビューを果たし、同じ頃ハリウッドでブレイクしたジャッキーと同格にまでたどり着きました。

そんな彼が唯一アクション無しで挑んだのが『海洋天堂』という作品。
実録エピソードから作られたこの作品は自閉症の息子をもつ父親がガンを宣告され限られた余命のなかで親子の交流を描くというドラマであり、リーはその父親役を演じております。
脚本に感動したリーは自らノーギャラでも演じたいといったほどで近年演技的にも注目されていた最中でのチャレンジだったのでしょう。

結果としてはある一定の評価はあったもののアクションのないジェット・リーというのも違和感があるようで後に自身のカンフーアクションの集大成と謳った『SPIRIT』で半ば強引にカンフースターからの脱却を図ったのでした。

しかしこの頃より甲状腺の病気を患ったリーは『ドラゴンコップス』を最後に治療に専念するためアクションの第一線からは退くこととなるのです。


アクションスターが脱アクション作品に挑戦する。
いずれも彼らが目指しているものはアクションスターではなく『アクションもできるスター』というところでしょうか?
演技派としての評価があがればアクションに拘らなくても作品として勝負ができます。
それぞれ三者三様のチャレンジの結果として
スタローンは生涯アクションスターを突き進む
ジャッキーは未だアクションもできるスターを目指す
リーは志半ばにしてアクションへの復帰をまず図る
ということになりました。

アクションでブレイクしたスターがアクションではない作品で一般人を認めさせるのは本当に難しくリスクの高いことなのです。

そんな中で実はアクションの出でありながらアクションのない作品で存在感を示し、更にはアクション作品であってもアクションを見せないで通じるというジャッキーやジェット・リーも無し得なかった理想のスタイルを築いた俳優が存在します。

それがこの方

『サイモン・ヤム』


でございます。

今では香港映画におけるすべてのジャンルで起用される稀有な個性派俳優で、無論アクション映画にも出演しています。
実は彼は元々はモデル出身でアクション映画で抜擢されたアクションスターでした。

倉田保昭が総合企画した『ファイナルファイト最後の一撃』で新人デビューした彼は倉田の弟子役として出演しラスボスのボロ・ヤンに倒されます。倉田のハードな特訓にも付き合い見事な回し蹴りもみせています。
その後も『刑事ディック/キプロスの虎』などで格闘アクションを見せるなど活躍しますが彼はアクションだけでなく、色々なジャンルの作品に出演を重ねアクションスターとしての色がつかないようにしていました。

それによりホラー作品である『八仙飯店』シリーズやエロチックなドラマ作品などにも出演し、ジョニー・トー作品でのハードボイルド路線も相まって作品に捕らわれず独自の味を出せる稀有な個性派俳優としての立ち位置を確立したのでした。

彼の場合、決して出番が多い役ではないのに作品内で強烈なインパクトを残すのはそうした地盤があるからなのかもしれません。
ジャッキーが未だ辿り着けない立ち位置。アクションスターとしては確かにサイモン・ヤムはジャッキーには敵わないでしょうが世間で認められた『アクションもできる演技派俳優』という唯一無二の存在は彼しかできないでしょう。


最近あのドニー・イェン『イップマン完結編』をもってカンフーアクションからの卒業を口にしました。
彼ももう57歳。ハードなアクションにも限界がきてもおかしくありません。
とはいえ『カンフー』からの卒業であり生涯アクションは続けてくれることでしょう。
彼も演技派としての道を模索していくのか、そしてアジアで次々ブレイクしていく次世代スターたちの今後も気になるところ。

皆さんもアクションスターたちの脱アクションへのチャレンジを見守っていきましょう。

といったとこで今回の独論はここまで。
次回はどんなネタを放り込んでくるかお楽しみに
(^-^)/

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