香港カンフーマニアとして知られる『ウータンクラン』の筆頭ラッパー、RZA が肝いりで製作した荒唐無稽のカンフーアクション。

19世紀の中国。混迷を極める情勢の中で辺境の『叢林村』は金獅子率いる獅子団と群狼団の争いが絶えず、血生臭い紛争が起こっていた。
そんな村で唯一の鍛冶屋を営む黒人のブラック・スミスは互いの組から強力な武器の発注が相次ぎ、日々心身共に疲弊する毎日を送っていた。

彼の唯一の慰みは村随一の娼婦館『粉花楼』の美人娼婦シルクとのひととき。彼はこの仕事を最後に大金をはたいて彼女を身請けしようとしていた。

そんなある日、この叢林村に政府の御用金が輸送されてくるという情報が舞い込む。
地区の総督は叢林村での護衛として金獅子を指名し、名誉なこととして彼もその任務を引き受ける。

多額の金が運ばれてくる噂を聞きつけ、各地から得体の知れない輩たちが村に押し寄せてくる。
英国貴族風のジャックもその一人。彼は人間を切り裂くナイフと銃を合わせた武器を手に粉花楼に居住し、夜な夜な娼婦たちを相手に夜を楽しんでいた。

一方、金獅子は御用金の強奪を狙う弟の銀獅子や銅獅子によって暗殺されてしまう。
そして父の訃報は遠く離れた息子ゼン・イーのもとにも届いていた。
銀獅子への復讐を誓う彼は全身刃物の『X ブレード』を武器に銀獅子からの刺客を次々と撃退するが、そんな彼を倒すために最強の暗殺者『金剛』が呼ばれる。
全身を一瞬にして真鍮に変える能力を持つ彼の体はゼン・イーの刃も通じず、ゼン・イーは瀕死の重傷を負ってしまう。
そしてその彼を目撃したスミスはシルクとの部屋に彼を匿い介抱するのだった。

御用金は遂に村に到着する。
ここぞとばかりに銀獅子たちは強奪を狙うが、護衛の戦士双飛は強力なタッグ攻撃で銀獅子たちを圧倒するが、銀獅子に味方する謎の暗殺者『ポイズン・ダガー』の毒針によってあえなく絶命。まんまと御用金を強奪するのだった。

しばらくして回復してきたゼン・イーはスミスに新たなX ブレードの発注を頼むが、スミスは銀獅子たちに捕まり、拷問の末に鍛冶屋の命ともいえる両腕を切り落とされてしまう。
死にかけていた彼を救ったのはあの胡散臭そうな英国貴族ジャックだった。
彼の正体は皇帝より派遣された密使で御用金の流れを監視する役目をおっていた。
更に御用金を取り戻すために村全体を壊滅させようと故狼軍が動き出したことを知り、スミスに協力を求めていたのだった。
彼の手によりスミスの両腕は鋼鉄の凄まじいパワーを持つ義手がつけられる。

一方勝利の宴に酔う銀獅子一派は粉花楼に陣取っていた。
粉花楼のオーナーであるマダム・ブロッサムは御用金が保管されたことを利用して銀獅子一派の暗殺を遂行する。
大乱戦の末に銀獅子一派は多大な打撃をうけ、銅獅子も倒されるが、反対にマダム・ブロッサムも相討ちとなり、金剛の暗殺に失敗したシルクも彼に殺されてしまう。

復活したゼン・イー、ジャック、スミスはそれぞれ雌雄を決するため、宿敵の待つ粉花楼へと乗り込んでいくのだが…

クセのある俳優揃いでエキセントリックな描写のアクションも特徴的な作品。

一応の主役となるRZA はラッパーであり、歌手でありながら香港カンフーマニアという変わり種で、本作ではそのマニアぶりを象徴するかのように企画、製作などにも関わっている。
彼の好きな世界はいわゆるショウブラザーズ系のオーソドックスかつエキセントリックなカンフーアクションで、そんな彼の趣味を示すかのように出演陣の金獅子役には往年のショウブラザーズ系のカンフースター、チェン・クァンタイを起用している。

彼の香港カンフー映画オマージュは本作の全編に渡って散りばめられており、そもそものアイアンフィスト誕生のくだりからしてジミー・ウォングの『片腕ドラゴン』のノリ。
更には『空飛ぶギロチン』や『嵐を呼ぶドラゴン』といったショウブラザーズの作品の名場面のパク…いやオマージュがそこかしこにあるので、同じマニアの方は探してみられるのも醍醐味のひとつ。

アクションについてはカンフーアクションを軸としながらもハリウッドの『X メン』やアメコミ系のアクションに近い味付け。
ヴァン・ダムの『ストリートファイター』でまさかのリュウ役で頑張ったバイロン・マンや総合格闘家カン・リーなど実力派を揃えている中でも一際輝いていたのはゼン・イー役のリック・ユーン。
テコンドーの素養がある彼のアクションと全身から刃が飛び出すアメコミ風演出は見事にマッチしていて最高にカッコいい。

アクションの見所としては豪華競演陣によるクライマックスの大乱戦なのだが、前半は『キル・ビル』ばりの強烈キャラクター、ルーシー・リュー対カン・リーの対決が見所。野獣のような攻撃を繰り出すリーに対し、華麗に舞いながら必殺の攻撃を入れるリューの姿はさすが本格的な格闘術経験者である。

後半はリック・ユーン、ラッセル・クロウ、RZA がそれぞれの因縁の敵との一騎討ちとなるのだが、実はアクション的にはここに大きな落ち度がある。
リック・ユーンと戦うバイロン・マンは『燃えドラ』の鏡の死闘シーンを彷彿とさせる感じでそれなりに見応えはあるのだが、あとの二人が残念。

ラッセル・クロウは正体を現したダニエル・ウーが相手。
しかし明らかに太りすぎなラッセルは動きももたつきっぱなしで鈍く、完全にこのシーンは蛇足なくらい。
好色なキャラクターはいいがアクションにはムリがあったか。

そして主役となるRZA の相手は金剛役の元WWE スーパースター、デイヴ・バティスタ。
あの筋肉獣相手の対決は西洋人のバティスタがなぜか虎拳を使うという面白展開があるものの、極めて大味な感じ。
バティスタ自身は悪くはない。あの『X メン』のコロッサスのバッタもんみたいな感じはピッタリだし、虎拳も様にはなっていた。
しかし問題はRZA である。
カンフーの達人だったという触れ込みのわりには鈍く、しかも攻撃は鉄のパンチばかり。
確かに雑魚敵などは殴れば爆裂する『力王』ライクなパンチで強力ではあるが、決着がカンフーではなく、もはや『カンフーハッスル』の劣化版のような決着なのがいただけない。
まさかの主人公が動けてない結末はちょっと残念すぎるだろう(笑)

ストーリー的には特に捻りもなく、次から次に登場人物はでてくるものの深く関わりもなく、御用金を巡る血で血を争う争奪戦。
物語で見せるような感じでもないので娯楽アクションとして楽しむのが正しいだろう。

ハリウッドのアメコミ風アクションと香港由来のカンフーアクション、その融合という形では最高峰に昇華された作品であり、この辺りはRZA のアクション好きが功を奏しているといえる。

評価…★★★
(端的に言うとX - MEN が香港カンフーアクションに傾倒したらこうなった(笑)?)