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戰後まもなくのときに自主憲法を制定し、自存自衞の體制をつくっておけば、たぶん今の悲劇のいくつかは觀ずに濟みました。アメリカからの壓力にしても、今より穩やかなものであったでせう。内政干渉を毅然としてはねのけられました。そもそも、わが國の防衞をまかせてゐるところに、NO! と言へない弱みがあるのですから。
わが國の歴史にもとづいた憲法を定めなほしておいたなら、戰後における國家解體のうごきも少なかったとおもはれます。日本國憲法が國史に（ほとんど）もとづかず、むしろ外國史にもとづく以上、國史に關心をもたずして外國の方ばかりを氣にする國民が出ても、別に不思議でもなんでもありません。
みづからの國の防衞はみづからの手でおこなふ體制にしておいたならば、近隣諸國になめられることなぞなかったでせう。北朝鮮による拉致も、まったく起こらなかったとまでは言ひませんが、今よりマシな經過をたどったのではないか。
そんなふうに自主防衞の大切さを論じると、きまって次のやうな批判がくることでせう。
「再軍備に金をとられてゐたら、日本は經濟大國にはなりえなかった。」
もっともらしい批判です。が、見るべきものを見てゐません。日本人の能力をあまく見てをります。わたくしは、日本人の勤勉さ・有能さに誇りをもつ者です。それらの美徳をもってすれば、再軍備に金がかかったとしても、やはり日本は經濟大國になったでせう。
再軍備の代償として、經濟大國化へのスピードが落ちたとしても、いつかはさうなったはずであります。スピードが落ちるだけで、わが國は確實に經濟大國になりえたでせう。
いま、日本國が下り坂にあると言はれます。假にさうだとするならば、その原因は、經濟のことしか考へずに國家を營んできたからではありませんか。
ほんたうは、國家のこと・防衞のこと・家族のこと・地域のことなどを考へながら、もっと着實にゆっくりと經濟成長するべきでありました。じっさいは逆に、それらのことを無視して經濟にだけ集中しました。
おかげさまでハイスピードに經濟大國化だけはしたけれども、その中身はとても脆くなってしまひました。外見は巨きく華やかにみえますが、内實はいたって脆弱です。その中身の脆さが、今のわが國に仇（あだ）をなしてゐるのではないでせうか。
國の内部がそっくり拔け落ちてしまって、そこから數々の厄介な問題が生まれたのです。外側はまだそれなりに丈夫でも、中が拔けてしまってはいけません。速かに内部の補修をすべきであります。
しかし世間が今やってゐることは内側の補修ではなく、依然として外側を飾りたてることばかりです。そのをかしさに氣づく人も現はれはじめましたが、まだ大勢ではありません。金が無いだけなら、また稼げばよいのです。が、金で購（あがな）ひえないものを失ってしまったら、どうするのですか？
戰後日本のありかたは、人間の生き方に喩へることができます。若いころから仕事にだけ熱中して家族をかへりみない人は、たしかに業績ものびて出世もいたします。ところが、晩年へゆくにしたがって家族崩壞が兆（きざ）し、もめごとが多くなります。つひには仕事にも惡影響を及ぼし、今まで得たものを失ふこともあります。
みづからの健康を氣にせずして生きる人は、たしかに若いうちから實績もあがることでせう。睡眠時間を削ったり運動する時間をけちったりすれば、仕事にかける時間が増えます。料理する手間を惜しんでインスタント食品や菓子のたぐひで食事を濟ませれば、なるほどたしかに時間は節約できます。が、そのかはり、晩年になって身體を壞すのです。
極端なことを言ふと、徹夜をすれば夜をまるまる仕事にあてられます。效率のよいこと、この上ありません。が、そんなことをしつづければどうなるか。身體がもちません。老人とよばれるより前に倒れ、夭折してしまふ人もゐるでせう。
戰後日本とは、そのやうな無理強ひをして生きる人と同じではないか。效率を追究するあまり、食事や睡眠・運動にあたるべき大切な事柄をなほざりにして、經濟大國にだけはなりました。しかし、その無理がたたって健康を害した。それが、いまの日本のありさまではないかと、わたくしにはおもはれてなりません。
さうだとすると、われわれはみづからの國を入院させて、治療しなければなりません。すなはち、今まで無視してきた事柄におもひを致し、堅實でまったうな生きかたを選ぶべきなのです。すくなくとも、病氣になる前とおなじ生きかたでよいわけがありません。
しかしながら世の中の動きを見るに、まだ效率！ 效率！ と叫んでをります。いえ、效率をもとめることじたいは構はないのですが、それ以外のことにも目を向けてほしいのです。效率一邊倒の思想をこそ、わたくしは問題としたい。
ちかごろ本屋における時の人になった出光佐三も、このやうに述べてをります。
「今の全世界の人々の理想は、平和と人類の福祉の達成ということであります。それにもかかわらず、実際はその反対に向かって、混乱の極に達している。（中略）この混乱を救う道はあるかというと、それも見つかっていない。そして極端な行詰りさえ来たしています。それならば、何かそこに、そういう行詰りを来たした根本的原因がありはしないかということを、われわれは考えなければならない。それは、思想的行詰りであり、思想的の行詰りが今日の混乱の原因といえるのであります。」出光佐三『人間尊重五十年〈普及版〉』（春秋社）３３２頁
わたくしもまったく出光に同意いたします。制度・仕組がわるいのではありません。思想がわるいから、世の中がわるくなるのです。それにしても、出光は事業家であるまへに、ひとりの思想家ではないでせうか。
（つづく）
最後まで讀んでくださり、ほんたうにありがたうございます。「出光佐三は思想家である。」といふ意見に贊成のかたは、ぜひ『人氣ブログランキング』に清き一票を、よろしく御頼み申上げます。
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