日本美術の「図像学入門」を読みました。実は西洋美術の図像学や図像解釈学の方が好きだから日本美術・東洋美術の方はちょっとかじった程度なんですよね。



ただ本書自体は以下の目次を見れば分かるように実に軽妙で、紹介する作品選びも面白いものが多かったです。例えば…


最初の章で紹介されている釈迦の降魔成道図の作風がまず凄い。降魔成道図とは、釈迦が坐禅中に悟りを開くのを邪魔するためマーラ(悪魔)の軍勢が攻めてきた様子を描いた仏画なんですが、このユルさは一周回ってもはや現代的で、もはや現代のイラスト作品だと言っても通じます。ちなみに奈良時代の作で国宝。本当なら力ずくでねじ伏せようとする力強い悪魔や、面白おかしいエンタメで気を引こうとする芸人、奇妙なクリーチャー、色仕掛けをしてくる魔王の娘達が描かれるのに、どいつもこいつも揃ってみんなユルい。もし今後展覧会でこの絵が展示されるとしたら、この絵を使ってグッズを作れば普通に売れるんじゃないかと思います。


この平安時代に描かれた地獄絵図の餓鬼道の餓鬼もセンスが良過ぎます。このポーズでこの顔、まるで昭和の高度成長時代のイラストや漫画の作風で、絵師は絶対に見る者を怖がらせようとするより笑いを取りに来ています。

よく漫画の原点は鳥獣戯画だと言われますが、実は以前から既に漫画的な表現があったのかもしれません。


こちらは西洋絵画の聖書美術によくある「異時同図法」が日本美術でも使われている例を示した絵巻の1シーンなんですが、そのシーンとは「子供の喧嘩に親が出てくる」というもの。子供の小憎たらしい顔に蹴られた子供の体のしなり具合、喧嘩を見物している通行人の様子がまさにコミカル。

実はデフォルメやコミカルな表現とは、日本人のDNAに深く刻み込まれており、古代からずっと今まで続いているのではないかと思えてきました。