今日は山形県米沢市の米沢上杉博物館にて開催されている「ロイヤルコペンハーゲンと北欧デザインの煌めき」を見に行ってきました。

山形ではアール・ヌーヴォー、アール・デコ期の美術作品の展覧会が多く開催されますが、それはその当時まさに山形が西洋建築てんこ盛りで近代化し、その当時の建築の一部が今も残っているから、地域の歴史と雰囲気に合っているからかもしれません。




米沢のゆるキャラのかねたんはキャラクターとして完成度が高いですね。ひこにゃんのスター化以降全国各地で兜をかぶった何かのゆるキャラが大増殖しましたが、その中でもかなり良い方だと思います。ちなみに宮城県は穀物の塊が兜をかぶってる。


米沢市上杉博物館は移動式能舞台もあり演劇やコンサートにも対応できるホールを備えた複合文化施設でした。常設展も充実しており、しかも城跡の公園近くで高速バスを含む各種のハブでもある最強の立地。



この展覧会はデンマークとスウェーデンの主要な陶器、銀器、ガラスメーカーの名品を展示するというものでしたが、これの凄いのは展示品が皆個人のコレクションなこと。つまり普段は門外不出で美術館や博物館でも見られないものばかり。この企画展のために借りられた貴重品で、それを800円で見られたのは本当にお得でした。






まずはロイヤルコペンハーゲン。18世紀に王立磁器製陶所だったのが19世紀に民間譲渡され、当時の美術監督がイタリアのマジョリカ陶器の製法を学びながらもジャポニズムに傾倒しており、それが融合して白地に青い染付で草花の唐草模様を描く「ブルーフルーテッド」デザインを確立。以後ブランドの定番デザインとなり、さらに口縁を繊細なレースで表現する技法と組み合わせ、世界中で愛されるようになりました。絵付けだけでなくレース部分を割らずに焼く技術も凄い。




これは草花をザイン的に描くのではなく、線の強弱や青の濃淡で草木そのものを絵のように描く「ブルーフラワー」。ただしこちらは2016年に廃盤になり今はもう生産されていません。これは20世紀初期の貴重なアンティークで実際に使われていたもの。なので欠けや擦り傷、汚れもあるんですが、生活感が感じられてこれはこれで良いのではと思います。



あと青以外で染付したり、口縁を金で縁取ったものもあり。ここら辺はノリタケの影響があったかも。







ロイヤルコペンハーゲンといえば白地に青の染付というイメージですが、普通に造型力と描画力が凄くて、もう陶をキャンバスにした絵画作品。その作風がまた印象派的っぽかったり水墨画っぽかったりして、職人の作風と好みを感じます。




あと人面が付いたグロテスク様式からの影響が感じられるデザインもあったり。また人面自体のデザインも欧州にはないアジア的なもので、オリエンタリズムからの影響もあったのかもしれません。






またロイヤルコペンハーゲンはモチーフ選びが独特で、カタツムリを複数造型したり描いたりしたら流石に「気持ち悪っ!」って思われるだろうに敢えてやる。花瓶も花を生けるんだから蝶にすればいいものをわざわざ蛾にする。確かに虫をモチーフにするのはアール・ヌーヴォーで流行りましたが、にしたってこれにすることはねえだろ!ってのを持ってくる。





これは1900年のパリ万博でグランプリを獲得した磁器セットなんですが、ポットの蓋の取手がどう見てもデカい蝿。薄く繊細な口縁付近にエンボスでマーガレットの花をあしらったり、全体に淡いピンクの釉下彩を施したりと超絶技巧なのに嫌な虫を作る。虫はそれこそ日本の陶器の造型や絵付けでもモチーフにしていたし、それを食器にも用いていましたが、だいたい蝶とかトンボ、カゲロウ、蜂で、カタツムリも一匹だけならまあかわいい範疇だと思いますが、それを踏まえて嫌な虫持ってくるのは19世紀の露悪趣味ともいえるのでは。




この展覧会のタイトルにロイヤルコペンハーゲンとあるんですが、実際にはそれ以外のメーカーの品もありました。これらは同メーカー所属の職人2人が独立し設立したビングオーグレンダールの品。双頭の鶏に羽が一本ふんわり描かれているのが良いです。







というかこのメーカーは鳥の彫刻と描画がむちゃくちゃ上手い。金彩のデザインや風景画のあしらい方は、日本の陶器の影響を受けながらもしっかり咀嚼して独自の作風にしていることが分かり、日本的なものを客体化して消費するジャポネネズリーからジャポニズムに進化・深化していることがうかがえます。








あと植物も上手く、彫刻と染付が完全に調和しています。ロイヤルコペンハーゲンのレースから発展したような透かし彫りに立体的な葉っぱや花弁の彫刻表現。陶器製作の職人と染付の職人は別なんですが、ちゃんと連携できていた製作現場だったんだなとよく分かります。






こちらは今はアクセサリーブランドとして知られるジョージ・ジェンセンの銀器たち。この「金属で自然のものを作る」のがド直球でアール・ヌーヴォー。





デンマーク・デザインの黄金期は1950〜70年代とのことで、有機的な形態のオーガニック・モダニズムなデザインが特徴。それは硬い素材で自然を表現するアール・ヌーヴォーからさらに発展し、曲線を多用した柔らかいラインにより幾何学的で理性を重視する従来のカチッとしたモダニズムから脱却しました。この時代はフォーマルとカジュアルの区別が徐々に曖味になっていき、かつヒッピームーヴメントやサイケデリック、アール・ヌーヴォーリバイバルもあり、それらと北欧デザインも実は繋がってたりするんですよね。ちなみにアール・ヌーヴォーリバイバルはサイケデリックアートにもかなり影響を与えており、曲線を多用したなんかうにょうにょした感じや丸っこいフォントなんてまさにアール・ヌーヴォー。それがドラッグが見せる極彩色と混ざってあんな感じになっていったんですね。



これらは各メーカーのフィギュリン(FIGURE)。もともとのルーツは中世の正餐(ディナー)での鑑賞用の料理。主催者の富と趣味を象徴する飾りとして砂糖菓子細工で作られていたものが、陶磁器に置き換わっていったとか。



それにしても犬の耳や鳥の羽など薄い部分が割れずに焼成できているのが凄い。あと染付も釉薬も、塗ってる段階では最終的にどういう仕上がりになるのかわからないのに、見事に色彩や濃淡のグラデーションが焼き上がっているのも凄い。もはや化学反応とのコラボレーション。


なお北欧でのフィギュリンの歴史は18世紀後半のロイヤルコペンハーゲンだそうですが、帝国主義からのオリエンタリズムな作品があるのが時代の限界か。ただそれはそれとして出来はむちゃくちゃ良い。指もよくぞ割れずに焼成できたもんだし、腰布の模様の描き込みが細かい!



ロイヤルコペンハーゲンの眠り猫が、京都の錦光山宗兵衛窯の眠り猫に影響を与えていたとのこと。ジャポニズムの影響を受けたロイヤルコペンハーゲンが今度は日本のメーカーに影響を与えるってまさに文化交流。






こちらはデンマークではなくスウェーデンの陶器メーカーのロールストランドのアンティーク。ここはモチーフ選びと彫刻がジオラマ的で、作品の中世界観が出来上がっています。特に筆皿なんて、実際に使ったら生き物のいる水辺にペンを浸している気分になるかも。









なお、絵付けはかなり日本画からの影響がうかがえますが、淡い筆致で幽玄美を感じさせます。







最後はガラスメーカーの作品の展示でした。これはスウェーデンのガラス食器メーカーのコスタのアンティーク。1950年代の作品とは思えないくらいモダンでタイムレスなデザイン。





こちらもスウェーデンのガラス食器メーカーのオレフェスのアンティーク。ラムセス2世の顔の花瓶と裏表で彫刻が異なるグラスやデキャンタ。裏表の模様は遠近法に基づき空間や距離を表現しており、飲み物を注ぐとそれを海や川に見立てて鑑賞できるというデザイン。



それにしても再加熱でガラスを積層し色ガラスのグラデーションや気泡自体もデザインにしてしまう技法と表現力は本当に凄い。つくづくこれらを800円で鑑賞できたのはお得でした。キリよく1000円で設定してもいいレベルだったと思います。米沢市太っ腹!




あとキャプションで印象的だったのは、19世紀の時点で男女が同じ空間で同じ作業をし一緒に働いていたこと。確かに当時は所謂職業婦人が出始めてきた頃ですが、他の欧州列強では働いている女性はもともと貧乏人もしくは没落令嬢とされていました。なのに北欧では美術工芸の女学校が設立され、教育で女性の職人やデザイナーを増やして即実戦投入したため、19世紀から同地域の美術史に名を残す女性作家を輩出しました。加えて凄いのは、パリ万博で評価された!となったら速攻でパリやロンドンに直営店を出店して製品のグローバル展開を行うことと、作り手自らも易々と拠点を北欧以外に移すこと。



夫婦でデザイナーをしていて、旦那に先立たれた後に自身の拠点をコペンハーゲンからロンドンに移す、スウェーデンからフランス、ドイツ、インドネシアと拠点を次々に移動させるなどなど。こういうのを見ると、北欧人は基本的にヴァイキングの時代の頃から気質が変わっていないのではと思ってしまいます。以前ヴァイキングは「男が出稼ぎに行って稼ぎを故郷に持ち帰る」形式だったとされてきましたが、近年明らかに戦傷の跡があり埋葬形式と副葬品がヴァイキング戦士の女性の遺骨が発見され、ヴァイキングは男女どちらも戦士で、なんなら一家総出で出稼ぎに行き、故郷に稼ぎを持ち帰ったり、良さそうな村があったら皆殺しにして乗っ取って移住していたという説が出てきています。その活動の根底にあるのは「とにかく寒くて痩せた土地で人口も少ないから男女云々言ってる場合じゃねえ!みんななんかやって稼げ!外に行って取ってこい!」という厳しい環境故の切羽詰まった事情とか。つまり性別による役割分担や内向的気質というとは、食料豊富で住みやすい環境で人口が多いところの贅沢なんですよね。人口が少なく厳しい環境ではそんな贅沢は言ってられない!が、結果的に性別による役割分担をなくし速攻で外に打って出るバイタリティを育んだとはまた皮肉な話ではあります。


…と、このように北欧デザインのみならず北欧の歴史も一緒に振り返って学べる良い展覧会でした。つくづくこれが800円で見られたとはお得過ぎる。