フランスのヴェルサイユ宮殿の写真集です。

ヴェルサイユ宮殿はルイ14世によって建設された宮殿ですが、完成後も王家の代替わりの度に増改築されており、実は結構いろいろな様式が混ざった多彩な建築物であることがよく分かる写真集です。

 

まず、建設されたルイ14世の治世の様式はバロックで、華美であるもののまだカッチリスッキリしたデザインが目立ちます。

 

建物自体の装飾だけでなくこんな調度品の写真もあり。

 

 

 

建設を命じたルイ14世の装飾。ルイ14世は自身を太陽神ヘルメスになぞらえ「太陽王」を自称していたため、とにかく太陽のモチーフの装飾が多いです。

 

そして次のルイ15世の治世になると、バロックからロココに様式が変化し、また同様式の装飾が加えられていきます。ロココ様式は太宰治の「女生徒」にて「華麗のみにて内容空疎の装飾様式」と書かれるほど、要するにド派手でチャラい様式ですが、フランス王政が打倒され民主化、工業化、大量消費社会の到来の後も何度もリバイバルされ、現在に於いてもゴスロリ、ロリータスタイルの源流として生き続けている息の長い様式です。

 

こちらは後のルイ16世とマリー・アントワネットの結婚の際に大ホールに加えられた装飾。フランス王家の紋章であるフルール・ド・リスはよく「百合の花」とされていますが本当は菖蒲で、菖蒲の花言葉の一つは「天の使い」。そのフルール・ド・リスをさらに花言葉どおり天使が守っているという装飾です。

ルイ15世にしてみれば孫夫婦とフランス王家の行く末を守って下さいという願いを込めた装飾だったのかもしれませんが、その願いは叶わなかったのでした。

 

そしてこちらがマリー・アントワネットの部屋。よく見るとエジプトっぽい装飾があったりと、ロココ一色ではない様々な様式が混ざったインテリアであることが分かります。

あとマリー・アントワネットは、シノワズリーが流行していた時代にいち早く日本の美術・工芸、その中でも特に漆芸を高く評価していた人物で、写真の中でテーブルに乗っているのは全てマリー・アントワネットが所持していた日本の漆芸の調度品だそうです。

 

そのコレクションの傾向を見ると、ヴェルサイユの自分の部屋に調和するデザインのものを選んでいることが分かり、もっと派手で華美なものを入手することもできただろうに、確かなセンスの持ち主だったことが窺えます。

 

 

 

こちらは、マリー・アントワネットが親しい友達や家族と所謂”農家ごっこ””田舎ごっこ”をしていたというミニ農園「プチ・トリアノン」。プチ・トリアノンはよくマリー・アントワネットの遊びとしてのミニチュア農園だったと揶揄されますが、そもそも彼女の母親だったマリア・テレジアは「人の上に立つ人間は下々の者のやっていることも知っておかなければならない」という教育方針で、子供達に裸足で外を駆け回って遊ぶことを奨励したり、牛の乳しぼりを体験させたりといったことをしていたとか。

それを鑑みると、マリー・アントワネットは子供の頃にやって楽しかった思い出を、今度は自分の子供達や友達とやってみたかったのかもしれないとも考えられます。果たしてそれはただの「お遊び」と揶揄していいものか?ちなみにプチ・トリアノンのプチ(Petit)は、英語ではただサイズが小さい、なんか小さくてかわいいやつという意味ですが、もともとのフランス語では「愛すべきもの」という意味も含まれています。

マリー・アントワネットにとって、プチ・トリアノンはただのミニ農園ではなく、故郷での子供の頃の思い出を再現した「愛すべき」ものでもあったのかもしれません。