今改めて読むと思わず「生温か~い目」になる本を読みました。

 

2011年に刊行された本ですが、9年経過した今読むと「こんな録でもないことがあったなあ…」と炎上案件の1つ1つを懐かしく思い出すと共に、それらが2011年以前の出来事だったことに愕然とします。まだ企業がSNSを「新しい広告展開の場」としか認識していなかった、良く言えばおおらかな、悪く言えば舐め腐った時代の空気が伺え、一種の「インターネット史」としても楽しむことができます。

 

本書は2011年までにインターネット上で発生した国内外の炎上事例30件の顛末を紹介した本です。TwitterやFacebook、Youtubeといったソーシャルメディアが全盛になる以前、ネット炎上は主に2ちゃんねるで発生していました。しかしソーシャルメディアが生まれ、そのユーザーが増えるに従い企業および属する人々が”やらかして”から炎上するまでのスピードが加速。それまでには想像もつかなかった速さで情報が拡散し、人の人生を狂わせるほどの大騒動へと発展するようになりました。そのきっかけは、本人にとっては他愛もない有名人の目撃情報やイキった暴言、アホな悪ふざけといった個人に端を発するものから、企業がそれなりのリソースを割いたもののソーシャルメディアに対する認識が甘かったためやらかしてしまった失敗と大小様々。しかしいずれも迅速に収束させ挽回できたケースにはある共通点があります。それは「初動対応の迅速化」。とにかく一刻も早く謝罪プレスリリースを出す。それもPDFではなくhtmlのwebページで公開し、さらに各ソーシャルメディアの企業公式アカウントでも個別に謝罪を出し、広告手法が原因なら即座に中止する。それにより、むしろ炎上をきっかけに企業のイメージを向上させることも可能となります。実際、特定のキーワードで片っ端からTwitterで宣伝リプライをツイートしたUCCはその対応の早さを称賛するツイートが投稿されたほどでした。逆に、「ネット上の勝手な意見なんてどうってことない」「ほっときゃそのうちみんな忘れるだろう」と事態を過小評価し放置・無視するのは悪手中の悪手です。本書では炎上後各社がどのような対応を行い、どのような結果になったかまで追っており、その過程から他山の石として学べるような構成となっています。

 

その中で江崎グリコとAKB48のコラボ広告は「狙いが外れてあわや大炎上というところまで行ったが次弾の広告で逆転した」という非常に特異な事例でした。2011年6月、江崎グリコはAKB48のメンバーの顔のパーツを合成してフォトリアルなCGを作成し、架空の新メンバー「江口愛実」を作成・公開する新商品プロモーションを行いました。同社は一定期間引っ張った後に「実はCGでした!」とネタばらしをする予定でしたが、AKB48のファンの審美眼は鋭く、公開から1日で「メンバーの顔パーツを合成したCG」であることが見破られ、あわや”やらせ”と炎上か?と不穏な空気が漂うものの、その後福笑いのようにメンバーの顔パーツを組み合わせて遊べる企画ページ「押し面メーカー」を公開したことで一発逆転。ソーシャルメディア上でおおいにバズり、見事広告としての役割を全うしました。

 

 

 

 
早々に「既存メンバーの顔パーツの合成」であることを見抜かれ一旦不穏な空気が流れてからの公開、さらに自分の顔で変顔を作られても大丈夫なお笑い耐性のあるメンバーがAKB48にいたこと、バズってまとめ化されるまで変顔を作った人が多数現れたこと…その全てが偶然ですが、これが絶妙に噛み合って一発逆転という奇跡が起こるのもまたソーシャルメディアなんですよね。
 
本書では2011年までの事例を紹介していますが、ご存じのとおりその後もソーシャルメディア上での炎上事件は後を絶たず、むしろその規模や事例の種類はどんどん拡大しています。ソーシャルメディアは既存のWebサイトと異なり、例え企業・団体の公式アカウントであっても、1ユーザー=一個人として他のユーザーと円滑なコミュニケーションを行わなければなりません。炎上が未だに無くならないのは、そうしたコミュニケーションの場であるという認識がまだ浸透していないこと、またコミュニケーションの場だということを分かっていてもその適切な距離感を掴むことが難しいことに起因していると思います。オンライン/オフラインのいずれにおいても人付き合いが一番難しく、その中で宣伝活動を行うことは更に難しい。本書を読み、ソーシャルメディアの出現は広告業界において歴史的な転換期だったのではないかと思いました。