今日も今日とて近所の映画館「仙台フォーラム」のレイトショーでドキュメンタリー映画「ようこそ、革命シネマへ」を鑑賞しました。本作は、度重なる混乱により映画文化が失われてしまったスーダンを舞台に、映画館復活を目指して活動する古老の映画人の姿を追った作品ですが、ラストの展開により第一級の政治映画になっていました。
 
本作の主人公は、同国の独立直後にそれぞれロシアやドイツ、カナダなどへ留学し映画製作を学んだ映画監督・プロデューサーのイブラヒム、スレイマン、エルタイブ、マナルの4人。彼らの作品は海外で高く評価されアワードも受賞し、母国に映画文化を根づかせるため1989年に映画製作集団「スーダン・フィルム・グループ」を設立します。ところが同じ年にイスラム急進派によるクーデターが勃発し軍事独裁政権が成立。言論の自由をはじめ様々な表現の自由が奪われ、かつて彼らが製作した映画も発禁処分となり、新しい映画を撮影すること自体も禁止されてしまいました。そのため彼らは思想犯として拘禁されたり、国外への亡命を余儀なくされ、さらにその間にも史上最悪と言われるダルフール紛争が勃発、2011年には南スーダン独立と混乱が続き、今も多くのスーダン人が難民として世界中に散り散りになっています。
そんな長い混乱を経て、最近になって4人は母国に帰り再開します。しかしスーダンの映画産業は既に完全崩壊しており、かつての大型映画館も廃墟となり、彼ら自身も還暦を過ぎた老人になってしまいました。それでも彼らは映画文化の復活のため、その第一歩として廃墟となった映画館を一夜だけ復活させて上映会を開催することを目指し行動を開始します。
 
本作を劇的にしているのはその終わり方です。こうした映画の場合、誰もが最後に上映会が成功してめでたしめでたし…という大団円を想像するでしょうし、当然作り手もそれを願っていたでしょう。でもそうは問屋が卸さないのが現在進行形の軍事独裁政権。もうネタバレになりますが、彼らの活動は政府に目を付けられ、最後の最後で実にくだらないお役所仕事で妨害され全て水泡に帰してしまうのです。

 

 

それでも本作に悲壮感がないのは、どんな障害があっても気楽に構え、陽気に冗談を飛ばし合う主人公たち個々のタフな性格故でしょう。

 

本作は声高に現スーダン政府を批判してはいません。でも主人公4人の日常を淡々と描きつつ、その中にラッシュのように彼らのの経歴や現在製作中の作品たち、市井のスーダン人の姿を挟み込むことで、いかに政府のせいでスーダンから多くのものが失われているかを浮かび上がらせています。普段主人公たちは、映画文化復興のために各地の村で名作映画を上映する「移動野外映画館」の活動を行っているのですが、そこで上映していたのはチャップリンの「モダンタイムズ」。なんだこの「ジョーカー」との不思議なシンクロニシティ。

 

 

 

 

で、電気もまともに通っていない田舎の村の広場にスクリーンと映写機を設置して「モダンタイムズ」の上映を開始すると、子供から大人まで皆が楽しんでおり、この時点でスーダン人の地方民にも映画の審美眼があることが伺えます。また、主人公たちが「映画館が復活したらどんな映画が観たい?」と近隣住民にアンケートを取った際、みんなどんな映画が好きか?どんな映画がウケそうか?を語ることができていました。今時スーダンにだってスマホやインターネットはあるので、映画自体はアマプラなりネトフリなりで観ることができますが、ある若者は言います。「映画館があったら毎日通う。友達と映画を観て感想を言い合えるから。家で一人で観るより絶対良い」と。スーダンの国民自体は映画も映画の楽しみ方も知っている、なのに独裁政府がそれを許さない。もし自由に映画を作ったり上映したり鑑賞することが許されたら、一体どれだけ多くの人々がその楽しみを共有できるか、それによりいかに魅力ある映画とその市場が生まれるか、雇用が創出できるか、次世代のクリエイターが生まれるか……そんな可能性が現状ではほぼ0。まさに焼野原。

 

……ただ、鑑賞後に冷静になって改めてなぜ彼らの活動が政府に妨害されたのか考えると、そもそも復活映画館に「革命シネマ」という名前を付け、おまけに上映作品にタランティーノ監督の「ジャンゴ 繋がれざる者」を選んだせいなのでは?という気がしてきます。というか、軍事独裁政権に睨んで下さいと言わんばかりだろ!近隣住民に対し「どんな映画が観たい?」とアンケートを取って、「最初はみんな楽しめるアクション映画が良いと思う」という意見を聞いて、普通「じゃあタランティーノの『ジャンゴ 繋がれざる者』にしよう!」と考えるかよ!でもまあアフリカの小国の還暦過ぎの老人が「ジャンゴ 繋がれざる者」を思い付いている時点で映画ファン的には最高オブ最高ですが。

 

 

 

流石の作品選びのセンスだし革命っちゃ革命。

 

あと、スーダンでの中国、韓国、インドの影響力もさり気なく伺い知れるのも面白かったです。スーダン人が使うスマホとPCは韓国製で、中国企業がスーダンの土地を押さえて投資しており、スーダン人の知る映画はインド映画。日本なんて影も形もありゃしない。とりあえずJICAはどうにかしてスーダンの映画文化復興に協力するべき。