そんな長い混乱を経て、最近になって4人は母国に帰り再開します。しかしスーダンの映画産業は既に完全崩壊しており、かつての大型映画館も廃墟となり、彼ら自身も還暦を過ぎた老人になってしまいました。それでも彼らは映画文化の復活のため、その第一歩として廃墟となった映画館を一夜だけ復活させて上映会を開催することを目指し行動を開始します。
それでも本作に悲壮感がないのは、どんな障害があっても気楽に構え、陽気に冗談を飛ばし合う主人公たち個々のタフな性格故でしょう。
本作は声高に現スーダン政府を批判してはいません。でも主人公4人の日常を淡々と描きつつ、その中にラッシュのように彼らのの経歴や現在製作中の作品たち、市井のスーダン人の姿を挟み込むことで、いかに政府のせいでスーダンから多くのものが失われているかを浮かび上がらせています。普段主人公たちは、映画文化復興のために各地の村で名作映画を上映する「移動野外映画館」の活動を行っているのですが、そこで上映していたのはチャップリンの「モダンタイムズ」。なんだこの「ジョーカー」との不思議なシンクロニシティ。
で、電気もまともに通っていない田舎の村の広場にスクリーンと映写機を設置して「モダンタイムズ」の上映を開始すると、子供から大人まで皆が楽しんでおり、この時点でスーダン人の地方民にも映画の審美眼があることが伺えます。また、主人公たちが「映画館が復活したらどんな映画が観たい?」と近隣住民にアンケートを取った際、みんなどんな映画が好きか?どんな映画がウケそうか?を語ることができていました。今時スーダンにだってスマホやインターネットはあるので、映画自体はアマプラなりネトフリなりで観ることができますが、ある若者は言います。「映画館があったら毎日通う。友達と映画を観て感想を言い合えるから。家で一人で観るより絶対良い」と。スーダンの国民自体は映画も映画の楽しみ方も知っている、なのに独裁政府がそれを許さない。もし自由に映画を作ったり上映したり鑑賞することが許されたら、一体どれだけ多くの人々がその楽しみを共有できるか、それによりいかに魅力ある映画とその市場が生まれるか、雇用が創出できるか、次世代のクリエイターが生まれるか……そんな可能性が現状ではほぼ0。まさに焼野原。
……ただ、鑑賞後に冷静になって改めてなぜ彼らの活動が政府に妨害されたのか考えると、そもそも復活映画館に「革命シネマ」という名前を付け、おまけに上映作品にタランティーノ監督の「ジャンゴ 繋がれざる者」を選んだせいなのでは?という気がしてきます。というか、軍事独裁政権に睨んで下さいと言わんばかりだろ!近隣住民に対し「どんな映画が観たい?」とアンケートを取って、「最初はみんな楽しめるアクション映画が良いと思う」という意見を聞いて、普通「じゃあタランティーノの『ジャンゴ 繋がれざる者』にしよう!」と考えるかよ!でもまあアフリカの小国の還暦過ぎの老人が「ジャンゴ 繋がれざる者」を思い付いている時点で映画ファン的には最高オブ最高ですが。
流石の作品選びのセンスだし革命っちゃ革命。
あと、スーダンでの中国、韓国、インドの影響力もさり気なく伺い知れるのも面白かったです。スーダン人が使うスマホとPCは韓国製で、中国企業がスーダンの土地を押さえて投資しており、スーダン人の知る映画はインド映画。日本なんて影も形もありゃしない。とりあえずJICAはどうにかしてスーダンの映画文化復興に協力するべき。