ナショナルジオグラフィックによる、実在・架空問わず「ロボット」の歴史を形作ってきたロボットたちをざっくり100体ピックアップしてその概要を紹介する本です。技術的な内容ではなく、そのロボットが登場する作品や、開発の経緯、特長などが端的にまとめられており、ロボット開発に関わっている人でなくても娯楽本として楽しめる内容でした………が、一つだけ気に入らない箇所があります。それは
 
ドラえもんがいない
 
鉄腕アトムや鉄人28号、ASIMO、AIBO、学天則を紹介しておきながらドラえもんがいないとは片手落ちにも程がある!まったくナショナルジオグラフィックにはガッカリだ!ということで、アメリカ人向けのドラえもん布教の必要性を実感した本でもありました。
 
まあドラえもんがいないのが不満ではありますが、それ以外のロボットのチョイスが絶妙で、特にレトロフィーチャーテイストが好きな人にはたまらないラインナップとなっていました。個人的にグッときたのは以下↓

 

1956年製作のSF映画「禁断の惑星」に登場するロビー・ザ・ロボット。人が操縦するロボットではなく、自分の意志と人格を持つ自律型ロボットというキャラクターで、ロボットとして初めて「俳優」としてクレジットされ、映画データベース「IMDb」にも俳優として掲載されています。「禁断の惑星」以外の作品にもゲスト出演するなど、文字通り俳優として活躍しました。彼はポップカルチャーから科学者まで広く影響を与え、リリースされた玩具やフィギュアは数知れず。頭が半透明になって内部が見えるデザインなんて、50年代とは思えないくらい先進的なデザインです。

 

 

「宇宙家族ロビンソン」の環境観測ロボットB-9(フライデー)。名前の由来は「ロビンソン漂流記」の従僕フライデーより。先のロビー・ザ・ロボットの後継とも言える存在で、1960年代の人気ロボットでした。家族のお手伝いさん的な存在ではありますが、一家の長男と親友のような関係になっており、従僕というよりは機械じかけの家族というドラえもん的ポジションのロボットです。

 

古代中国の道家思想の文献「列子」に記されている偃師が作ったとされるロボット。何分紀元前の文献に書かれていることなので実在したかどうかは不明ですが、周の穆王のとき、ひとりでに踊る人形を作ったという名工とのこと。このロボットは人間の男そっくりで、顎に触れることで歌を歌い、手に触れると舞を舞ったそうですが動いているうちに王の側室に色目を使うようになったため、大慌てで偃師が人形の皮をはいだところ、内部は革や木、にかわ、顔料でできていたそうです。材料がやけに具体的なところに信憑性があります。おそらく王の謁見シーンは尾ひれが付き、実際に当時からオートマタを作る技術者が存在したのでしょう。

 

 

 

出ました真打!SF映画の原点にして最高傑作「メトロポリス」のマリア。これに一体どれだけの人、どれだけの作品が影響されたことか。「メトロポリス」およびマリアに関しては既に過去記事で触れているのでそれをご覧下さい。本書によれば、マリアのスーツを作る際、女優の体を石膏で直接型取り、それをベースに木工パテで細部を造型しスプレーでゴールドに塗装したとのこと。この造型手法自体現代に先駆けており、本当に革新に満ちた作品だったことが伺えます。

 

過去記事:

 

 

 

スチームパンカー大歓喜!スチームパンク作品「ボイラープレート:ヒストリーズ・メカニカル・マーベル」に登場する蒸気機関のロボットです。

もう手ぬぐいを首に巻き付け麦わら帽子のようなヘルメットをかぶっている芋臭さ炸裂なデザインがたまらない!まあ今見ると厚い唇を思わせる口が、一緒に写っている黒人労働者を模しているようにも見えデザインがアウトになりそうな気もしますが、そうした点も含めてレトロ感が貯まりません。ロボットは「労働」を意味するチェコ語「ロボタ」が語源で、生まれた当時より人間の奴隷や従僕という設定だったことを踏まえると、実に意味深なデザインでもあります。

 

中国北宋の蘇頌が1092年に設計した世界最初とされる天文時計「水運儀象台」です…って、これもロボットのうちに入るんでしょうか?厳密には古代のスーパーコンピューターのような気もしますが。これは世界初の自動環状天球儀で、チェーン駆動の技術を用いているのが特長。時刻を知らせる際、打楽器や自国を書いた札を持ったからくり人形が正面に現れたというから、オートマタやからくり時計に通ずる要素を持っていたマシンと言えます。

 

ヨーロッパが暗黒の中世時代を迎えていた頃、中東はローマ帝国時代の文明を引き継ぎ文化や学問を発展させ、現代の生活にも繋がる程の研究や発明を続々と生み出していました。風車、アルコールの蒸留、石鹸、シャンプー、コーヒーが生み出され、それらがマーケットで取引され、既に中世から一日三食の習慣も始まったとか。「アル・ジャザリーの精巧な発明品」は、おそらく中東初のヒューマノイドで、しかも「作ってみた」という開発者の開発意欲だけで作られたのではなく、「日々の生活を機械化する」という明確な目標ありきで作られました。それは現在の水洗トイレと同じ仕組みで作られた自動手洗器で、レバーを引くと女性の自動人形が水差しから手洗器の中に水を注ぎ、手洗器が水で満たされると石鹸とタオルを持った召使の自動人形が現れるなど。こうした古代の発明の多くは設計図も含めて今は全て失われているものですが、なんとアル・ジャザリーは発明品の設計を著書にまとめて出版しており、それを基にした巡回展も開催されているそうです。

 

万能のルネサンス人レオナルド・ダ・ビンチもまたロボットを開発していた人でした。彼は1495年に解剖学や運動生物学の知識を活かして甲冑の中に機構を組み込みロボット騎士を製作。そのメカニズムは上半身と下半身で別れており、外側に付いているハンドルで操作できたとか。下半身は足首、膝、腰が動き、上半身は手、手首、肘、肩、顎が動くというもので、他のダ・ビンチ作品と同様長年その設計図は失われた状態でしたが、1950年代に学者のカルロ・ペドレッティがダ・ビンチの手稿の断片を繋ぎ合わせて”おおよそ”の機構の内容を再現。さらにそれを基に1990年代にロボット開発者のマーク・ロスハイムがモーター稼働式にして実際にロボット騎士を再現しました。ちなみにこのダ・ビンチのロボット騎士の機構は現在NASAで使用されているヒューマノイド「ロボノート」に応用されています。21世紀のロボットにも応用されるとは、ダ・ビンチの先見性恐るべし。

 

はい!またスチームパンカー大歓喜なやつが来た!スチームパンク小説「スチームマン・オブ・ザ・プレーリーズ」に登場するスチームマンです。世界初の自走式の乗り物で車を曳く、つまり馬の代わりの仕事をする蒸気機関のロボットです。人力車ならぬロボット力車。胸腔に3馬力の蒸気エンジンを搭載し、煙は帽子の形状の煙突から排出。顔は口髭を蓄えた紳士風で、背負ったナップザックの中にも機械が組み込まれているという、スチームパンクど真ん中を行く仕様となっています。

 

1928年に開発された欧州発のヒューマノイド「エリック」。イギリスの模型技師協会の展覧会で、当初予定されていたヨーク公の出席が見送られて開会のスピーチを行う人物がいなくなり、その苦し紛れの”代打”として、また新たな目玉として急遽開発されたロボットですが、座席から立ち上がってお辞儀をし、左右に顔を向け、手を振り、客席に向かって4分間のスピーチをするというアクションを見せたところ大評判となりました。スピーチは実際には胸に内蔵されたスピーカーを通して舞台裏から人間が喋っていたそうですが、1928年当時でこんなのを見せられたら誰だって驚くでしょう。こうして人気者になったエリックは、イギリスを越えてヨーロッパ各地、およびアメリカ、オーストラリアを巡回してこれまた大評判となり、映画人や小説家といったアーティストにも多大な影響を与えました。

 

そして日本のロボット史はこれが無ければ始まらない「学天則」!なんと開発年はエリックとわずか1年違いの1929年。当時のメディアのスピードや開発期間を考えたら、影響された云々ではなく世界同時多発のシンクロニシティでしょう。これを開発したのは俳優・西村晃氏の父であり「日本のレオナルド・ダ・ビンチ」と呼ばれる万能の人・西村真琴氏。氏は「美的なロボットを産業の奴隷状態から開放する試作品」として学天則を開発し、昭和天皇即位記念として開催された展示会に出品しました。内部が空気で膨らむ仕組みになっており、金色のゴム製の顔の表情を変えたり、頬や胸を膨らませたり、頭や腕を動かすことができたほか、左手に持つ霊感灯(インスピレーションライト)が光ると右手に持ったペンで字を書き、頭上の鳥のロボットが鳴くと目を閉じて瞑想を始めたりと自然な動きをしたそうで、そのあまりの神々しさに手を合わせて拝む来場者もいたとのこと。これもエリックと同様に大評判となり日本を越えて世界中で巡回展示されましたが、1930年代にドイツで行方不明となってしまいました。
なお、学天則は荒俣宏さんの「帝都物語」に登場し、さらに映画版にも登場したことで一躍知名度を獲得したロボットでもあります。奇しくも映画版で西村真琴氏を演じたのは息子の西村晃氏でした。

…とまあ心躍るロボットがたくさん紹介されているのでアート&クリエイティブ系のクラスタの人にもオススメです。