人気彫刻家の田島享央己さんの初の著書です。体裁は一応作品集のようではありますが、田島さんによる作品解説や製作工程、さらには日常のエッセイのような読み物部分も非常に読み応えがあり、またその文章一つ一つが猛烈に面白く、ただのアーティストの作品集を越えた面白さがあります。勿論彫刻作品はいずれも素晴らしいのですが、本の内容以前に著者プロフィールから既に面白い作品集はおそらくこれだけなんじゃないでしょうか。文章の作風はオモコロのライター陣に通ずるものがあります。ということでオモコロの文章センスが好きな人なら初見で気に入ること間違い無しです。

 

本書の中で、田島さんおよび奥さんは自嘲気味に「売れないインディーズ彫刻家」と書かれていますが、実際はそんなことはなく、受賞歴も多数で田島さんが運営する彫刻教室は受講待ちができるほど人気で、作品は中国で贋作が作られるほど。来年にはニューヨークでの個展も予定されており、本書に掲載されている作品も現在ではそのほとんどが個人蔵となっており、実際に鑑賞することが難しくなっています。そうした作品を一度に見られる点でも、本書は非常に貴重といえます。

 

田島さんを一躍人気彫刻家にしたであろう代表的モチーフ「ピエタ」シリーズ。元ネタは勿論ミケランジェロの「ピエタ」ですが、それを生き物や野菜に置き換えているというなんともユーモラスかつかわいい作品群です。

 

もう写実とデフォルメのバランスが絶妙すぎる!ことハシビロコウの表情といったら。

 

あと田島さんの作品で特徴的なのは、玉虫色というかオーロラ色というか、なんとも言えない透明感と光沢を持った多数の色を内包した塗装。本書ではその塗装法とそれに込められた田島さんの哲学も解説されています。

 

この謎のポーズも最高です。

 

 

 

塗装はアクリル絵の具。玉虫色のように見えるのは下地塗装にゴールドを多用しているから。光沢は蜜蝋をアクリルブラシで木目に塗り込むことで現れるとか。蜜蝋は木の保護にもなりますからね。

 

 

木の「四角」の美しさを存分に引き出すためのモチーフ「豆腐」と「砥石」。これは彫刻家のブランクーンが、四角い石を指さしながら弟子に言った「この四角い石の強さと美しさに勝てるなら彫れ。勝てないなら彫るな」という言葉に触発されたものだとか。

 

あと印象にの凝ったのは、小さい娘さんのために作った木彫の玩具たち。残念ながら娘さんはこれに興味を示さず全部全力でブン投げたそうですが、なんとこれら全てが一木彫り。シンプルで可愛らしいデザインに騙されそうになりますが、これを一本の木から彫るには相当が技巧が必要です。特におでんとカニコロッケが凄い!あと、成長した娘さんが本書を見た時、どれほど父親の愛情を感じるだろうかと想像すると、その作品の裏にある家族ドラマまで見えてきて温かい気持ちになりました。

 

 

なお、本書は一貫して田島さんのかわいらしい彫刻とゆる~く面白い文章で構成されていますが、最後の最後に凄い一撃が待っています。

 

「人体製作工程」

これですよ。この造型力あってこそのデフォルメとかわいらしさ。

 

「粘土で小さいのを作ります。」この時点で既に凄い。ただゆるかわいい彫刻をしようと思ってもいけない、やはりデッサンと解剖学という基本をしっかり押さえていなければ、それを崩した作品もまた作ることはできないということがよくわかる良書でした。