ルネ・ラリック本の2冊目です。これも図書館で借りた本ですが、表紙の写真を撮り忘れました。

 

 

こちらはジュエリーデザイナーとガラス工芸作家のいずれものキャリアおよび作品をカバーした包括的な内容となっています。

 

まず凄いのが、彼と同時代に活躍したアーティストの活動歴年表です。

 

ラリック、ミュシャ、ティファニー、ドーム兄弟、ガレ、カルティエ、フーケ一族、ヴェヴェール一族がほぼ同じ時代にいるって一体何なんでしょうか。もうガチャの設定を間違えたとしか思えない。でも、こういう「多方面で規格外の天才が一気に出現する」という現象は世界史上で何度も起こっているんですよね。そしてそんなときに良くも悪くも時代が大きく変化するという。でも当時を生きていた当事者はおそらく「自分は今凄い時代に生きているんだ!」と自覚してはいなかったでしょう。後世が後から振り返り「あの時代は凄かったんだなあ」と思うから「凄い時代」になるのであって。

 

本書はほぼ全編カラーでジュエリー作品もガラス作品も全てカラーで見られるほか、ラリックの一生を作品を鑑賞しながら知ることができます。

 

 

ここらへんの作品はミュシャやベーレンスにも通ずるものがあり、またシャルパンティエのレリーフなどにも類例があるらしく、当時のアール・ヌーヴォーのトレンドを感じることができます。

 

しかしガレは自分のフィールドが「ジュエリー」という立体作品で「常に人に使われるもの」であることを活かし、他のジャンルでは絶対にできない「遊び心」を仕込んできます。例えばこれは懐中時計ですが、文字盤には蝶が彫刻されています。

 

ところが裏側には蝙蝠の彫刻と月光石。つまり表は「昼」、裏は「夜」を表しているんですね。立体で、人が手に持って毎日使用するものだからこそできる表現であり遊び心。当時懐中時計を持っていたのは男性のみだったそうですが、一体どんな洒落者がこれを買ったのでしょうか。

 

ラリックは14歳までは普通に学校に行き、象牙版に絵を描いて地元の商人相手に売りさばくほど美的センスと商才を発揮しますが、仲買商をしていた父親が突然亡くなったため経済的に困窮し、学校を辞めて働きに出なければならなくなります。しかい母親はせめて彼のセンスが生かせる職場へ…と考え、宝飾・貴金属の職人工房の見習いの口を探してきます。それが功を奏してラリックは早くから才能を発揮。さらに昼は工房で働き、夜は装飾美術学校の夜間クラスに通い知識と技術をより進化、深化させ、18歳でイギリスに留学し、産業革命真っ只中の空気に触れます。やがてそれは、「型」を作って「量産」するガラス工芸で生かされることになります。

 

ラリックはアール・ヌーヴォーを代表するアーティストとして認められますが、ファッション業界でコルセットの要らない服が開発され、それが広まったことにより彼のジュエリーは急激に時代遅れのものとされます。あくまでもジュエリーはファッションアイテムの一つであり、時代の流行に左右されるということが如実に分かる事例ですが、その際ラリックは齢50にしてガラス工芸作家へと転身します。

 

面白いのは、確かに活動フィールドは変化したものの、ジュエリー制作で培った技術をガラス工芸に転用し、それまでのガラス製品にはなかった表現方法を生み出していることです。「物」には寿命があるけれど「技術」に寿命はないという典型的な事例です。

 

これは香水瓶ですが、原型を彫刻して耐火石膏で型を作り、その中に素材を流し込むという、金属鋳造の技法をガラスに応用し、内側から形が透けて見える瓶を作っているんですね。その際の色ムラも敢えて「味」にすることで、量産品でありながらも一点もののようなレア感も出ています。もう工夫の塊。

 

晩年には、自動車のラジエーターキャップに取り付けるマスコットまで制作。このスピード感を具現化したような彫刻の見事さといったら!
 
ラリックの生涯を知ると、「時代に合わせて変化する」「知識・技術を他分野でも応用して新しいものを作る」「何歳になっても新しいことにチャレンジする」ことがいかに大事かよく分かります。